第一章

第1話 過去の召喚の話

 俺達はこの国の王族から、一通りの話を聞いた後に部屋に案内された。

 俺は別に慣れているから平気だが、他の4人はキャパオーバーで…詳しい話や今後については翌日話す事になった。

 多分これ以上話をすると、コイツ等ではついていけないからだと思ったからだ。


 「不知火君…先程は僕に現実を知れと言っていたが、あれはどういう意味なんだい?」

 「マサギ…俺の経験上の話になるが、お前みたいな奴が真っ先に死ぬからだよ。」

 「それはどういう…?」

 「もう関わっちまったし、今迄の召喚の話をしてやるよ。」


 俺は4人に話した。

 最初の召喚は、12歳の頃だった。

 友達と別れてから家に帰っている時に魔法陣が現れて異世界に召喚された。

 その世界はアヴェリシアという名前の世界で、ここでも魔王を倒す為に手を貸して欲しいという話だった。

 だが、俺のジョブは【勇者】ではなく、【アンノウン】と表示されていた。

 最初に呼びだした者が得体の知れない者として扱われたが、剣技は出来るし魔法も普通に使えた。

 冒険者の仲間を紹介してくれて、その仲間と共に3年の歳月をかけて魔王を打倒した。

 そして送還の儀で俺は帰る際に、使っていた武具をそのまま報酬として持って帰る事を許可されて収納魔法に入れてから送還された。

 気付いたら元の場所で、年齢も召喚される前のままだった。


 「初めての召喚が12歳とはね…」

 「じゃあ、本当の年齢は僕等より年上なのかい?」

 「かもな…どの世界でも1年で倒した事は無かったからな。」


 次の召喚は13歳の時だった。

 またも魔王が甦って再召喚されたと思っていたが、今度の世界はイヴァリアースという別世界だった。

 久々に仲間に会えると思っていたが、それは叶わなかった。

 そこでは前回での知識を生かして2年弱で魔王を倒した。

 そして報酬にまた武具を貰ったのでそれを収納魔法に入れて帰ると、召喚される前の時と同じ姿になっていた。


 「1年後にまた異世界召喚って…」

 「何か前触れみたいなものはあったのか?」

 「そんなのがあるのなら、行くのを拒否するよ。」

 「そうでしょうね…」

 「次はちょっと重い話になるぞ。 聞くか?」

 「あぁ、話してくれ!」

 「その前に、△△県のクラス消失事件って知っているか?」

 「学校のクラス纏めて消えたという話だよな? 一時期ニュースで騒がれていたな。」

 「確かあの時って、1人だけ生徒が残っていたって…」

 「それが俺だ。 3回目の異世界召喚は、クラス丸ごと召喚されたんだから。」

 「そのクラスメートはどうなったんだ?」

 「全員死んで俺だけが残った。」


 3度目の異世界召喚が起きたのは、学校のホームルームの最中だった。

 そしてまたもウルヴェリアスという別世界だった。

 3回目の異世界召喚は、今迄とは少し様子が違った。

 それは敵が進軍してきている最前線の前で召喚されたからだ。

 クラスメート達は、訳が分からぬままに武器を持たされて自軍と共に戦う羽目になった。

 その戦いで半数が死に、半数が生き残った。

 だけど、戦いはそれで終わった訳ではない。

 そんな時、生き残った者の中に熱血漢の塊のような奴が言った。


 「諦めるな! 下を向くな! そんな事をしても死んだ者達が生き返る訳じゃない! 皆…生きて帰ろう!」


 そう言って次の戦いに駆り出されたが…そう宣言した奴が次の戦いで真っ先に死んだ。

 そして1人…また1人とクラスメート達が死んでいった。

 残った数名は気が狂いだしておかしくなっていた。

 そして自ら命を絶った者や、戦場から逃げ出して魔物に殺された者もいた。

 俺は最後の1人になると、残った魔王を倒して感謝された。

 そして俺だけ送還されたのだが…魔王を倒せば帰って来た時は死んでいる者達は生き返っているとか思ったが、クラスにいたのは俺1人だけだった。

 その後が大変だった。

 忽然とクラスメート達が消えたのだから、当然その親達は子供の捜索をした。

 だが、異世界で死んだ者達が見付かる訳もない。

 俺も色々聞かれたが、異世界に召喚されてからクラスメート達は死んだので戻って来ない…何て言う話を信じる訳もなく、俺は口を閉ざした。


 「その時の熱血漢が、今のマサギみたいな奴だった。 勇者という肩書きがどんなに立派でも、戦った事が無い奴が生き残れるような甘い世界ではない。」

 「確かに…軽率な発言をした。」

 「解れば良い。」


 俺は3回目の召喚で起きた学校に入られずに転校をしてからしばらく経った時、4回目の召喚も学校内で起こった。

 今度は学校その物が異世界に召喚されたのだった。

 今度の召喚は前回とは違ったのは、召喚された者達にはギフトが備わっていた事だった。

 とはいえ、ギフトを貰っても使い方が解らなければただの宝の持ち腐れだった。

 学校を拠点として周囲の魔物と戦っては見たが、いつも敗戦をしていたのだった。

 最初の1週間でまたも学校の生徒の半分が死んだ。

 1か月後には10人満たなかった。

 俺は最後まで1人で戦っていたが、学校に戻ると建物は残骸と化していて…生きているのは俺1人だけだった。

 そして俺は魔王を倒して学校と共に元の世界に戻って来た。

 学校は復元していたが、異世界で死んだ者達は戻っては来なかった。

 またも俺だけ学校から発見されると、また質問攻めにあった。

 異世界での話をすれば一番説明が早いと思うのだが、それを話して信じられる者が果たしているだろうか?

 俺はまたも学校を転校したのだが、警察は俺が何かを知っていると思って何度か転校先にも来ていたのだった。


 「話したくても話せないというのが一番つらいよね?」

 「こうして異世界に召喚されなければ、話されたところで中二と勘違いされるだろうしな。」

 「その話って、××県の学校生徒集団消失事件だよね?」

 「その時にいたのも俺だけだった。 だから警察にマークされていてね。」

 「確かに不知火君だけがいつも1人で居たら怪しまれるよね?」


 5回目の召喚の時は、転校初日だったが1人だったから気が楽だった。

 4回目の時はエルヴェリシアという世界で、5回目はオルヴェンテスという世界だった。

 5回目の召喚の時は世界が少し発展している世界で、魔王討伐という任があったけど技術を学んでいたのだった。

 それは何故か?

 今迄の召喚時には、その前の世界で貰った聖剣とかを使用していたが…伝説の聖剣だって破損はするし劣化もする。

 今迄の世界ではその修理方法が無かったが、この世界では修理方法があったので技術を学んで補修をした。

 この世界では伝説の剣は聖剣ではなく魔剣だった。

 俺は魔剣を手に入れてから魔王を倒して世界を平和にした。

 ところが5回目に呼び出した国王は強欲な人間で、俺の持っている全ての武器を置いて行けと言われたので、腹が立って城を滅ぼしてから宝を全て奪い取った。

 どうせこの国にはもう来ないからとやりたい放題してから元の世界に帰ったよ。


 「お前…とんでもない悪党だな!」

 「そうか? 勝手に呼び出しておいて、魔王を倒せばよくやったの一言だけ。 そして俺の聖剣や魔剣に目が眩んで全て渡せと言われたんだぞ!」

 「だからと言って、城を滅ぼすのはやり過ぎじゃないか?」

 「国王の命令で騎士団を俺に仕向けてから、コイツを殺して奪えとまで言われたんだぞ!」

 「それでその国王はどうしたんだ? 殺したのか?」

 「いや、国民の中に放り出した。 重税と圧政に苦しんでいた国民達にとって、この国王は憎むべき対象だからな。 騎士団という後ろ盾がない奴なんか国民にボコボコにされて最後は悲運な死を遂げたよ。 まぁ、宝は返さなかったけどな。」

 「それは…国民に返す流れだろう?」

 「報酬もなしに奪われそうになったんだ。 これくらいどうって事無いさ。 それに国民には城にはまだお宝が眠っていると言っておいたから、俺が帰った後も必死になって探している筈さ!」

 「それで…次の召喚はこの学校に来た時か?」

 「いや、ここに来る前の話だ。」


 6回目の召喚は、カルヴァドスという世界で…またクラスメート数人を巻き込んで召喚した。

 まぁ、ここでも最終目標が魔王討伐でな…ただ今回は前回までと違ったのは、俺のジョブがアンノウンで他の者達が勇者だの聖女だので、俺は役立たずの烙印を押されて城から追い出された。

 俺は冒険者ギルドに登録をして魔王の幹部や聖剣や魔剣を手に入れて活躍している一方で、勇者達は大した活躍をしていなかった。

 そうしてしばらくしたら、俺は城に呼び戻されてな。

 本来聖剣や魔剣は勇者が所持する物だから引き渡せと言われて、断ったら騎士団を俺に差し向けて殺す宣言をされてな。

 騎士団を全滅させてから国王の首元に剣を当てながら…

 「ふざけた事を抜かすなら、魔王の前にお前を消すぞ!」…なんて脅してから国を去ったら、いつの間にか全世界に指名手配されてな。

 魔王の配下や幹部を倒しながら人間側からも狙われるという生活が結構怠かった。

 魔王を倒すと態度が一変してな、凄く優遇されたよ。

 だけど、それだけだと俺の気が収まらなかったので…国王を諸悪の権現と言い触らしてから国王は王の座を追われ国が滅んだ。


 「なら、今度は全員で元の世界に帰って来れたのか?」

 「いや…勇者と剣聖と魔導師の3人は、自分のジョブに過信して旅先で死んでな。 聖女の女だけが一緒に帰って来た。」


 まぁ、その後の説明をすると…

 また失踪事件に俺が関与していたという話になったが、聖女だった女が異世界に召喚されたという自供をしたが、警察やその他の者達は一切信用していなかった。

 聖女の女は俺にも意見を言う様に言って来たが、俺はすっ呆けると…聖女の女は虚言壁の持ち主だと言われて病院に担ぎ込まれた。

 

 「なんだか…その女の人が可哀想だな!」

 「仕方がないさ、実際に体験した事が無い奴じゃないと信じられる話じゃないからな。」

 「よし決めた! 不知火君、僕達は必ず生き残る…その為には君の聖剣を貸してはくれないか?」

 「やなこった! 先程王族が話していたろ、この世界にも勇者が手にするという聖剣があると…それを手に入れて使え。」

 「それまでの繋ぎの武器として貸して欲しいと…」

 「それこそ断る! 武器を持った事が無い、使った事も無い奴に聖剣は使いこなせないさ。 言ったろ、聖剣もゲームや漫画の様に万能では無いからな。 使って行けば劣化もするし破損もするんだよ。」

 「ケチ臭い事言わないでよ!」

 「ケチで結構! そうだな…ある程度の経験やレベルを稼ぐ事が出来たら考えてやってもいい。 それまでは国から与えられた武器を使え。」

 「賢者とか聖女がいるという事は、この世界には魔法が使えるのかな?」

 「使えるだろうな、こんな風に…」


 俺は右手を開くと炎が出てから閉じると消して見せた。


 「不知火は聖剣や魔剣以外にも武器はあるのか?」

 「あるよ、聖杖と魔杖がね。 言っておくが貸さんぞ。」

 「経験を積めば貸してくれるか?」

 「後死ななければな! 死んで奪われるのが一番つらい。」

 「では、今後の目標が決まった! まずは僕達は武器を使いこなして、魔法を使える様になり…レベルを上げて死ななくなる道を目指そう。 そうしたら…不知火君の武器は貸してくれるかい?」

 「考えておく…」


 口で言うのは簡単だが、そんなに簡単に事は運ばないさ。

 まずは初めの一歩が踏み出せるかどうかだけど…果たしてどうなるやら?

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