♯5 ホームレス奴隷、爆誕!

「ぷぷぷぷ、それで結局書類貰えなかったんだ」


 お腹がいっぱいになりご機嫌な妹が俺に声をかける。


「何度も言ってるけど諦めようよお兄ちゃん。お兄ちゃんのやりたいことは奴隷の私が全部やってあげるからそれでいいでしょ?」

「なにその奴隷とは思えない発言……」


 妹と町一番の大きなゴミステーションに来ていた。

 ゴミ収集に携わっている人間なら、ここのステーションには必ず来るはずだ!


「うーん、収集は明日の朝かぁ。じゃあとりあえずここの近くに寝床ねどこ作らないとなぁ」

「やっとお兄ちゃんが寝るところ探す気になった」


 キョロキョロと辺りを見渡す。


「川辺の橋の下に丁度いいスペースあるじゃん、今日はあそこで寝ることにしよう」

「……」

「何か言いたそうだな」

「……ううん、お兄ちゃんがお金ないの知ってるし、こうなるだろうなぁと思ったけど、いざ目の前の現実になるとしんどいなぁって思っただけ」

「いいじゃん奴隷らしくて」

「これじゃ奴隷じゃなくてホームレスだよ……」

「いいからっ! つべこべ言わずに段ボールでも拾ってこい!!」

「うーー! お兄ちゃんが怒った! うぅ、ひどい……扱いがひどい……」

「んなこと言っても、お前は俺の奴隷だろ……」

「奴隷には奴隷の誇りがあるもんっ! 今は立派なお兄ちゃんの奴隷だもん! ホームレスじゃないもん!」

「ど、奴隷の誇りって何……!? 変なプライドがこれ以上強くなる前に早く返品しないと……!」

「むっきーーー! 絶対返品されてやらないもん!」




※※※



 

「お兄ちゃん! お兄ちゃん! こんなところに段ボールがまとめて捨ててあるよ! わーー! 素敵! こんなに綺麗なマットレスも捨ててあるっ! もったいないから持っていっちゃおう! ついでに私のサイズに合う服とか落ちてないかなぁ。ごそごそ」

「……」

「綺麗なビニールシートも捨ててある! 私が有効に使ってあげるからねビニールシートさん」

「……」

「えぇええ!? 可愛いぬいぐるみいっぱい捨ててある! 何て可哀想なことするんだ! 私がみんなのこと持っていってあげるからねっ!」 

「……」

「おにーーちゃーーん! まだ食べられそうなお弁当あったよ!!」

「今すぐ捨ててこい!!!!」


 妹はまるで買い物を楽しんでいる主婦のようにゴミ漁りを楽しんでいる。


「……お前、なんだかんだですごい楽しんでない?」

「そ、そんなことないよ?」


 次から次へとゴミ捨て場から有用なものを見つけていく我が奴隷おバカちゃん


 もしかして、こんなところでこいつのずば抜けた幸運パラメーターが役に立ってる……? だとしたら、こいつらしいというかなんというか……。




 ゴミステーションと橋の下の拠点候補を往復すること数回。それなりの荷物が橋の下に集まっていた。


「ふっふー! これで立派なおうちができるね」

 

 妹が鼻息を荒くして、目をきらきらに輝かせていた。


「じゃあ、このうさちゃんのぬいぐるみは枕元に置くことにして、こっちの熊ちゃんは入口のところに置くことにしよう! ふふっ、ちゃんと門番しててね熊ちゃん」

「……」

「こっちの意地悪そうなネコのぬいぐるみはお兄ちゃんの枕元にして、この大きなイルカのぬいぐるみは私の枕にして」

「……」

「うわっ! ウンチのぬいぐるみがあるっ! これはお兄ちゃんのだな」

「さっさと作業しろっ!!」

「わーー! またお兄ちゃんに怒られた!!」


 ぬいぐるみの配置から決めようとするアホを一喝いっかつして、段ボールを床に敷いていく。


「よいしょよいしょ」

「おーい、そっちのビニールシート押さえててくれー」

「はーい」


 妹とそんなこんなの作業すること数時間、


 屋根 橋

 壁 ビニールシート

 床 段ボール

 

 の立派なホームレスハウスが完成してしまった。


「おぉー、思ったよりもいい感じだねお兄ちゃん!」

「結局ノリノリで作ってたじゃねーか! ホームレスがどうのこうの言ってたくせに!」

「だってだって! せっかくの私たちの愛の巣だよ? 一生懸命作らなきゃって!」

「今すぐその言い方やめろ!!」


 いつまでここにいるかも分からないのに、楽しそうにうちの妹がゲラゲラと笑っていた。

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