第18話

 にーさん、私のにーさん。


 どこへ行っても私はあなたのことを見てるの。


「じゃあ、僕は友達と遊びに行ってくるね?」

「はい、行ってらっしゃい」

「夕飯前には帰ると思うから。あ、でも遅くなる時は連絡するね」

「はい、分かりました」


 昨日、友達と遊びに行くって聞いたときびっくりしちゃって思わず固まっちゃったよ。


 あの女の事だよね。


 私、すこーしだけ怒ってるんですよ?


 兄さんが家を出た後に、私も準備をして家を出る。


 こんな時、銀髪が面倒臭い。これ、目立ちますし。


 だけれど、この銀髪を兄さんは褒めてくれたから私も、この髪のことは好きになった。


 家を出て数分。


 昨日、兄さんの部屋に入ってスマホを開いてあの人とのメッセージを確認しているから、どこで待ち合わせなのかもどこに行くかも分かってるから尾行しやすい。


 さて、兄さんはあの女とここで待ち合わせをしているはずだよね。


 探すと、ぁ、いた。


 なにやら、少し話してから二人並んで歩き始めた。


 はぁ、今日は兄さんに沢山我儘をいって困らせてあげよう。

 

 そして、たっぷり兄さんに分からせてあげるんだ。あの女の匂いなんて消えるくらい私の匂いを擦り付けて上書きしてやる。


 あいつが兄さんに触れるなんてあってはならないことだけれど、もし万が一あった場合はその部分を特に私の匂いで染め上げる。


 二人は、予定通り映画館に行ってポップコーンを買って入っていく。


 映画なんて、正直興味もないけれど来週は兄さんを誘って映画に行こう、そう思いつつ私もチケットを買って、兄さんたちがぎりぎり見える席を取る。


 映画の内容は、まったくと言い程見ていない。


 兄さんは純粋でピュアな心の優しい人だから映画にのめり込んで、まったく隣の変態に気づいていない。


 どうせ、あいつは映画なんて見ていない。


 見ているのは、美しくて完璧で綺麗な兄さんの顔だ。


 映画も中盤に差し掛かった頃、あいつが遂に動いた。


 なんと、あいつは兄さんの手を掴んだのだ。兄さんの断りもなく勝手に。私の許可もなく。兄さんは兄さんでどうしてそんなに照れたような動作をしているんですか?どうして?そんな手、払ったって誰も怒りませんよ?私なら精一杯褒めて甘やかして、私なしじゃ生きられなくするのに。


 ………はぁ、まぁそうですよね。兄さん優しいですもんね。そいつにも慈悲は与えますよね。


 あの阿婆擦れ本当にどうしてあげようかな。


 そのままあの阿婆擦れは映画が終わるまで兄さんの手を離さなかった。


 映画が終わり、明かりがつくとあいつは照れた顔をして心底嬉しそうな顔をしていた。


 私の眼には、光なんてなかった。


 

 

 

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