第41話

上級悪魔が完全に消滅すると、前回のように体が光る。


『経験値?それとも何かスキルを覚えたか?落ち着いたら聞いてみるか…』


「それにしても、よくあそこで躊躇しなかったね。ジュリエッタが悪魔の首を刎ねていなかったらこうは上手くはいかなかったよ。助かった」


「お父様とレリクが下級悪魔を倒したし、ヴェルの重力魔法でほぼ決着はついていたからね。私は教科書通りに体が動いただけよ」


ジュリエッタは謙遜をするが、俺ひとりだったらもっと時間がかかったかもしれない。それに悪魔の心臓が3つもあるとは知らなかったから、どうなっていたのか分からなかったから感謝してもしきれない。


落ち着いてきたので周りを見渡すと、ウォーレスさん、レリクさん、マイアがまだ固まっていたので歩いて3人のいる場所へ向かった。


まだ、目が開けられずうごめく兵士達が沢山いたが、閃光のスキルでは失明もしないし、死にはしないから申し訳ないけど、まずは身内の安否確認を優先させる。


「三人ともお怪我はありませんか?」


「ああ、無事だよ。動けなかったのは、君達の行動力に驚いただけだ。随分と無茶をしたみたいだが、二人は怪我はないのか?」


「はい。僕もジュリエッタも傷ひとつありません」


そう答えると、ウォーレスさんは安堵した表情になる。


「レリク剣をありがとう。助かったわ」


「いえ、とんでもないです。お嬢様に剣を貸せと言われた時は、何が何だか分からずについ貸してしまいましたが、守るどころか救われるなど護衛失格ですね」


レリクさんは苦い顔をして反省している様子。


「あの時、咄嗟に動けたジュリエッタが凄いだけですって。マイア、立てるか?」


手を差し出すと、マイアは顔を硬直させたまま無言で立ち上がる。


「マイアも閃光のダメージも無さそうだな」


「咄嗟に私がマイアの前に立ったからね」


『何度も思うが本当に11歳かよ?いやさすがは聖女様と言うべきか。あの状況で冷静に行動出来るのは凄いよまったく』


「お役にたてなくてごめんなさい。いざとなったら足が竦んでしまって魔法も使えないし、足手まといになってしまって…」


反対に賢者だろうと思われる、マイアはそう言いながらすすり泣く。元々負ける気など微塵も無かったので若干後ろめたい。


「足が竦んで当然だよ。ほら、僕とジュリエッタは野盗を倒した経験があるからさ。対処出来たのは、たったそれだけの理由だよ」


「ヴェルの言うとおり、気にする必要はないってば」


そうフォローをいれるとマイアは心なしか表情が和らいだ。


「それにしても二人とも500年前にいなくなった筈の上級悪魔を前にして良く無事に生還してくれた。あんな無茶をした事は決して褒められたものじゃないけど、正直あれしか方法は無かった。上級悪魔の動きが急に悪くなったように見えたが?」


「お父様。今はそれより兵士達の目を治さないと」


「そうだな。今は問ただしている場合じゃないか」


「マイアも陛下達に無事を知らせてやっておやりなさい」


「はい。二度も命を救って頂いてなんとお詫びをしたらいいのか」


「友達だろ?敬語に戻っているし、ありがとうの一言だけでいいよ」


マイアは感涙したような顔をして「ありがとう。最高の友達を持てて幸せです」と言って一礼をすると、陛下達の下へとレリクさんに連れ添ってもらい歩いて行った。


「それでは私も行ってくる。ジュリエッタが治癒スキルを使える事を伏せておく必要があるから、癒しの光が使える部下から治すので、君達二人は休んでいるといい。ここからは大人の仕事だ」


「はい。ありがとうございます」


「言い忘れる前に言っておくが、王家の血筋は例外なく嘘を見抜くスキルを持ってる。もし何か聞かれたら。そこを念頭にいれて報告するんだ。いいね」と、耳元で小声で言うとウォーレスさんは目を抑える兵士達が集まる元に向って歩いていった。


「重力魔法を使ったのバレてないよね?」


「バレてたらお父様から指摘が入るでしょ。私も見ていたけど、ヴェルが肘で悪魔の鳩尾を打ちでもしたんじゃないかと見間違えたから、きっと大丈夫よ」


「それならいいんだけど。ウォーレスさんの話では王族には嘘がつけないんだって言ってたから、正直に話すしかないよね」


「そうね。陛下には正直に話しておいたほうがいいかもね。上手く立ち回れば協力してくれるかも。悪魔が現れたとなると魔王の復活の日は近いかも知れないから。それえよりもごめん抱きついた時に口紅の跡がついちゃった」


そう言われて目線を落とすと白いシャツには口紅の跡がくっきりと残っている。11歳の子供がこんな教科書どおりのキスマーク付けてる?


「ワザとじゃないんだから気にしないよ」


そう答えると、ジュリエッタはてへぺろ。


『ワザとかよ!』


追及する間もなく、王侯貴族達も会場に戻って来たようで、宰相のマーレさんから、今日あった事について正式に発表するまで罰則付きの緘口令を発せられた。当然宴も中止になり解散となる。


「ヴェル、そしてジュリエッタ。よくマイアを救い上級悪魔を倒してくれた。王族が倒れればこの国が崩壊するとはいえ逃げ出してすまなかった。それにしても、またもやヴェルに国を救われたと思うと情けなくなるな」


「国の命運と私の命を天秤にかけるまでもありません。国の為に命を捧げるのが貴族の役目ですから使命を果たしただけです」


そう言うと王侯貴族全員が苦い顔をする。言葉の選択を誤ったか…


「それにしても、兵士に強引に逃がされて最後まで見ていないが、どうやって上級悪魔を倒したんだ?」


「申し訳ありません。説明させていただくこともあるので、この場でお話する事は勘弁願いたいです。場所を変えていただけますか?」


「わかった。ついてきてくれ」


陛下が移動しようとすると、ジュリエッタが俺の肩を叩く。


「ヴェル、少し気分が優れないの。申し訳ないけど陛下への説明は1人でお願い出来る?強がってはいたけれど安心したら立ってるも辛くて」


ジュリエッタの顔をよく見ると顔色が悪い。上級悪魔を倒した反動、もしくは精神的なものだろうか。


「大丈夫かい?ここは俺に任せて屋敷でゆっくりと休むといい。陛下、そう言う事で宜しいでしょうか?」


「無論だとも。ヴェルさえいれば状況が分かるからな。ウォーレス卿は娘に付き添ってやるといい。ヴェルとマイアは見送ってやれ。脅威が過ぎ去った今となっては、急ぐ必要はないから見送りが終わったら執務室へくるといい」


「心遣い感謝します」


「気にする必要はない。マーレ、先に執務室に行くぞ」


陛下達が会場を後にするのを見送ると、体調の悪そうなジュリエッタの腕を取って、俺達も会場から離れる。会場から出てすぐの階段を下りると、馬車が来るまで階段にハンカチを敷きジュリエッタを座らせた。


「それでは急いで馬車を回してきます。直ぐに参りますのでここでお待ち下さい」


レリクさんはそう言うと厩舎に走って行った。


「ジュリエッタ。顔色が悪いけど大丈夫かい?」


「ええ。少し落ち着いて来たかな」


「王族として何も出来ない自分が歯がゆいです」


伯爵家の馬車が到着すると、ジュリエッタを馬車に乗せて「少し気分が良くなったら風呂に入って、柑橘系の良い匂いがする果物を入れるといいよ。リラックス出来るからね」とアドバイス。


「ありがとう。そうさせて貰うわね。それじゃ屋敷で待ってるわ」


「遅くなるかもしれないから、もし体調が優れないようなら遠慮なく早に寝るといいよ。ウォーレスさん、ジュリエッタの事を宜しくお願いします」


「専属騎士にヴェル君を選んで良かったよ。それじゃ屋敷で待っているからな」


『当たり前の事をしただけなのに褒められるのはむず痒いよな』と少し照れながら、馬車の扉を閉めた。


「それじゃね。レリクさん。後は宜しくお願いします」


「はい。任せておいて下さい。それでは出発します。そら!」


ジュリエッタを見送るとマイアとじいやさんと一緒に執務室に向う。


「マイア、すまない。屋敷に帰る手立てがないから、帰りに馬車を用意して貰えないだろうか?」


「もちろん良いです。お二人は上級悪魔から国を救ってくれたのです。王族として当然です」


「姫様の言うとおりですよ。上級悪魔などここ数百年目撃すらされていませんでしたからね」


「その辺の事情を詳しく教えて下さい!」


正宮がら王城の執務室に移動しながら、じいやさんに聞く。


悪魔は魔王に仕える知能と自我を持った魔物だそうで、悪魔の種類は上級悪魔、下級悪魔の2種類に分かれ、上級悪魔は心臓を3つ持つが下級悪魔は心臓は1つしかないそうだ。


で、特に力を持つ4体の上級悪魔は四天王と呼ばれているらしい。


「今の話を聞く限りでは魔王が既に復活をしていて、それで悪魔が動き出したと推測しても宜しいのでしょうか?」


「そうとも言い切れません。文献や教科書に書かれてある事が間違いなければ魔王が復活をする5年~10年前から悪魔達は準備をする為に動き出すそうです」


倒した悪魔が言っていたリソース。そしてコレラ。因果関係は不明だが何か繋がりがありそうだな。


「その期間に関して、理由とかは判明しているのですか?」


「はい、いくら魔王とはいえ、活動拠点や配下となる魔物が無いと行動に移せません。力を蓄える準備期間が必要なのだと文献や教科書に書いてあります」


「それで、こちらの戦力を削ぎに来たって訳か」


「そうでございますな。魔王軍にとっても英雄は脅威なのでしょう。魔王は勇者に倒されていますから警戒はするでしょう」


『俺は勇者じゃないし、英雄とか身分不相応な称号をつけられて命を狙われた俺の身にもなってほしいもんだ。今更だけどいい迷惑だよな』


「だとしたら、魔王の居城がこの世界のどこかにあって、既に活動を始めていると考えた方が良さそうですね。魔王の居城の場所に心当たりとか断定出来ないのですか?」


「魔王の居城は悪魔や魔物が作るのではなく、どこかの一国を集中的に攻め落とし、その城を橋頭堡としたと伝わっております。前回は亡国となったこの国だと…」


あの悪魔が少女に変身していた時、アーレン王国の侯爵令嬢を名乗っていたが、国同士を争わせて疑心暗鬼にさせる作戦なのかも知れないのでここで迂闊な発言は出来ない。


「なるほど、準備期間に叩き潰せたら良かったのですが」


「悪魔達は非常に頭が良く、そして狡猾です。そう上手くはいきますまい。それではもうすぐ執務室に到着致します」


いつの間にか喋っている間に執務室に到着するようだ。衛兵がこちらに気付いて頭を下げる。


「ヴェルグラッド卿と姫様をお連れしました」


「陛下から話は聞いております。どうぞお入り下さい」


衛兵はそう言うと執務室のドアを開けた。




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