第6章 海浜都市レオーネ編 第6話(2)

 ミラとの会談を終えると、二人はシャーリィに聖塔の玄関まで見送ってもらった。

「本当に、今回はお世話になっちゃったわね。町を守る者としてお礼の言葉が尽きないわ」

「いえ、こちらこそ。計画に向けての大きなご助力を頂き、ありがとうございます」

 クラウディアの言葉を受けたシャーリィは、次いでその脇に立つクランツに目を向けた。

「クランツ君も、よく頑張ったわね」

「え……僕がですか?」

「そうよ。集会の時にクラウディアを助けてあげたのも、エメリアちゃんのピンチを助けたのも、町を魔法生物から守ったのも、ミラちゃんを落下から助けたのも全部あなたじゃない。謙遜できる働きじゃないわよ。クラウディアは見えてなかったかもしれないけど、レファーリアに乗って虹色の魔術で水人形を次々と吹き飛ばしてた時のクランツ君の空を駆ける姿、浜辺が虹色の光に照らされて、壮観だったんだから」

「全部見てたんですね、シャーリィさん……」

 シャーリィに害意のない突っ込みを入れつつ、クランツは実感がないとばかりに呟いた。

「そっか……でも、全部その場の勢いでやったようなことだし……」

「そんな衝動的な動機で女を助けられるっていうのは、いい男の証拠じゃないかしら。やっぱりあなた、クラウディアの言った通り、見かけじゃわからない逸材みたいね」

「逸材かどうかはどうでもいいですけど……あ、それよりシャーリィさん」

 クランツは思い出したように腰元のポーチから天意盤を取り出すと、クラウディアに並ぶ背丈のシャーリィを見上げ、礼を言った。

「シャーリィさんも、力とレファーリアを貸してくれてありがとうございました。町を水人形から守れたのは、レファーリアのおかげです」

「そう、よかったわ。私もいい茶葉を貰ったし、そのお礼よ。この子も随分あなたに懐いているみたいだし、気が向いたらいつでも乗せてあげるわ。いいわよね、レファーリア?」

「♪」

 シャーリィの言葉に応えるように、彼女の肩に乗っていた小鳥の姿のレファーリアがぴょこんと跳び、クランツに頬を摺り寄せる。羽毛の感触をくすぐったがるクランツとそれを微笑ましげに眺めるクラウディア、その様子を眺めながら、シャーリィが言った。

「本当によかったわね、クラウディア。少しは、答えが見えたかしら?」

 シャーリィのその言葉に、クラウディアは決然とした瞳を見せて、返した。

「前よりは。私なりの道を、見出せた気がします」

「そう。なら、迷った甲斐もあったってものね」

 クラウディアにそう言ったシャーリィは、クランツに向けて軽くウィンクをしてみせた。その意味をクランツが図りかねていた間に、シャーリィは送り手としての問いを投げる。

「もう、この町を出るの?」

「ええ。ギルドのベイルさんに馬車を手配してもらっています。今は他のメンバーともメルキスで合流する必要がありますし、行動は早いに越したことはないので」

「そう……だったら、最後にもう一回くらい、お母さんの所にご挨拶に行ったら?」

「ええ、そのつもりです。母様にも、お世話になりましたから」

 シャーリィに対しクラウディアは一歩下がり、辞去の意を示した。

「では、私達はこれで。シャーリィ様、お世話になりました」

「暇ができたらいつでも遊びにいらっしゃい。町一同で歓迎するわ。あなた達の結婚式の手配なら、喜んでさせてもらうわよ」

「なッ……!」

 シャーリィの爆弾発言に爆発しそうになったクランツは、

「ええ、いずれ。では、失礼します」

「――――――」

 直後のクラウディアの意思に満ちた返礼に、一瞬時を忘れた。その様子を眺めていたシャーリィが、別れの言葉の代わりに、巫女の文句を唱える。

「炎霊の巫女を継ぐ者、クラウディア。そしてその幼き騎士、クランツ・シュミット。あなた達の共に往く永き旅路に、天央の女神の幸運の息吹があらんことを」

 七星教会に伝わる文句を六星の巫女シャーリィ風にアレンジした、祝福と共に送る言葉。

 その言葉を時とし、クラウディアは一礼をすると、背を向けて聖塔の外へ歩き出した。ややあって衝撃から立ち直ったクランツも慌てて一礼を返し、クラウディアの背中を追った。

 随分と背丈の差のあるその二人の間にある、強くなり始めている絆の兆しを見て、

「いつのことになるとしても……祝福するわよ、二人とも」

 祝福の聖女シャーリィは、二人の明るい未来に胸を弾ませ、その背中を見送った。

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