第13話 バイキング


 それからもクマ牧場を満喫した二人。


 オリに入ったクマを見るのではなく、人間がオリに入ってクマが寄ってくる施設や。小さくて可愛いアヒルたちのレースが見れるアヒルレースなど。

 ずっとサッカーのことで頭一杯だった拓斗にとって、いつ以来かわからないほど、ゆっくりとした旅行を楽しんだ。


 そして時刻は14時を過ぎたころ。

 二人はクマ牧場から帰るゴンドラの中にいた。



「はあ、私のクマさんたちが遠くにいっちゃう……」

「さっき十分満足したって言ってただろ」

「そうだけど……そうだけど……楽しかった」

「ああ、そうだな」



 名残惜しそうにする杏。

 上りとはまた違った見え方のする下りの景色を二人は眺める。



「気が付いたらもう14時だよ。5時間くらい見てたのかな?」

「それぐらいだな。最初はクマだけだからすぐ見終わると思っていたが、意外とそうでもなかったな」

「ほんとね。それじゃあ、ご飯いこっか。お腹空いちゃった」

「この辺って何処にお店があるのかも、何処が美味しいのかもわからないからな」



 登別駅からクマ牧場へ来る途中にいくつかお店は見えたが、ほとんどが閉まっていてどんな料理を出すお店なのかわからなかった。

 遠い地で歩いて探すか、スマホで調べるか。

 すると、杏は不敵な笑みを浮かべる。



「ふっふっっふー、実は私ね、行きたいお店があるんだあ」

「そうなのか」

「なので拓斗くんは心配しないで着いてきてね」



 どうやら事前に調べていてくれたらしい。

 ゴンドラを降りた二人。そこから少し歩くと言われ、拓斗は杏に着いて行く。



「えっと、この先に……」



 少しだけ坂になった道を歩く二人だったが、杏が前方を指差す。



「あった!」

「これは……」



 前方に見えたのは左右に伸びる桜の道だった。

 客人を歓迎するようにピンクの花のトンネルがどこまでも続く景色は鮮やかだった。



「この桜の道、毎年こうやって綺麗に咲くんだって」

「へえ、凄いな……。こんな景色、初めて見たかもしれない」

「ふふん、良かった。あっ、写真撮っておこっと」



 スマホを取り出し撮影を始める二人。

 ムービーに切り替え、歩きながら撮っていく。

 歩いても歩いても、咲き誇った桜に囲まれる世界。

 そして花と花の隙間から見える青空が、更にこの世界を美しく彩る。



「はあ、終わっちゃった」



 数分ほど続いた桜の道を通り過ぎた二人。



「だけど目的地はここじゃないよ」

「桜は食えないからな」

「どんだけお腹空いてんのさ」

「仕方ないだろ、久しぶりに歩いたんだから」

「それもそっか。まあ安心して、ちゃんと食べられる場所に案内するから」



 そして次に着いたのは旅館だった。



「旅館?」

「そう、旅館。ここ宿泊だけじゃなくって、日帰り温泉プランってのも人気なんだって」



 早く早く、と杏に手招きされて館内へ。

 玄関を抜け受付へ。

 どうやら杏は前もってプランなんかを決めていたらしく、受付もスムーズに終わった。



「よし、バイキング食べに行くよ拓斗くん!」

「ん、わかった」



 どうやらバイキングらしい。

 杏が決めたので、拓斗は黙って彼女の後を付いて行く。



「へえ、結構人いるんだな」

「時間も時間だし、もう少し空いてるかなって思ったんだけどね。人気ってネットに書いてあったからさすがだね」



 14時なのでお昼時はもう過ぎている。

 それでも席は7割ほど埋まっていて賑わっていた。

 二人は席に座りながら、店員さんの説明を聞く。

 どうやらここのバイキングはメニュー表を見て、食べたいものを注文するシステムらしい。



「よし拓斗くん、いっぱい食べるよ!」

「もちろん」



 二人はそれぞれ食べたいもの書き注文した。





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