九月の5つのお題140

 診断メーカー「5つのお題でやってみましょう」より、九月にTwitter上で掲載した140字小説です。

 お題は「ハニーミルク/大都会の夜景/歪んだ目の前/十字架/身体の無い首」。


●ハニーミルク

 新しい家に来てから、ずっと寝付きが悪い。独りが負担というわけでもないのにな、と思いながらゲーム機の電源を切り、台所へ。電子レンジで牛乳を温め、蜂蜜を落とす。

 漫画で主人公が家族に淹れてもらっていたハニーミルク。私にその記憶はない。けれど、少しだけ眠れる気分になるのは何故だろう。



●大都会の夜景

「うわぁ綺麗」

 記念日にと予約したホテル最上階のディナー。窓から見える百万ドルの夜景を彼女はいつまでも見つめている。

 一方俺は、メインを待ちながら二本めのワインを空にした。

「ロマンチックね」

 妙な圧を感じる彼女の質問に、俺は。

「王様の気分だな」

 三本めのワインは許されなかった。



●歪んだ目の前

 扉が締まる頃にはもう目の前はぼやけていて、手を振る彼女の姿は見えなくなっていた。ゆっくりと走り出す電車。故郷は私の意思に関係なく離れていく。足元が覚束なくて、私は座席に座り込んだ。

「次は――」

 降り注ぐ車掌のアナウンス。涙のレンズ越しは歪んでいても、道は確かに私の足元から続いてる。



●十字架

 主に背いた瞬間、両肩に重いものがのしかかった。暴君となった主は、死への絶望の中で安堵の表情を浮かべていた。私は自らの義憤の正しさに初めて疑問を抱いた。

 主に代わり国を治める立場についた自分。正しくあれと努める日々の中で、時折脳裏に蘇る主の面影に縋り付いていることを、誰も知らない。



●身体の無い首

 机の上に置かれた女の生首に顔を顰めた瞬間、

「そんな顔しないで」

 首だけの彼女は困った顔をする。

「でも」

 言い淀む私を、首だけ残っただけでもめっけものだ、と彼女は諭す。

 身体は取り戻せなかった、と肩を落とす私。

「それよりあなたはこんな魔女でも平気なの?」

 もちろん、と頷くと生首は笑った。

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