チャプター4「守れなかった自分」

 「死ぬ勇気なんてないから(笑)」僕は彼に言ったことがあった。彼が放ったのは「死ぬときなんて勇気云々の問題じゃない。勢いでやってしまう。」という一言であった。

つい先日。僕はそのことについて強く思い知らされることとなる。

この小説の「第三話 死ねなかった自分」執筆後、僕の生活は一気に多忙なものと化した。


 僕は当時某高専のロボコン部で設計担当をしていた。もちろん、一人でロボットなんて作れるわけがないので、様々な先輩、先生方のサポートがあった...ように見えただけ。実態としてはほぼワンオペのロボット設計であった。膨大なプロジェクトの心臓部のプランニングをたった一人で行うというまさに無理難題であった。先輩方にヘルプをいただきながらチマチマと設計し、パーツの設計をすることが出来たら一年生に加工を頼む。出来上がったら一人で組み立て、誤差の確認、三次元CADとのすり合わせ。部長から依頼される各種データシートの作成...など到底一人ではこなせない量の仕事をやっていた。幸いにも、5年生の先輩方がたくさんアドバイスしてくださったため、作業効率自体は悪いものの、精度としてはかなり高いものとなっていた。この点に関して言えば、僕の功績というよりも一年生の加工技術が高かったからだろう()

そんなこんなで6月、7月とじたばたあたふたしながら学生生活を送っていたのだが、楽しかったのも束の間。7月の末、「第二話 過去の僕」で登場した「彼(仮称A)」が自殺してしまったのである。7月27日、ODして救急搬送されたAは何とか一命を取り留め、帰宅することができた。(この時なぜ救急から精神科の医療保護入院させなかったのか。僕にはわからない...)深夜3時。「はなそ。声聞きたい」とAからメッセージ。断る理由もないし、何より心配だったため、いつもどーりな感じで通話していた。その数時間後に自殺既遂し、還らぬ人となることとも知らずに...。通話が終わった後、疲れ切っていた僕は、いつものようにワンケース買ってもらったストロングゼロレモン350缶2本+精神安定剤+睡眠薬で強引に寝付いた。次の日、スクールカウンセリングがあったので「だりぃ...」と思いながら鉛のように重たい体を布団の中でうじうじさせながらスマホの画面を見る。画面の時計は14時を示している。それと同時に、一件、いや、二件、彼からのメッセージ通知が届いていることに気づいた。「どうせいつも通りの『おきた 二時間しか寝れなかった』とかだろー」とか思いながらFaceIDを起動させる。いつもと様子が違う。若干の違和感を感じつつ、トークアプリを開く。そこに表示されていた文章に僕は目を疑った。


『死ぬ準備ができた。』


『今までありがとう』


この二言であった。これが送られてきたのは12時頃。つまり送られてから2時間が経過していた。

どうしよう...?どうしたらいい...?焦る気持ちが加速していく。鼓動が自らでわかるようになり、さらには背中を変な汗が伝っていく。夏だからではない。明らかなる冷や汗だ。そうこう考えているうちに15時が終わりかけている。この日は16時からカウンセリングが入っているのをこの時思い出した。部屋着から着替え、いつものTシャツにミントスプレーを吹き付ける。それでも嫌な汗は止まらなかった。すぐさま入ってカウンセラーに事情を伝える。「実は友達が自殺企図しているようで...どうしたらいいんでしょうか...」と、メッセージという明らかなる証拠があったのでカウンセラーにも信じてもらうことができた。「110番通報しよう。」答えが返ってくるのは早かった。110番通報というのはかけている場所に最も近い警察本部につながる。そのため、他県に住んでいる彼のもとへは駆けつけられないのだ。そのことを最初の110番通報の段階で聞いた僕は、彼の住んでいる県の警察本部に電話することとなった。耳に響くコール音、それとともに揺れ動く心、オペレータさんが出たため、事情を説明した。「その方の住所はわかりますか?」と聞かれ、「○○市です」と答えた。すると、「その市の警察署に連絡してください。」とたらい回された。正直この時点で気が狂いそうだった。その市の警察署のオペレータにも同じことを伝えると、「現在捜索中です」との報告。そして「12時にメッセージがきたんですね?もしかすると、あなたが最終安否確認者かもしれません」とのこと。当然頭の中は混乱だらけである。つまりは、12時の時点で返信していれば彼の運命は変わっていたかもしれない。そんな考えがよぎる。放心状態で電話を切った。「一応君自身の安否が不安だから明日もまた学生相談室に来て」とカウンセラーさん達に言われ、その日は帰った。


次の日。

起きてから、まず昨日かけた警察署に一本電話をかけた。「彼の自殺手段に心当たりがありまして...」と言いかけたところで「あ、その方ならもう病院に搬送されたそうですよ。」との一言。束の間の安堵。ほっと胸を撫でおろし、相談室へと向かう。「とりあえずは様子見かもね」全員がそういった。




だが僕は気づくのが遅すぎた。


この日、彼は、意識が戻る可能性が限りなく低く、家族の手によって看取られて逝ったことを。




この日が終わってから、またいつもの日常が戻った。部活はとんでもなく忙しくなり、テストはそこそこの成果であるにも関わらず、「そんなもんしか取れないんだ~笑」というクラスメートからの嘲笑の声。なおさら部活が拠り所になっていった。

迎えた10月の26日。様々なアクシデントがありながらも、全国高専ロボコン地区大会に出場し、ピットメンバー(本番前にロボットを現場でいじれる人)として参加することができた。結果は「デザイン賞」 自分で設計したロボットが評価されたと思う反面、おいしいところだけ持って行ったほかの設計担当の先輩に憤りを感じつつ、僕の人生最後のロボコン人生は幕を閉じた。


 ロボコンも終わり、一息ついて考えること。それはあの「彼」のことだ。

11月13日0時を迎えた頃だろうか。久しぶりに話したくなって彼に通話をかけてみた。

1コール、2コール、3コール、ダメかと思い、10コール位粘っていると遂に通話がつながった!うれしい、よかったなどの思いがよぎった。しかし通話相手は彼本人ではなく、彼の母。つまり”遺族”だった。ほぼ会話の内容は覚えていない。「最後まで生きようと必死に心臓は動いていた。」「○○(彼の本名)の分も生きて」それだけしか覚えていない。


もう 二度と 声は 聞けない


最愛で 最高の 人を 失った


あの時 気づいていれば こんなことには ならなかった


もっと 話を 聞けていれば


スローモーションみたいな感覚。その中で救えなかったという自責の念と自己嫌悪だけが脳内で現れては僕の心を抉っていく。


心に空いた大きな穴。どれだけ依存していたかなんてわからない。

ただ、わかるのは、 「もう二度と、、声も聞けない、あの不器用な笑顔も見れない、我流のぶっ飛んだ理論も聞けない、、」それだけだ。







大切なものを失った僕に、生きる意味などない。

もう、何もない。すべて。





生に絶望し、死に希望を本格的に見出したのはこのタイミングであった。

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