第六話


 翌日。


また柊が俺の席に来ては、勝手に喋り出していた。


「ねぇ楓さん。」


「なんだ柊さん。」


「僕さ、大切なことに気付いてしまったのだけど。」


なんだろう。この時点で嫌な予感しかしないのだが。


「なに?」


一応恐る恐る聞いてみた。


「そんな嫌そうな顔しなくてもいいじゃんか〜。」


と柊が呆れたような顔になる。仕方ないだろ嫌なものは嫌なんだから。


「まぁそんなことはどうでもいいんですよ。」


と柊が仕切り直す。というかどうでもいいんかい。




「僕さぁ、思ったんだよね。なんで、楓の友達なのに楓の連絡先しらないんだろうなって。」


そんなのは気づかんでいい。


「ということで楓、教えて。」


「やだ。」


「なんでよー!」


目の前にいる男が少し涙目になっていた。ちょっと面白いかも知れない。


「あのーほらあれだから。スマホ五年前くらいに落としたから持ってないだけで。」


俺は馬鹿馬鹿しい言い訳を口にしてなんとか免れようとした。無駄だったけど。




「変な言い訳はよしなさい。というかなんで僕と交換したくないのさ?」


「お前に限らずだけどあれだろ?どうせ俺の個人情報をばらまく気だろ?」


俺は基本陽キャのことは敵だと思っている。


「楓の目には僕がどんなふうにみえてるの……。」


「俺に付きまとう変な奴。」


「なんとなく分かってはいたけど酷くない……?」


柊が器用にもまた若干涙目になりつつ、呆れていた。




「ねぇ〜お願い楓。ほらつながってたほうが色々便利じゃん?」


柊は先程まで涙目になっていたのにもう泣き止んでいた。本当に表情豊かなやつだな。


あーもう面倒くさい。まぁ別に連絡先くらいならいいか。


「いいけど。」


「へ?」


聞こえなかったのか?


「別にいいけどって言ってるんだよ。」


「えっ嘘……やったぁ!!じゃあ早速交換しよ!!」


もう諦めたよ。色々と。


「……ん。」




『せつりが友達になったよ!』


遂に繋がってしまったか。これでもう逃げることができない。


「へへっ……なんか友達って感じがして嬉しい。」


本人も喜んでるみたいだし良しとするか。


そう思っていたら早速柊からメッセージがきた。


『これからよろしくね楓!』


口で伝えればいいものを。何回も言うのだが……


『悪用駄目。絶対。』


「だからしないってば……」


また呆れられながら柊にツッコまれた。






放課後。


俺が帰る準備をしていると、スマホから着信音がなった。


「なんだ?」


そう思いながらもスマホを手に取りアプリを開いた。柊からのメッセージだ。


『楓、急で悪いんだけど屋上に来てくれないかな?』


面倒くさいな。いっそのこと断ってしまおうか。


そんなことを考えていたら、メッセージに続きがあることに気がついた。


『ちなみに断ってしまおうとか考えてるんだろうけど、拒否権ないから。』


こいつエスパーかよ。このままゴネても意味がないので俺は素直に従うことに決めた。


『わかった、行く。』


『うん!屋上で待ってるね。』


というメッセージとともに、スタンプが送られてきた。それはパンチパーマにエプロンを着た、まさに典型的な大阪のおばはんみたいな。俺は流行りには疎いのでわからないが、今こんなのが流行っているのか?


……もうちょっと流行りとか気にしたほうがいいのかな。俺は少し不安になった。




「……行くか。」

準備も終わった俺は誰もいない教室を後にし、屋上へと赴いた。




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