第46話

「今日は楽しかったですね。兄さん」

「う、うん」

「また行こうね」

「うん」


 妙に艶めかしく僕の手を触って言う桜木さんと花蓮。


 今日一日中、あのナンパ事件から二人とひと時も離れることなくずぅっとくっついていたので、ドキドキしっぱなしだった。


 二人は何ともなさそうな顔をして、僕の手とかお腹とかを触ったりするし、胸とか当たった時もかなりの頻度であって正直わざとしているんじゃないかなって思ったけれど、僕にそんなことするメリットなんてないと思うし。


 食事の時だって、桜木さんと花蓮は僕にあーんをしてきて少し戸惑ってしまった。


「あ、そう言えば兄さん」

「何?」

「楓の事をいつまでも桜木さんっていうのは、どうかと私は思います」


 僕の手をにぎにぎとしたまま花蓮がそう言ってくる。


 確かに、桜木さんとはかなり仲が良くなったし、いつまでも桜木さんというのも距離が遠すぎるような気もするけれど。


「桜木さんは嫌じゃないの?」

「私は、嫌じゃないな。むしろ楓って呼んで欲しいかも。いつまでも桜木さんは私、悲しいかも」


 上目づかいで僕の事をじっと見てくる桜木さん。


 楓ってよんでも見たいけれど、そんなに綺麗な目で見つめられてしまったら余計に言いにくくい。


「か、え、で、だよ?夕顔君」


 .............そうだ。


 桜木さんだって僕の事を夕顔君って呼んでいるじゃないか。


「桜木さんも、僕のことを名前で桜っていって欲しい」

「え、あ、え?」


 桜木さんはさっきまでの威勢がなくなり、口をパクパクさせながら僕の名前を呼ぼうとするけれど恥ずかしいのか声が出せないみたいだ。


「さ、さ、、しゃくら君!!」

「噛んでいますよ楓」

「だ、だって!!」


 桜木さんは頬を膨らませて花蓮に抗議する。


 桜木さんがここまで照れていると僕の方は段々と言いやすくなってきた。


「じゃあ、桜木さん。一緒に言いませんか?」

「う、うん」


 照れて下を向いて数秒。


 覚悟を決めたのか僕の瞳をじっと見つめてくれる。


「せーの」

「桜君」

「楓」

 

 二人同時に名前を呼び合う。


 桜木さんに桜って呼ばれるのはなんだか新鮮だ。


「さくらくん、桜君!!」


 僕の名前を呼ぶことが出来て楽しいのかはしゃいでいる楓を見ると僕まで嬉しくなってくる。


 それから、楓と別れるまで何度も「桜君」と呼ばれることとなった。



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