第一幕 あやかし参臥

 

『いいかい、今日からこの子は――』


 かいなに抱かれながら伸ばされた小さな手を眺める四つの金の瞳は、驚きからすぐに細められた。ふんふん手のひらの匂いを嗅ぐなか、頭上から紡がれる男の声に二匹の【狐】は笑みを浮かべる。『あい、解った』と――。


 その子供が成長するにつれ、この町では大きな変化が起きていた。


 【あやかし】――【妖狐】が、この町の長となったのだ。そうして【あやかし】にとっても人間にとっても住みやすい町作りが進められ、役所では【あやかし】を扱う〈あやかし課〉なるものも誕生する。


 ひょんなことから噂を聞きつけた【あやかし】たちが町に訪れはじめ、この町では【あやかし】の存在が一般となった。


 荒々あらあら市という一見物騒な市名を持つ市を構成する町のひとつたる花野町はなのまちは、今日も【あやかし】とともにある――。




 

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