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 この危機をなんとかしたいけど、僕の力ではどうにもならない。


 それならタックさんの意思を尊重して、僕だけでもこの場から逃げ出さないと。それが彼の想いであり、鎧の騎士の注意が僕から離れている間しかこの場を離れられるチャンスはない。


「……タックさん、僕はこの場を離れます」


「へへ……それでいい……。その決断力をこれからも忘れるな……。さぁ、行けっ!」


「――ふっ、やけに諦めが早いな。それで格好を付けたつもりか、タックよ? 私から見れば情けないこと、この上ないが?」


 その時、僕の背後にはいつの間にかミューリエが立っていた。ニタニタと薄笑いを浮かべ、タックさんを見下ろしている。


 暴走した鎧の騎士が迫っているというのに、いくら冷静なミューリエでも余裕を見せすぎだ。


「オイラは格好付けたつもりはねぇけどな……。状況を見て最善の策を判断しての言動だ。それにオイラにはオイラの考えがある。実際、鎧の騎士の暴走は計算外だが、それ以後の対処は思惑通りに進んでるさ。オイラを見くびりすぎじゃねぇのか、ミューリエよ?」


「……貴様こそ私を見くびるな。あえて貴様の小賢しい策に乗ってやったのだ」


「ククッ、だろうな。じゃ、あとは頼んだぜ~☆」


「やれやれ……」


 立ち上がれないほど疲労している中、強がるようにケタケタと笑うタックさん。それに対し、ミューリエは深いため息をつく。危機が迫っているというのに、ふたりともどこか緊張感がないような……。




 ま、まぁ、それはそれとして――


 そもそも僕にはふたりの会話の内容がさっぱり理解できない。計算とか思惑とか、あえて乗ってやったとか。僕の窺い知らない高度な次元で、読み合いというか駆け引きというか頭脳戦みたいな何かがあったのかな?


 そしてミューリエとタックさんの間には、何か因縁のようなものがあるような気がする。僕が最初に試練の洞窟へ挑戦した時に初めて出会ったというんじゃなくて、もっと昔からお互いを知っているかのような感じ。本当に単なる勘だけど……。


「――というわけだ。アレス、この場は私に任せろ。お前はアイテムで体力を回復しておくと良い」


「で、でも鎧の騎士は強敵だよ? しかも暴走してるから危険度も高いだろうし」


「あの程度なら造作もない。物理攻撃だけで容易く倒せる。まぁ、安心して見ていろ」


「う、うん……」


 当惑する僕を尻目に、ミューリエは剣を抜きつつ鎧の騎士へ向かっていった。その表情はまるで戦の女神様のように勇ましくも美しい。


 僕ももっと強くなって、ミューリエやタックさん、そしてたくさんの人々を守れるようになりたいな。



 ――この時、僕は彼女を見て思った。



 NORMAL END 7-1

 

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