六月の5つのお題140

 診断メーカー「5つのお題でやってみましょう」より、六月にTwitter上で掲載した140字小説です。

 お題は「日傘を射して/悲哀/身を放り投げて/操り人形/破壊寸前の恋心」。



●日傘を射して

 いつの間にか日差しが強くなってきた。日傘を差す。日が当たると花の透かし模様が浮き出るのがお気に入り。青空のかわりに頭上に咲く花々に、足取りは軽くなる。息の詰まりそうなコンクリートジャングルを気にしなくて済むのも良い点。

「前を見ろ」

 誰かの忠告は気にしない。私の道行きを邪魔しないで。



●悲哀

 全てを喪った彼女の顔からは、あらゆる感情が削ぎ落とされていた。泣くのを必死に堪えるさまが痛々しく、あまりにも哀れだった。

「大丈夫か」

 取った手はあまりに冷たく、思わず両の手で包み込み温めた。

 彼女が視線を上げる。

「どうだろうね」

 表情が揺らぐ。目端から零れ落ちた涙は、水晶色だった。



●身を放り投げて

 階段の踊り場でくらりときた。ここから地面までの距離はどれくらいだろう。想像する。ここから身を乗り出して、墜落するさまを。

 落ちていくのはどんな感じ? ぶつかるときは?

 恐怖より誘惑が勝った。

 柵を越え、宙へと飛翔する。浮遊感が身を包む。束の間の自由を謳歌する。

 墜落するまであと少し。



●操り人形

 ほんの少し背を押してやるだけでよかった。たった一言後押しの言葉を贈るだけで、彼女は僕の意のままに動くようになった。身体中に括りつけられた糸。僕の手の中でくるくると踊る娘。はじめぎこちなかった舞は、今では滑らかに。

 自分の意思で踊ってると思ってる? 残念。君は今でも僕の操り人形さ。



●破壊寸前の恋心

 君が好いていたのは、僕ではなかった。いつも他の男のことばかり思っていた。今は僕が隣りにいるというのに、君の視線は別のほうを向いている。

 心が軋む。切なさが身に迫る。

 いい加減手放そう。壊れかけた心に手をかける。

 さようなら。その一言を絞り出すのが、どれだけつらいか知っているかい。

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