第5話 旅行前の報告

 さて、そろそろ旅行の日程が近付いてきたので、近況報告を。


 まず伝えたいことは、目的地の大幅な改訂である。


 最初、私は神楽が見たい! と意気込んでいた。その中でも最初に見たいと思っていたのは、船通山の宣揚祭である。


 だが、交通手段がない。最寄り駅、というものは存在しなかった。なぜなら船通山の山頂で行われるためである。そのため、バスでの移動を試みるしかないのだが、それがどうも一日一本だけ往復の便が出るのみであるらしいのだ。そもそも今年はやるのかどうか分からない。結果として、私は断念してこの祭りを見送った。


 そうこうして他になにか神楽を見れる場所はないかと探した結果、次に鷺舞が奉納されるという祭りを見つけた。これは二十、二十七日の水曜日に行われる。私が唯一学校へと行く曜日である。そのため諦めていたのだが、なんと20日に学校が終わり、その来週からは夏休みに入るというではないか。私は喜々として、鷺舞を一番の目的として日程を組んだ。そう、どこで行われるかも調べずに……。


 これが最大の過ちであった。初日の二十六日では出雲大社の観光をし、その次の二十七日に鷺舞を見に行こうと思っていたのだが、なんと鷺舞が行われる津和野町まで出雲から三時間の乗り継ぎ、しかも電車ではなく新幹線を繰り返す必要があったのだ。


 行けばいいじゃん! と思うだろうが、こちらの初スマホ無し一人旅の身にもなって欲しい。ぶっちゃけていうとだいぶめんどくさいのだ。私はこれも見送った。


 そうだ、では石見神楽を見ればよいではないか! と私は考えた。島根県といえば石見神楽ではないか! 調べてみると、どこも土曜日にしか公演をしていない。鷺舞を見るためだけに平日に日程を取ってしまった私が愚かだった。バイトが入っているため、もう休むことすらできない。


 となると、二十七日の予定がまるまる空いてしまう。


 どうすればよいだろうか? と考えた結果、次に思いついたのが隠岐諸島への旅行だった。


 もちろん、最初ここに行くことも考えていたのだが、「フェリーか……。一本逃すと“死”が待ってそうだな……」と私は勝手な忌避感を抱き、見送っていたのだ。


 だが調べて見ると、どうやら行き方もかなり単純で、帰りもなんとかなりそうだった。私は一気に胸が踊った。


 皆様は知っておられるだろうか。厳島神社は離島にあるのだ。フェリーに乗り、離島へと向かい島の探索をしつつ厳島神社へ……。あれはなかなかに楽しい経験だった。そのため、隠岐島に行く、というそれ自体が非常に楽しみになっていた。


 朝早くの出港は問題ない。一晩泊まらねば、満足に楽しめないだろうが、それももはや問題ない。普通の宿よりかは高いが、金さえ払えばどうにでもなる。隠岐島への渡航が現実的になり、浮足だった私は帰りの高速船の予約を試みた。


 すると、そこで衝撃な事実が判明した。なんと隠岐島から本土への便が、午後一時なのである。私は帰りの高速バスの時刻を思い出した。四時半。……非常に危うい。高速船でも本土に到着するまでに二時間かかる。およそ三時半に港に到着し、帰りの高速バスまで電車で一時間。調べたところ……どう頑張っても間に合わないことが発覚した。詰みである。


 こうして、私は立てた予定がことごとく、そして泣く泣く、諦めざるを得ない状況に陥ったのである。


 では初日に行けばよいのでは? と思われた方もいるかもしれない。となると、二十六日の六時半に隠岐諸島へと到着する。そして本土へと戻るのは二十七日の三時半になる。なんとも微妙な時間帯だろうか? 


 そこから出雲大社に行くにも、二時間ほどの時間を掛けて向かうことになる。もう夕方である。さらに、次の日に帰るのは四時半なのである。また、なにをするにも微妙な時間……。


 そういうわけで、結局私は初日に出雲大社に行くことに決めた。友人に相談したところ、出雲大社は縁結びの神社でもあるから、先に縁切り神社へと赴いた方がよいとのアドバイスを頂いている。調べてみたところ、宇美神社が縁切り神社として著名であり、さらに近いということであった。出雲大社へ向けてだけはスムーズに決まるのだ。やはり日本的に、そして世界的にも有名な観光地はアクセスが良好である。それとも、出雲の神様が私に絶対来いよ、と招いておられるのかもしれない。


 さてここで問題なのは二十七日に何をするかである。私は非常に悩んだ。そして初心に帰ることにした。そうだ、私はそもそも、文フリに出す小説を書くために旅に出るのではなかったか――。


 予定をギチギチに詰めた観光をすること、それ自体が目的ではなく、小説を書くためのインプットのための旅行なのだ。スマホを触らないようにすることで、読書の時間をむりやり作り出そうという目論見があっての旅行なのではなかったか。


 私はハッとした。そうだ、温泉街に行こう――。


 日中の予定はなんと、まだ未定である。これからぼちぼち探す。どこの温泉街に泊まるかも、また未定である。もう二日もないよ? そのとおりである。だが、そんなものはどうとでもなる類のものだ。ただ、旅館の予約だけはしておいたほうがよいかもな、と私は思ったのであった。


 島根県は出雲、松江近辺のよい観光スポットを知っている方がおられたら、是非教えて頂きたい。あまりにも予定がスカスカすぎて、きっと行くことになるだろうから。




 所持品についても、今のうちに記載しておきたい。予定しているものはこんなところだ。


 ・三日分の服

 ・タオル

 ・財布

 ・小さい鞄

 ・日焼け止め

 ・日傘

 ・予約確認書類

 ・大量の本

 ・腕時計


 こんなものだろうか。こう書くと少ない。コスパが良いのである。


 しかし、今一つだけ大きな問題に直面している。それは腕時計だ。私は腕時計を持っていない。メルカリで買ったが、なんとそれは北海道の方らしく、発送が今日の夜、つまり二十三日にされたのである。二十五日までに着くだろうか? 無理そうな気がする。私はダイソーで腕時計を買うことを決めた。







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