武器化少女と処女ビッチに挟まれた俺、とりあえず異世界で無双する。剣と魔法の世界なのになぜ俺だけ大鎌なの? まあいいけど。いいんかい。-葬鎌のシスフェリア-

肩メロン社長

第一章 いつか目覚めること、それだけが怖かった。

000 マイネームイズ

 中学一年の頃。俺をカツアゲしてきた二つ上の先輩が、ボクシングをかじっていた。


 旧校舎のトイレに連れて行かれ、帰宅部な俺はボッコボコ。しまいには一ヶ月分の小遣いをパクられ、また明日もここに来いよと唾を吐きかけられた。

 怒りで頭がおかしくなりそうだった。

 だから俺は、痛みに震える体を押さえつけて母ちゃんに言った。



「俺、ボクシングやりたい」

「ぷはははは、ユウキがボクシング? まあいいけど――とりあえず、その顔大丈夫?」



 俺を産んですぐ旦那に逃げられた母ちゃんは、可愛いかわいい我が子が顔面を腫らして帰ってきたというのに、それを見て爆笑をかましやがった。

 ひとしきり笑い終えたあと、母ちゃんは財布から一万円札を取り出して言った。



「やるからには中途半端で終わらせるんじゃないよ。んじゃ、母さんは仕事に行ってくるからね~。ばぁーい」



 甘ったるい香水を体に吹きかけて、母さんは夜の街へと繰り出した。テーブルの上に一万円札を残して。

 許可はもらった。あとは、この煮えたぎる復讐心に身を任せて行動するだけ。


 脳裏にこびりついたあのクソ野郎をボコり返す。

 ただそれだけのために、俺は一万円を持って家を飛び出した。


 それからすぐ俺は、隣町にあるボクシングジムに入会した。


 朝から酒を煽り、借金の取り立てに来たお兄さんたちにボコられながら媚びへつらい、俺の渡した会費を向かいの風俗で費やすようなクズオヤジだったが、贅沢は言っていられなかった。


 学校には行かず、約三ヶ月間……オヤジの言われた通りに血反吐を撒き散らし、走って跳んでサンドバックを打つ。すべては、あいつを倒すために。



「頭は流水のように冷たく、肉体は燃えるように激らせ、しかしてローションのようにしなやかであれ」

「ローション……?」

「ドロドロ、テカテカ、ヌルヌル」

「ぬる……?」

「理解できねえならガキぃ、もう一時間追加で走ってこい」

「……!?」



 さまざまな理不尽に耐え忍び、オヤジのゴーサインをもらって俺はようやく学校に顔を出した。

 約三ヶ月ぶりの校舎。

 手には母さんのクレジットカードを握り締めて、憎き先輩の教室へ向かった。


 下級生が一人で、しかも手にはクレジットカードを携えて上級生のクラスに入ってきた。異様な注目を浴びながら、俺は憎き先輩と三ヶ月ぶりの邂逅を果たした。



「お、おはよう……先輩」

「あ? ――ユウキぃ。おまえなに学校サボってんだよ。てめえのせいで遊ぶ金がすこし足りな――」

「だ、と思って、ほら先輩。三ヶ月分以上の金、持ってきました」

「!?」



 震える声を押し殺すように、クレジットカードを机の上に叩きつけた。

 鼻と鼻が触れ合う距離。先輩とキスができるその距離まで詰めた俺は、先輩を睨み返した。



「あ、れ」


 

 おかしい。おかしなことが、起きている。

 俺は、思わず後退ってしまった。

 おかしい——これは、何かが違う。


 三ヶ月前――俺は確かに、目前の先輩に恐怖を感じ、ビビって動けなくなっていた。

 いいように殴られ、奪われて。思い出すだけで怒りが煮えたぎってくるのに、おかしいぞ。おまえは誰だ。


 あの時感じた気迫というものを、俺は……先輩から感じることができなくなっていた。

 それを理解した時、俺のうちで燃えていた復讐心もどこかへ飛んでいってしまい……。



「す……すんません。やっぱ俺、帰ります」

「待てやオイッ!」



 何事もなかったかのように踵を返そうとした俺を、先輩が静止した。周囲では、今の怒声で女子生徒が悲鳴を漏らしていた。



「ここまでやっといて、なんでもありませんでしたはねェだろうがよォッ!?」

「い、いやだってホントになんでも——」



 机と椅子を蹴り飛ばし、拳を振り上げながら距離を詰めてきた先輩。

 あ、れ。

 なんか視えるぞ——



「——ふんがッ」

「あ……」



 なんとなく視えた軌跡。そこへ滑らせるように左牽制ジャブを入れてみると、驚くほどあっさり先輩の頬を打った。次いで、反射的に動く右ストレート。

 基礎中の基礎として叩き込まれたジャブの後にストレートワン、ツーが、先輩の顔面を打ち抜いた。



「あが――ぎゃッ」

「……ああ、でもこれは」



 教室におおきな悲鳴が上がる。

 床に突っ伏して意識を失う先輩に人が群がるなか、俺は内側で開花したナニカに酔っていた。



「な……なんなのよ、あんた……なんで――勃起してんのよ……!?」

「―――」



 そうか。これが快感か。



 先輩に仕返しをしたい。そんな目的ではじめたボクシングだったが、その日以降、俺は誰かを合法的に殴れることへの高揚感が、目的モチベーションに転じていた。


 

「停学だってのに、嬉しそうじゃあねえかガキぃ」

「早くプロになって、強いヤツと戦いたいです」



 確信があった。

 強い拳を持つ人間を屈服させた時の爽快感は、価値は、計り知れないものになると。


 もはやあの先輩ゴミをいくら殴ったところで満たされない。

 故に、プロの世界じゃないとダメなのだ。



「もっと強いヤツと……俺は戦いたい」



 その願いは、チャンピオンベルトを担ぐことになったその日に、叶えられることとなる。

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