第14話 アストラル・ウェポン

 登校したシロウたちは、一足先に教室へと来ていたネオンに着席を促された。


「今日は授業前に話したいことがあるので、みんな座ってー」


 全員が着席し、ネオンが教壇に立って話を始める。


「そろそろ学院の生活にも慣れてきた頃合いだと思います。来月には遠征実習もあるので、頑張っていきたいところだね」

「実習の前に、わたくしたちに渡すものがあるのではありませんか?」

「それは何かな?」

「ずばり――星辰器ですわ!」


 思い切って言い放つアリシアにネオンは微笑んだ。


「そうだね。星辰器がないと特別クラス用の訓練もできないし」

「まだ星辰器の調整は終わっていませんの?」

「それがなんと、先ほど調整が完了した星辰器が届いたんだよ」


 シロウたちが扱う特製武器が満を持して学院に到着したらしい。ネオンが教室のドアに向けて呼びかけると、一人の少女が入室する。


 白衣を着た小柄で童顔な少女はネオンの隣に立つと、理知的な瞳で特別クラスの生徒たちを見回し、こほんと咳払いをした。


「ボクは星辰器の整備を担当するメカニックだ」


 素っ気なく自己紹介をする少女。

 名はニーナで、星辰力の研究に務める組織に所属しているらしい。


「お前たちが星辰器を雑に扱って壊したとしてもボクが直してやる。ありがたく思え」


 上からな態度だが、容姿がソーニャと同じぐらいの子供に見えるせいで背伸びをしているように思えてしまう。


 実年齢は定かではない小さなメカニックは、白衣のポケットに手を突っ込んでドアの方に向かった。


「お前たちの星辰器を見せてやる。ついてこい」


 そう言ってドアを開けたニーナに従い、シロウたちは学院敷地内の外れに到着した。


 周囲には森が広がっており、樹々が取り払われた円形の空間に近代的な白亜の建物があった。

 ここは校舎や訓練所がある区画とは別の区画で、シロウが足を踏み入れたのは初めてだ。


「あの建物に星辰器があるのだろうか?」


 前を歩く白衣の少女にシロウが問いかけると、ふんっと鼻を鳴らす音が返ってくる。言わずとも分かるだろうとばかりに無言で突き進む彼女にシロウたちは付いていった。


「ここは星辰器のテストを行う場所だ。今日から訓練や模擬戦はここでやってもらう」


 ニーナが出入り口の透明なドアをスライドさせて開く。

 内部は白い空間が広がっており、研究所のような内装になっていた。エントランスを抜けた先のロビーにはソファーや食糧と飲料を販売する自販機があり、くつろげるように整えられている。


「こんな場所を手配してくださるなんて、学院も気前が良いですわね」

「それだけお前たちが期待されているということだ」


 振り向いたニーナは、アリシアや他の面々に向けて言う。


「星辰力に適応するヤツ自体は珍しいものじゃない。お前たちの教官だって適応している」

「ネオン教官が? 以前に星辰器は使えないと言っていたが」


 入学初日にネオンが拳銃型の星辰器を見せてくれた時を思い出す。彼女は確かに星辰器を使えないと言っていた。


「数値の問題だ。ネオン・ユリシーの適応値とお前たちの適応値では相当な差がある。お前たちは人類史上でも稀なほど星辰力に愛されているんだ」


 星辰力は大気中だけではなく人体にも宿る。

 人間には星辰力を溜め込んだり放出する力が少なからず備わっており、その力が万人よりも優れているのが特別クラスに選出された生徒たちだった。


「適応値が優れていると言っても、星辰力の操作を習わなければ話にならない。ここはそのために用意された場所だ」

「なるほどな」

「着いたぞ。ここにお前たちの星辰器が保管されている」


 とある一室の前でニーナが足を止めた。

 入室用のカードキーのようなものをドアの差込口にスライドさせ、ニーナは部屋を開ける。生徒たちは中に足を踏み入れた。


 部屋の中央には大きなテーブルが配置されており、その上には大小様々なケースが六つ並べられていた。


「ケースの表面にお前たちの名前が記されている。各自受け取って中身を確認しろ」


 ニーナの言葉通り、シロウは並べられたケースの中から自分の名前が記されたものを見つける。


 エーデル姉妹とシャルン、ジェシカとソーニャも自分のケースを見つけ、それぞれ異なる表情で見下ろした。


 ユリリカは普段と変わらずクールな無表情。アリシアは期待に満ちた表情で瞳を輝かせている。シャルンはユリリカと似たような無感情さを露わにしており、ジェシカは感慨深げにケースを眺める。ソーニャは興味がなさそうにあくびをしていた。


「開けるか」


 誰もケースを開けようとしなかったので、シロウは率先して中身を確認することにした。留め具を外して無機質な横長の匣を開放させる。


「刀か……」


 ケースに収められていたのは、シロウが普段扱っている東洋の刀と同じような形をした太刀である。しかし材質が東洋製のものとは異なり、刀身は白く塗り染められていて、訓練所で使っていた魔導剣に似ていた。


「これは、わたくしが得意とする武器ですわ。恐らく入学試験のデータを参考にして造られたのでしょうけど」

「私のも元から使っていたものと似たような武器ね」


 ユリリカは二丁拳銃を両手に握る。アリシアの武器も両手で使う双円両刃と呼ばれる代物だった。

 

「私のだけ凄く大きい……なんだか、ちょっと恥ずかしいかも」


 ジェシカが両腕に抱えるものは、なんと戦鎚であった。

 柄は細長く、先端は鳥のくちばしのようになっている。戦鎚にしては小さめではあるが、小柄なジェシカが抱えていると不釣り合いな印象を抱かせるほど他の武器より大きかった。


「ソーニャちゃんは……鉤爪?」

「鉤爪型ナックル。爪のところに指が入って動かせるから、殴ったり裂いたりできるやつ」


 鉤爪型ナックルを嵌め込んだソーニャは両手を上げて指を開いてみせる。爪の部分には関節があり、ソーニャの指の動きに合わせて屈曲する。


「ソーニャさんの武器は私と似ていますね」


 片手に漆黒のガントレットを嵌めたシャルンがソーニャに微笑みかける。こちらも指先は鋭い爪型になっていて、東洋に伝わる鬼という種族の魔手を彷彿とさせた。


 全員が星辰器を持ったところで、ニーナが提案した。


「さっそく星辰器を使って模擬戦でもやってみたらどうだ?」 

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