魔王社長は何見て笑う

御剣ひかる

01 黄昏

 黄昏時には魔物と会う。

 日本にはそんな言い伝え? 迷信? があるらしい。逢魔おうまが時ともいうんだってさ。日本人の友達が言ってた。


 おれなんか、すごいぞ。

 毎日毎晩、魔王のそばにいるんだからな。


 ここはアメリカ、ロサンゼルス。M&Dトレードって会社の、社長室。


 部屋の主は四十代の男だ。

 鮮やかなライトブロンドをかっちりとオールバックにして、銀縁眼鏡の下の目はすっきり晴れた空を思わせる青、顔は整ってるし、身長高いし、モテ要素バッチリのいわゆるイケメンって十分呼べる容姿。


 なのに社長、リカルド・ゴットフリートには奥さんどころかカノジョもいない。

 なんで特定の人と付き合ったりしないのかっていうと――。


「レッシュ、この書類、書き直しです」


 来た! 情け容赦ない駄目出し。


 この人の秘書になって十年を超えるけど、この冷たい声と目にはいつもどきどきだ。

 女のコ相手のときめきならいいのになぁ。


 リカルドは、仕事に関して冷静ってか冷徹だ。

 プライベートではどうだか知らないけど、多分そんなに変わらないんだろう。


 この人は、人嫌いだ。

 けどそう演じてる、ってか無理しているんじゃないかなって思うことも時々ある。


 何はともあれ、今は突き返された書類を作り直さないと。


 あぁ、窓から見える陽が、どんどん沈んでいく。

 今日も遅くまで、魔王社長にこき使われそうだ。

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