作者ダラダラ短編続きそうだけど没にしたやつとか

赤猫

赤い糸の見える少女のお話

 運命って信じますか?

 あ、別に宗教勧誘とかじゃないですよ?

 運命ってなんだと思います?


 …アタシはよく分かりません!

 理解出来るわけない赤い糸を自分で切ってんだから。


「あらら?」


 朝学校に着いて靴を吐き変えようと下駄箱を開けると手紙が入ってる。

 ここで読む訳には行かないのでトイレに行って読むことにした。


「なになに?日暮円香ひぐれまどかさんへ」


 突然のお手紙失礼します。

 僕は3年2組松平健二まつだいらけんじです。

 単刀直入に言いますと貴方が好きです。

 もしこの返事を頂けるのなら放課後屋上に来てください。


 いわゆる告白というやつだ。

 生きていてば1度は経験したいことでは無いだろうか?


「ふぅむ?」


 まつだいらけんじ…?誰?

 アタシは首を傾げながら自分の交友関係を整理する。


 アタシが話す男…まぁ相手が一方的に話しかけてくるだけなのだが、その人だけなので結論としては知らない人になる。


「とりあえず教室行こうっと」


 アタシは手紙を鞄にしまってトイレを出た。


 告白の件を彼に話す必要はないだろう。

 アタシ1人で何とかなることだし。


「はよ」


 突然後ろから声をかけられビクリとアタシは肩を揺らした。

 声をかけた人物には心当たりしかない。


「おはよう」

「数学の課題やった?」

「やってるに決まってる」


 ドヤ顔をするアタシにすごいねと棒読みで言う男は朝日緑あさひみどりだ。

 眠たそうな双眸だけどイケメンに見えるとうちの学校ではモテモテの野郎である。


 性格はチャラ男である。

 アタシに絡んでくる


「見して」

「うるさい自分でやれ」

「他の女子なら喜んで見してくれるのに」

「黙れイケメン」

「褒められちゃった」

「褒めてない」

「それは残念」


 アタシにニコニコと笑いかけているこいつの目的は一体何なのだろうか?

 からかって楽しんでいるだけだとアタシは思っている。


「デートしてよ」

「しねぇよカス」

「口悪っ、そんなんだとモテないよー?」

「モテんでいい」


 友達以上の関係なんて煩わしくて仕方がない。


『…ごめん俺が好きなったせいだよね』


 またあの時のあの名前の知らない男の顔が脳裏に浮かぶ。

 アタシを好きだと言った男がもう切ったはずなのにもうアタシの小指には赤い糸なんて結ばれていないはずなのに。

 運命なんてないのに。


「ねぇ円香ちゃん」

「は?なに?」

「今日暇?」

「暇じゃない用事がある」

「待ってるから一緒に帰らない?」

「1人で帰って、それかほかの女子と帰って」

「待ってるからね」


 話を聞くということをこの男は知っているのだろうか?


 朝から面倒な男が絡んできたせいでアタシは疲れた。

 教室に入ればアタシという生徒はスクールカーストの中では下の存在だから先程の野郎と同じ人種である上位の人間が関わってくることはない。

 朝日もそうで教室に入ると私に声をかけなくなる。


 教室がアタシにとっての休憩スペースになったのはもう随分と前の話だ。


 教室内では授業ダルいねとか放課後どこか行かない?とかそんなありふれたよくある会話ばかり。

 その会話の中で一つだけ目立つ会話が聞こえてきた。


「ねぇ、私さ彼氏と別れたいんだよね」

「え?仲良かったじゃんなんで?」

「この前知らない女と一緒に歩いてたんだよね」

「ホントに?」

「ホントもホント!ガチ!…誰か縁切ってくれないかな?」


 縁を切りたいと簡単に言わない方がいいのにいつも簡単に人はそうやって縁を切りたいという。

 その願いをもし叶える人がいるとするならそいつは人の心がないと思う。


「うちの学校なかったっけ?そういう都市伝説みたいなやつ」

「あー、あったかもなんだっけ、糸切りだっけ?」


 糸切りとはこの学校でウワサされている恋愛関係の縁を切るといわれている人物のことだ。

 会ったことがあると言う生徒が最近になって増えてきた。


 顔はフードで見えないが女子生徒の制服を着ていることからここに在学している女子生徒の誰かではないかと言われている。


 まぁそのウワサになっている女子生徒というのがアタシなのだが。

 世の中は広いように見えて狭いもので、今絶賛読書をしているアタシがその糸切りだとは誰も思うまい。


 アタシには赤い糸が見える。

 小指に絡まった糸を実際に触ることもできるし切ることも縛ることもできる。


 初めて見えた時は興味本位で両親に絡まっていた取れかけ糸を緩めてしまって危うく離婚するところだった。


 …自分に対して好意を持っていた人の糸だって切ったこともある。

 私が糸が見えるってことを信じてくれた優しい人…それがアタシの頭にずっと残っている。

 忘れられない。

 それきりアタシの小指には赤い糸がない。


 自分で取ってしまったから。

 もう運命なんて存在しないのだ。















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