第9話 アンジュのピンチ!

「あー。なんかイマイチ。もっとちがう形にしよっかな」

 レオはプロペラが一つでき上ると、テスト用にりばしで作っておいた機体につなげ、ゴムをいて回り具合をためしては、何度も新しい物を作り直した。学はその間スマホで情報じょうほう仕入しいれて、レオにアドバイスをつづけた。

「形はプロペラらしければ、きな形にしていいらしい。大事なのは左右バランスなんだそうだ」


 いったい、いつでき上がるのかな?

 そろそろかな? そろそろかな?

 アンジュは二人の様子を、楽しみにながめている。


 飛行機はさわらせないと大騒さわぎしていたくせに、こうやって作っているところを見せられると楽しみになってきたらしい。

(べっ、別に、これはたんなる好奇心こうきしんであって、改造かいぞうゆるしたわけじゃないんだからねっ)


 しかしなかなかできあがる様子がないので、アンジュもいい加減かげんたいくつになってきた。

 2時間がぎたころ……

「もうつきあってらんない。ちょっとそのへん散歩さんぽしてくる」

 アンジュはカバンからひょいっと飛びりた。

「(一人で大丈夫か?)」

 と、学。

「(気をつけろよ)」

 と、レオ。

「みゃ~お」

 と、みーこ。


 みーこというのは、じいちゃんのねこだ。

 トコトコとあらわれたかと思うと、アンジュの所にやってきて、首根っこをパクッとくわえた。

「わっ! なに?」

「みーこだ。この前赤ちゃんんだんだよ。そいつらとまちがえてるのかな? ひまなんだったら、遊んでもらってくれば?」

「ちょっと待て。どこをどうすれば、わたしを子ねことまちがえる?」

 ぶらーんぶらーんとアンジュはくわえられ、裏口うらぐちへと運ばれていった。


「どこかに連れていかれたみたいだけど、いいのか?」

「みーこなら大丈夫だよ。たぶん庭でひなたぼっこだろ。あとで見に行ったら? かわいいぞ」


 裏口を出ると、小さな庭があった。土のにおいとまぶしい日差ひざし。初めての強い刺激しげきに思わず顔をしかめるアンジュ。

 ひなたぼっこと言うと聞こえがいいけれど、こんな所でのんびりしていたら、あつさにやられてしまうんじゃないだろうか?


 ぞっとするアンジュをみーこが連れていったのは、しげみからすずしい風が来る場所だった。トンットンッとみーこがジャンプして上がった先にはだんボールが置かれていて、中に子ねこが3びき。

(うーん。やっぱり子ねこの所に連れてこられちゃった。まあ、思ったより快適かいてきそうな場所でよかったけど)

 子ねこたちはむぎゅーとひっついて、ひるねをしていた。

(かわいいなぁ)

 そこにポイっとアンジュがほうりこまれた。子ねこはながらアンジュをけとばした。

「やったな?」

 アンジュは子ねことけり合いを始めた。


 ウィーンウィーン

 ガリガリガリガリ


 プロペラの形を書いた板をのこぎりでくりぬくと、レオはカンナとカッターでけずってあつみを調節ちょうせつした。重いプロペラをつけると、頭の重いバランスの悪い飛行機になってしまうし、飛行機全体の重さも軽い方がよく飛ぶので、なるべくうすくかるくする。あつみをきれいにそろえるために、最後はカッターではなくやすりを使って慎重しんちょうにけずった。


 真ん中にあなをあけ、じくに通して回してみる。ガタガタしていたら、気になるところをけずってバランスをととのえる。ゴムを何回かまいて手を離すと、スムーズに何回転なんかいてんもくるくる回った。

「学っ! 見てよこれ! ほらっ!」

 レオはうれしそうな笑顔で後ろをふり返った。じいちゃんが寄ってきて、「うまいこと作ったなぁ」と笑った。ところが学はどこを見ているかわからない方を向いて、真剣しんけんな顔をしている。

(どうしたんだろう。ダジャレでも考えてるのかな?)


「なんか、変な音聞こえないか?」

 学が言う。

 言われてレオは耳をすます。バタンバタンと何かがあばれているような音。それからガァァガァァッという、ただならぬ声。

 レオと学は音のする方向をさぐるように、まわりを見まわした。

「「裏口うらぐちだ!!」」

 二人は急いで裏口に走っていった。外にはアンジュが――

「アンジュ! だいじょうぶかっ!?」


 二人が庭にかけつけた時、カラスが1バッサバッサという羽音はおとをさせて、ギャーギャーとさけびをあげていた。地面には段ボールがひっくりかえって、小さなねこが3びき「みー、みー」とちぢこまっている。その前に立ちはだかるアンジュが。子ねこを背後はいごにかくし、けんのような棒切ぼうきれをかまえ、自分より大きなカラスに向かって仁王立におうだちしている。


「ガアァッ」

 カラスがアンジュたちにおそいかかった。

「うぉりゃぁぁぁぁぁーーーーー!!!」

 アンジュは棒をふり回して、カラスの攻撃こうげきはらいのけた。棒をよけたカラスは飛び上がると、するどいツメとクチバシでふたたびアンジュにおそいかかった。


「こらー!!! なにしてんだよー!!!」

 レオはカラスを追いはらおうと、今まで出したこともないような大声を出して、無我夢中むがむちゅうでかけ出した。学も裏口に立ててあったかさをふり回しながらカラスへと向かっていった。カラスは二人のいきおいにびっくりして、となりの家の屋根やねへと飛んでげていった。


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