第6話 パティシエ花蓮

「ただいまー」

「……おかえりなさい、兄さん。遅かったですね」

「う、うん。今日は少し用事があったんだよね」


 用事があったというか、作られたというか。


 っていうか、どうしたんだろう。いつもより花蓮が暗いような。


「その用事ってなんですか?」

「いや、桜木さんに絡まれてさ」

「…………ふぅーん。そうですか」


 しばしの間の後に、そう呟いてリビングに戻っていくので、僕も部屋に荷物を置いてからリビングへ。


 帰るのが遅くて、心配させちゃったのかな。


「......そこに座ってください。兄さん」

「うん」


 テーブルにいつものようにお菓子が置かれている。


 今日は、ショートケーキみたいだ。


 僕が席に着くと、花蓮は自然にぼくの隣に座った。


「あの......花蓮さん?」

「なんですか?」

「なぜ、僕の隣に座っておられるので?」

「気分ですけれど。ケーキ食べないのでしたら、私が食べますけれど?」


 そう言って、花蓮は先に食べ始める。


 気にしてもしょうがないか。そういう気分な時もある......のか?


 僕的には、嬉しいからいいけれども。


「兄さん、好きな人はできましたか?」

「ぶっ!!きゅ、急にどうしたの?」

「ただの世間話ですが」


 何でもないように、急に話し始めたので思わず吹き出してしまった。


「す、好きな人。......いないかなぁ」

「そうですか」

「逆に花蓮に好きな人はいないのか?」

「いませんね」

「そっか」


 本当にただの世間話だったのか、そう言ってこの話題は終わってしまった。


「兄さん、はい。これ」

「え!?」


 花蓮は、フォークで綺麗に切り取った物を口に運ぼうとしてくる。


 あーん、という奴だ。


「ど、どうしたんだよ。花蓮」

「気まぐれですけれど?食べないんですか?折角の妹からの好意というのに」

「わ、わかったよ。ありがたくいただきます」

「あーん、です」

「あ、あーん」


 ......美味しい。美味しいけれど、どうしたんだ?花蓮。


 以前にもたまにあったけれど、急にこういうことしてくることがあった。動機はわからないが。


「今日のショートケーキも手作り?」

「はい、私料理が好きなので。嫌でしたか?」

「いいや、花蓮は料理が上手だなって。何時までたってもお世話になりっぱなしだなって思っただけ」

「ほんとにそうですね」

「直球だなぁ」


  僕も、ちゃんと料理とか家事をしようと思ったんだけれど、やろうとすると花蓮が怒るので、出来ない。


 なかなかに理不尽。


「それで、今日のショートケーキはどうでしたか?」

「いつもどおり、美味しかったよ」

「ふふっ、そうですか」

 

 そう、口元をにやけさせ、意味深に笑った。

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