飛べない天使が降りてきたので、飛行機作りをはじめました!

宮 都

第1話 段ボール命の少年

 小学校から帰って来た玲央レオは、部屋がすっかり片づけられていることにさけび声をあげた。

「うわああああああ!」

 きれいになったことにとっても感動……したわけではない。なんと、大切な宝物がぜんぶなくなってしまっていたのだ。


 レオは小学4年生。工作が大好きな男の子だ。

 段ボールや空き箱みたいなガラクタからだって、すごい物を作ることができる。3年生の時には大きさのちがうドラムが5つもついたドラムセットを作った。一番大きなバスドラムは足で鳴らせるように、ペダルだって作った。2年生の時には、小さな手作りコインを入れると、ミニチュアのジュースが出てくる自動販売機なんてものも作ったことがある。

 そんなレオの工作たちが部屋からすべてなくなっていたのだ! それだけではない。作りかけの大作までもが……。


「ねえ、母さん! ここにあったものは!?」

 子ども部屋から階段の下に向かってさけぶと、リビングから顔を出した母さんが怖い顔で言った。

てたわよー! 自分でちゃんと片づけなさいって何度も言ったでしょー!」


 ええっ?

「ひどい! ひどいよ!」

「なに言ってるの。足のふみ場がなかったわよ? ゴミは取ってないでちゃんと捨てなさいね」

「ゴ、ゴミ!?」

 レオの母には、レオの工作のすごさがまったくわからないようだった。しかも人の物を勝手に捨てておいて、悪いとはまったく思ってない。


「こうなったら家出してやる!」

「ちょっと、レオ!?」

 レオは、いつも愛用あいようしている7つ道具の入ったカバンをかたから下げた。

 7つ道具。

 それは、えんぴつ、消しゴム、定規じょうぎ巻尺まきじゃく、はさみ、小刀、セロテープ、木工用ボンド、ドライバーセットのことである。え? 7つより多いんじゃないかって。まあそこはいいってこと。

 あと、ハンカチとティッシュは別カウントね。


 そして頭にゴーグルを装着そうちゃく

 このゴーグルを身につけると、レオはむかしアニメで見た発明家になったような気がして気分が上がるのだ。だから工作をする時にはいつも愛用している!

 それ以上の機能きのうが特にあるわけではない。

 いて言うなら、万一水に落ちるようなことがあった時、目に水が入らなくて助かるということくらいかな。なんといっても水泳用ゴーグルだから。

 今日は工作をするわけではないけれど、家出をするとなってはこれを持っていかないわけにはいかない。家出をした先で、工作したくなったら困るからね。


 準備が整うと、レオはバタバタと階段をかけおり、玄関を飛び出した。

「レオっ!」

 あせったような声が後ろから聞こえる。

「よく気をつけてねー! 6時には帰って来なさいよー!」

 6時には帰れって……。家出だって言ってるのに、ぜんっぜんわかってない!


(まったく、頭に来た)

 レオは勢いに任せて自転車でどんどん走った。

 レオが今作っていたのは、実物大のバイクだった。動くわけじゃないけど、でき上がったら乗って遊ぶのを楽しみにしていたのに。

(あれを捨てるだなんて信じられないよ)


 でもそんなことはまだいい!

 レオはもっと大事なことに気がついた。大切にとってあった大量の段ボール! あれも子ども部屋から姿を消していた!

 え? それはさすがにゴミだろうって?

 とんでもない。

 作品なら捨てられてもまた作ればいい。でも、材料がなければ何も作ることはできない。材料こそクリエイターの命なのだ!


 イライラしながらどんどんペダルをこいでいるうちに、学区の外に出てしまっていた。レオは大きな池があるとても広い緑が池公園に入った。池のそばまで行くと、レオは自転車を下りて池に向かってさけんだ。

「母さんのバカーーー!」

 緑が池公園は、ちょっとくらい大きな声を出してもまわりの人には届かない。目の前に広がる水面には、夏の青空とほんの少しの白い雲が映っていた。

 そこを何かの影がよぎった。


 顔を上げると、透き通ったつばさを広げた小さな飛行機が見えた。

 ラジコンだろうか。とってもカッコいい。


 うわぁー!

 バイクの次は、飛行機もいいな。


 さっきまでのいやな気分が、一気に吹き飛んだ。飛行機の形とくっきり見える骨組ほねぐみを、目に焼きつける。

 その時。強い風が吹きつけて、飛行機は池のそばの木に引っかかってしまった。


 大変だ!

 あんなところに引っかかったら、回収できないぞ。

 まわりに持ち主と思われる人は見当たらない。レオは木のすぐそばまで近寄り、上を見上げた。


 目をらすと、コックピットの中にパイロットの人形まで乗せてあるのが見えた。ずいぶんよくできた模型飛行機もけいひこうきだ。

 と思ったら、そのパイロットが動きだした。


「う、動いた!? な、なんで!?」

 おどろくレオの目の前で、パイロットは操縦席そうじゅうせきから立ち上がった。 “つなぎ”を着て、ゴーグルつきのヘルメットをかぶって、いかにも“飛行機乗り”だ。

そしてコックピットから外に出ると、ヘルメットを外した。

「うわ……」

 太陽の光をはね返すキラキラした長い髪が現れる。乗っていたのは、これまで見たこともないようなきれいな女の子だった。


 女の子はレオの視線に気づくと、車にひかれそうになったネコのように目を丸くした。そしてあわててコックピットに戻ろうとして機体につまずいて……


 落ちた!


 レオはあわててかけよって、落ちてきた女の子を受け止めた。

「は~。よかった」

 ほっとしたレオの手の上で、女の子は引きつった顔で上を向いている。

 何があるのかと、レオも上を見ようとした瞬間しゅんかん


いたっ」

 飛行機が頭の上に落ちてきた。それからぽとりと地面の上へ。


 女の子は手からパッと飛び降りると、飛行機にかけよった。

 この子……何なんだろう?

 ロボット……?

 じゃないよね? 小人……かな。小人なんだよね、きっと。


 いいなあ~。こんなにちっちゃいとおもちゃの飛行機にも乗れるんだなあ。うらやましい。ぼくも乗りたいよ。


 興味きょうみ深く見つめていると、突然、なげくようなさけび声が聞こえた。

「ああ~っ!」

 小人がしゃべった!

「ど、どうしたの?」

「ひびが入ってる!」

 女の子は翼の付け根を指さし、レオをにらんだ。


「ちょっとあんた! どうしてくれんのよ!」

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