第16話 溺れていたいの
「あ、夕顔君。こっち」
「あ、すいません。待たせてしまって」
桜木さんと一緒に下校するために、待ち合わせをする。
渡したいものがあるしね。
「桜木さん、昨日は一緒に帰れなくてごめんね」
「え、いや、大丈夫だよ。本当に」
ぶんぶんと手を振って、本当に大丈夫だと示してくる。
「でも、申し訳ないことしたからさ。これ、貰ってくれるかな?」
「え、い、いいんですか?」
「うん、いいよ」
バックから昨日取った、ぬいぐるみを渡すと目を輝かせて受け取ってくれるので思わず僕の頬も緩む。
「か、かわいい」
「喜んでもらえて嬉しいよ」
「一生、大切にするね!!」
ぎゅっと、抱きしめて嬉しそうに笑ってくれる。
「あ、あのね。夕顔君」
「なに?」
「お、お礼したいんだけれど。こ、今週末とか空いていないかな?」
「空いてると思うよ」
「ほ、ほんと?良かった。なら、一緒にどこか出かけられないかな?」
「いいよ」
「やったー!!あ、お礼なんだから、遊ぶお金は全部私が払うからね?」
「え?いや、いいよ。僕が払うよ。申し訳ないし」
「だめ」
うーん、どうしたものか。
「だって、桜木さんとどこか出かけられるだけで嬉しいから、十分お礼になってるのに、お金まで払わせるなんて僕が最低になっちゃうよ?」
「え、あ、う、嘘!?私と出掛けれれて嬉しいの?」
「うん」
そりゃ、友達と、それも女の子と出掛けられて嬉しくない男子はいないだろう。
「わ、わかった。けれど、極力私で払うからね!!」
「はいはい」
絶対に引かないという意思を感じ取り、致し方なく頷く。
まぁ、実際に行ったら払わせないんだけれど。
その後は、二人でお出かけについてや、日ごろの授業の事など他愛もない話をして別れることになった。
—————————————————
あ、あのぬいぐるみ、私の為に取ってくれていたんだ。
物凄くだらしない顔になるのを押さえて、帰路に着く。
…でも、私、知ってるよ?
夕顔君、もう一つ取ってたよね?
それは誰にあげたのかな?
クラスの女の子かな、それとも別の学校の子?…それともあの妹に?
まぁ、いいか。
夕顔君は、絶対に最初に私を思ってこのぬいぐるみを取ってくれたはず。そうだよね?
だって、夕顔君は私とお出かけ出来て嬉しいって言ってたもんね。
私、嬉しすぎてどうにかなりそうだった。だって、好きな人からあんな言葉言われて喜ばない女はいないよ。あなたの事が大好きな私なら尚更、だよ。
思い出して、思わず夕顔君からもらったぬいぐるみをぎゅっと強く抱く。
あぁ、これが夕顔君だったらもっと素敵なのに。まぁ、そうなったら私の理性が持たずに多分、夕顔君の事を襲っちゃうだろうね。
家に着き、制服から着替えて、ベッドへぬいぐるみと一緒に飛び込む。
写真のフォルダーを開き、夕顔君の完璧で格好良くて美術品のような美しいご尊顔を映し、ぬいぐるみを片方の手で強く抱いてもう片方の腕は下へとのびていく。
「んっ.......はぁ」
いつのまにか日課になっていた。
が、今日から夕顔君から貰えたぬいぐるみも一緒で、さらに捗った。
お風呂へ入る時間になっても、夕飯の時間になっても私は、止まることができなかった。夕顔君の写真、思い出すだけで、体が反応してしまうほどの笑顔、そして、微量ながらぬいぐるみから漂う夕顔君の匂い。
夕顔君は、本当にいけない人だね?
女の子をこんな風にしちゃうんだから。頭がおかしくなっちゃうよ。でもね、それでいいの。あなたに溺れていたいの。
お出掛け、楽しみだね。
ぬいぐるみを抱く力、指に入る力が一層強くなった。
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