学ランの琴音さん

羽間慧

オープンスクールの琴音さん

01 練習中の琴音さん

 二年生の黒坂琴音だ。先輩から譲り受けたわが校の伝統を守るとともに、さらなる発展に務めていく所存だ。応援団長としての責務を全うしてみせよう。

 応援団に興味のある人は、校舎二階の部室に来たまえ。私たちと一緒に、全校生徒へ熱いエールを届けよう! オープンスクールに来てくれた諸君、西高合格を祈っているぞ!




 ふぅ、台本を読まずに最後まで言えたぞ。最後ぼくって言いそうになったけど、何とか我慢できた。本番も、この調子でいこう!


 なぁ、ぼくの話し方はどうだった? 一ヶ月前より、成長したと思わないか?


 えっ? 表情も内容も硬くなった?


 まいったな。新入生に親近感を持ってもらいたいのに。あと一時間でオープンスクールが始まってしまうぞ。部活動紹介までは、あと一時間二十四分しかないというのに。弱ったぞ。


 とりあえず一旦休憩して、また台本を見直してみるよ。貴重なアドバイスを提供してくれて、感謝しているよ。


 そう言えば、きみは文芸部の部長だろう? ぼくの練習を聞いていて、大丈夫なのか? チラシの枚数確認とか、部活動体験の準備はできているんだろうな?


 意欲的な後輩が多いから、自分は陰でサポートするだけでいい?


 そうか、後輩思いの素敵な先輩だな。ぼくは、ついついお節介を焼いてしまうから、きみを見習いたいよ。きみの爪の垢を煎じて飲ませてくれないか?


 そんなことしなくていい? 爪の垢なんて綺麗じゃないから?


 きみも文学をかじっていたら、比喩表現だと分かるだろうに。爪の垢を煎じて飲みたいくらい、ぼくは、きみのことを尊敬しているんだよ。それにきみは、ぼくにとって……いや、何でもない。話すタイミングは今じゃないからな。気にしないでくれ。


 ぼくの練習に時間を取らせてしまったな。お礼に、飲み物をおごるよ。今なら自動販売機の前は空いているはずだ。何のジュースが飲みたい? もちろん、麦茶でも構わないぞ。


 飲み物よりも、質問に答える権利がほしい? まぁ、裏アカとスリーサイズ以外の質問なら、できる限り答えたいな。


 学ランの下はどうなっているのか? そんなこと知りたいの? 知りたいんだ?


 ははっ、きみは物好きだな。学ランの下に着るものなんて。小説を書くために必要な情報? そんなに大切な情報なのか?


 ロマンがあるから別にいいだろって……もしかして、ぼくがさらしを巻いていると思った?


 それは、さすがに夢を持ちすぎだと思うぞ。普通に体操服だよ。汗をいっぱいかくし、動きやすいからな。ブレザーのシャツのままだと……ボタンが飛んじゃって困るんだ。


 どうしてきみまで顔が赤くなっているんだよ。好きで飛ばしているつもりは微塵もないんだぞ。あと、こういう話題は、ほかの奴に絶対に振るな。す、す、……すき、な人には特に、さ。


 あー、何だか暑くなってきた。ぼくは自動販売機でサイダーを買ってくるよ。


 自分も行くって……さっき飲み物はいらないって言ったじゃないかー! ぼくの晒した恥をどうしてくれる。この、このぉ……!

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