第6話 寮舎と入浴事情とメイド

 特別クラスの面々が住むことになる寮舎は他生徒とは異なった。

 少し離れた場所に並び立った二つの大きな寮舎より幾分か小さいものの、建てられて日が浅いのか真新しい外見だ。


「あっちの二つの寮舎が男子寮と女子寮。あなたたちが使うのはこっちの専用寮舎だよ。男女共用だけど、そこは我慢してほしいな」

「俺は構わないが……」


 シロウは自分以外の女子たちを見る。

 男と共同生活をするのは年頃の女子として気になるのではないか。


「部屋は分かれているのでしょう? ならば、そう気にすることでもないと思いますわ」

「六人分の部屋はきちんと用意されているので、そこは問題ないね」

「荷物を部屋に運ぶ時間もあるのだし、さっさと入りましょう」


 ユリリカがネオンとクラスの面々を急かすように言う。

 一同は寮舎に入り、内装を眺めた。


 一階の中央部分は広々としたロビー。そこから上下左右に別れたルームがあり、それぞれキッチンや浴室などがあるようだ。


 生徒たちの部屋は階段を上がった先であり、二階には八つの個室があった。

 六人が使う部屋を割り当てなければならない。唯一の男子であるシロウは、一番端の部屋を選択した。


 シロウの部屋から一つ空けた先の部屋にユリリカ。姉の隣部屋を陣取るようにアリシアが選び取る。

 アリシアの隣がシャルン。その隣がジェシカ。そしてジェシカの部屋と対面する部屋がソーニャに決まった。


 自室の中を確認してロビーに戻った生徒たちに、ネオンが寮の設備について説明してくれる。


「寮母さんが来るまで食事当番を交代制でやってもらいたいので、キッチンの出入りは自由。月に何度か学院側が食料を支給するので、腐らないうちに使い切ってね」

「寮母さんは未だに決まっていないんですの?」

「特別クラスができたのが急だったからね。そのうち決まるから待っててね」


 アリシアは不服そうに鼻を鳴らす。彼女は料理が苦手なのか、姉に泣きついた。


「食事を作るのはお姉様に任せます。わたくしは食べる係ということで」

「仕方ないわね……あんたが当番の日は私が引き受けてあげるわ」

「さすがは妹思いの心優しいお姉様。美味しい料理を期待していますわよ」


 エーデル姉妹のやり取りにネオンが呆れ顔を見せる。

 学院側の決めたことを無視する自由な姉妹を注意し、ネオンが話を続ける。


「一つ考えなければならないことがあって……実は浴場が男女共用になっているの」

「そ、そうなんですか?」


 ジェシカが驚くように上ずった声を上げる。

 ネオンは困り顔で頷き、シロウと顔を合わせた。


「シロウくんは男子なので、入浴する時間を女子たちと離したほうがいいと思うんだけど……」

「そうだな。皆が入る前に速やかに入浴を済ませるとしよう」

「別にシロウさんが一緒でも、わたくしは構いませんわよ」

「あんたは大丈夫でも他の子が気にするのよバカ妹」


 アリシアは混浴でも何ら問題ないと言うが、他の女子は気になるようで、さり気なくシロウを睨んで牽制する。


「アリシアの言うことはともかく、さすがに入浴の件は配慮しなければならないだろう。俺は夕食が終わった直後に浴場を使わせてもらう」

「うん……そうしてくれると助かるよ」


 恥ずかしそうに頬を赤く染めるジェシカだった。

 他にも寮生活においての決め事を話し合い、夕方に差し掛かる前に実家から寮へと荷物を運ぶことにした。


 シロウはエーデル姉妹と共に寮を出ると、庭先に停まった豪奢な魔導自動車を目にする。


「あれはお前たちの迎えか」

「そうね。侍女が迎えに来てくれたみたい」


 ユリリカとアリシアは魔導自動車から降りた妙齢の女性と向き合う。

 侍女服を着込み、頭に獣耳の形をしたカチューシャをつけた女性はシロウに気づくと、スカートの裾をつまんで優雅に一礼してみせた。


「お嬢様のご学友の方ですね。私はエーデル家に仕えるメイドのノエル・フランシールと申します。以後お見知りおきくださいませ」


 シロウは初めてメイドという存在と対面し、こんなにも優雅なのかと感動を覚えた。下手をすれば貴族であるユリリカやアリシアよりも淑女のように思える。


「何か失礼なことを思われた気がするわね」

「違うんだ。俺は今、メイドの気品溢れる仕草に感動していたところだ」

「私たちと違ってノエルはお淑やかで穏やかに見えるでしょうけど、こう見えて戦闘になれば肉食獣のように荒々しいのよ」

「お戯れはおやめください、ユリリカお嬢様。私は戦闘でも優雅であることを心がけていますので」

「どの口で言うんだか……」


 柔和に微笑んだノエルはシロウに頭を下げ、エーデル姉妹を車の後部座席へと促した。


「それではシロウ様、またいずれ」


 運転席でハンドルを握ったノエルは魔導自動車を発進させ、学院の門を通り過ぎていった。


「俺も帰って師匠に報告するか」


 特別クラスに所属したという事実を保護者であるリンカに伝えるために、シロウもまた帰宅するのであった。

 

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