悪夢のABIS(アビス)~奈落の底~九十九伝完結編

九十九@月光の提督・連載中

第1章 奈落編

第1話 白い部屋

001 白い部屋


もう何度目だろうか、この部屋の雰囲気にもなれた。

今回も何らかのトラブルに巻き込まれるのだろう、男には諦観ていかんに似た感情が去来きょらいした。

太平洋戦争を乗り切り、戦国時代を渡ってきた男は戦国時代でも99歳の天寿を全うした。

一つ気になるのは、あの戦国時代が日本の今後にどのような影響を与えるのかということぐらいである。

男が行ったことは、世界の歴史を大きく書き換えたであろう。

あのまま、太平洋戦争になれば、楽勝できるのではないか、というほど世界地図を塗り替えたのである。


今回は何が出てくるのか?

それとも、そのままかしてくれるのだろうか?


勿論、そんなことは起こらない。

そうしてしまえば、からである。

すでに、筋書は用意されているのである。

物語的にも、作者的にも。


目の前に天使が現れた。

「貴様は、世界の改変を企てた、よって有罪である。」

天使は口を開かずにそう言い放った。素晴らしい腹話術だった。

男がやってきたことというのは、キリスト教系の存在には、非常に許し難いことが多かったのである。

いま、断罪しているのは、その系統の天使なのであろう。

西洋白人の天使。いや、彼らに似せて人間が作られたという方が正しいのか。

白い羽と黒い羽。天使の輪が頭上に乗っている。


「堕天使!」

「人間ごときがそれを言うか!」

「堕天使如きがそれを言うか!」口では、なかなか倒すことが難しい男なのだ。

おそれを知らぬというべきか。


「つまり、汚れ仕事を引き受けさせられたのでは?」

「・・・」痛いところをつくのがうまい男だった。

まさに、その通りだった。

このような、些末な人間の魂にわずらわされてはならない。という理由で、堕天使は代わりにやってきたのである。しかし、命令自体は、上のほうからきているため断ることはできなかった。


「貴様のその性格そのものに問題があるようだ。今までの貴様はやり過ぎたのだ」

美しい顔立ちだが、目だけは赤く光っている。

堕天使だからなのか、普通の天使も目がそうなるのか。

「今までは、いろいろな手管を使い、楽に生きてきたのだな」

決して、楽ではなかったはずだが、堕天使からはそう言われる。


「因みに貴様の魂は浄化不可能だ、それゆえどこでも暴れまわることができる」

神でも浄化できないって、どれほどのものなのだろうか?

「だが、今回は、少しやり方を変える、お前の名を奪い、うまく稼働できないようにしてやろう」堕天使はなぜか、仕組みを説明してくれる。


そういう親切なところが好きだな。

「今から君は、『ツク』だ」堕天使は満足げに言った。

それは、どこかの映画で使われた手法ではなかったか。

いまから、で働かされるのか。


「いや、どうせなら『ツ』を抜いてくれていたら」

「何!」

「そうしたらクモですが〇か!を始められるじゃないですか」

「貴様!」

堕天使は顔を紅潮させる。

「ふん!」なんらかの印を結ぶと、ゆらりと『モ』が離れていく。

これはまさに、パクリなのでは?

しかし、俺は急速にその意識が消えていく。

これが、真名を奪われた後遺症なのである。

記憶の構築がバラバラになり、記憶していてもうまくつなげることができずに何も思い出さなくなるのである。整理していた棚を入れ替えられたような感じといえばお分かりだろうか。棚の中身自体は存在するが、置いている場所をかえられたので、うまく発見することができない状態なのである。特にその量が膨大であれば顕著に効果が表れる。


「これで、いいだろう。」邪悪な笑みの堕天使。満足げだ。

「残念なことに、転生特典は必ずつけねばならないらしいので、貴様には『鑑定』をくれてやろう」

「ありがとうございます」

鑑定はファンタジー転生の定番。こういうどうでもいいことは忘れていない男。

「礼を言うのは、早いぞ、貴様が行く世界では、『鑑定』は不遇だ」

「え?」

「そもそも鑑定とは何か知っているかね」

「いえ」

「鑑定とは、それを見て、いくらであるかを査定するのだ。土地鑑定士はその土地を見て、いくらかを決めるのだ」

「とても、便利ではないかと」

にあらず、そもそも価格を出すには、知識と経験がなければできない。予備知識のないお前は、鑑定そのものができない状態となるのだ」

「それでは、私は、どうなるのでしょう」

「苦労することになる」

「そんな!」


「貴様の所業はこの程度の罰では到底すまされないが、温情をもってこの措置が取られることになったのである、神にすがれ、人間よ」

温情などないのは、口調から明らかだった。



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