鳳濫觴

ともだち

 子供の頃、かくれんぼが好きでよく遊んでいた記憶がある。なにが面白いのかクスクスと笑ってしまってすぐ見つかってしまった。

 隠れる場所は押し入れの布団の間とか仏間の座布団の間とかベッドの布団のなかだとか窮屈なところが多かった。

 昔話に花を咲かせていると母が思い出したように、「仏壇の観音扉の隙間を覗いたりカーテンの間に顔を入れてなにやらこしょこしょと話していたね」と言う。

 そういえばかくれんぼで隠れていた場所もなにかの間だった。それに率先してそういう場所を探していたのを思い出した。だって面白いことがあるから。クスクス笑ってしまうのも楽しかったからだった。

 そこでふと、もう一人一緒に遊んでいた友達を思い出した。その友達に会えるのが楽しくて仕方なかった。私が隠れるとすでに友達はいて、私が来るのを待ち構えているのだ。だから母に呼ばれその場所から出るときは「またね」といって出ていく。きっとまたかくれんぼをすると会えるから。

 しかしいつしか大人になった私はそんな友達のことなどすっかり忘れてしまっていた。きっと最後のかくれんぼのときも「またね」と言ったのだろう。その「また」は来ることがなかったが。友達はきっと待ち続けているのだろう。暗いローテーブルの下、私の爪先の目の前で友達はじっと待っているような気がしてならない。

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