━signpost(道標)2

‥‥既に死の星と化したグリームの星。かつてこの星に住んでいた者達が化け物となって変化した仄暗い魂グリームは時が経った今、仄暗い骨ダークボーンとなって緋翠の戻って来たグリームの星を占領していた。


この先にある「星の中心」へと向かう緋翠達だったが、荒廃した街を徘徊しながら生きる者を襲う仄暗い骨ダークボーンは緋翠達の行く手に次々と現れ、追われる緋翠達も等を相手にしながら走り続ける。


やがて幾つもの雑居ビルの間から、天に届かんばかりの高く聳える「星の中心」へと繋ぐ塔が見え始めると‥‥ふと、彼らの足が止まった‥‥。




ビル街から天まで聳える「星の中心」。緋翠はそれを目にするや、息が詰まる思いで日の事が脳裏に蘇る。

━かつて、都市部隊が異凶徒と最後の戦いを繰り広げた場所。全ての者が命を落とし、彼らにとって忘れたくても忘れられない出来事だった。


「闇雲にあの場所に入れば、慰霊に対し不敬に当たる」


「ええ‥‥私たちは、彼らの魂を沈めるつもりで行かなきゃ」


光紫の言葉に顔を伏せて目を閉じる緋翠に対し、碧娥は塔台に眼を向けながら口を挟んだ。


「またそこに行く迄グリーム奴らを相手にしなければならないから骨が折れるな。出来れば戦では無く一緒に祭りでもやりたいところだ」


思案するようなそぶりの碧娥は、何かに気づいたようにあっ、と破顔した顔に変わった。


「祭りどころかその前に血祭りにされるか」


「もう!相変わらずバカな事言ってるわね!」


いつもの如く呆れた顔で噛み付いてくる緋翠に気にもせず、碧娥は笑みを称えたような目尻を緋翠に向けてこう言う。


「今此処にこうやって居るからこそ、こんな冗談も言えるんだぞ」


「そうだな」


二人の横で独り言のように呟いた光紫は目線も向けずに会話に入ってきた。


「お前みたいなくだらない事を言う奴でも、居なくなるとつまらないものだからな」


「なんだと」


その言葉が耳に入ってきた碧娥は思わず睨み付けると、緋翠も光紫に同調するように微笑んだ。


「‥‥そうね。私も、最近になってやっと気づいた」


その表情は緊張が緩み、どことなく安心したような面持ちである。

二人とも様々な思いで沈む自分の気持ちを茶化す碧娥に対し皮肉を言ったのだが、彼がこの故郷の光景を目の当たりにして自分たちと同じような気持ちを持って、わざと誤魔化しているのだろうと気づいたからだった。


そんな彼らを他所よそにヒョウが「それにしても」と遠くの塔台を眺めながらため息をついた。


に行くのだとしたら、道のりはここからまだまだ先なんだよね‥‥一体いつになったら辿り着くんだろうか‥‥」


ヒョウが途方に暮れた顔でぼやいていると、突然緋翠が何かの気配を察知したように表情を変えた。


「気をつけて!」


その声で全員が緊張すると、建物の隙間から顔を出した仄暗い骨ダークボーンは凍りつく表情のヒョウに手を伸ばした!


「わぁあー!」


首元を掴まれ引っ張られていくヒョウに緋翠が瞬時に放った鞭竿ウィップ・ロッドが頭蓋骨の頭ごと叩き割り、辺りにワラワラと姿をあらわ仄暗い骨ダークボーンに碧娥は鋭い眼で辺りを見渡しながら忌々しく言葉を吐いた。


「ちっ!街を賑わすのが骨の化け物だけとは、人の気も知らず逆撫するような野郎共だな!」


「このままでは俺たちまで骨の化け物の一員になってしまう」


機械の剣マシンソードで斬りつつ光紫が言うも、仄暗い骨ダークボーンは建物の中や向こうの瓦礫の間から次々と姿を現し彼らに向かって叫び声を上げながら跳びかかる!


「キェエエーーーー!!!」


「こっちよ!!」


鞭竿ウィップ・ロッドで前後から襲いかかる仄暗い骨ダークボーンを撥ねつけ、するりと群れから抜け出すとまるで挑発するかのような笑みを浮かべながら走り行く緋翠に仄暗い骨ダークボーンは狂乱し、誘われるがままに彼らを追っていく。

駆け抜けていく緋翠の後を骨の化け物に襲われまいと、息を切らしながらその後を付いて行くヒョウの脳裏は今、一刻も早く沙夜を救いたいという想い、焦りと同時に、緋翠達との身体能力との違いと体力の限界からくるジレンマに打ちのめされていた。


あの燈台に辿り着いて、更に上へと登るんだろ‥‥?

ここで戦う緋翠達は水を得た魚のように動き回っているけど、俺はスタルオが有るとはいえ皆んなのように強く無いし‥‥沙夜を見つける前に、足が壊れちゃうよ。

‥‥‥‥俺からしたら「別世界」の、既に滅びているこの星自体、いつ消滅してもおかしくない位に危険だし、戦いながらひたすら走り続けるのは‥‥皆んなも限界なんじゃないのか?

嗚呼、別に強くなりたいとは言わない。

けど、せめてこの世界にバイクがあれば‥‥‥‥

とか走りながら現実への不安と願望がかけ巡るヒョウは突如、

━━ん?と街道脇の積み上げられた瓦礫の中に転がっているものが目に止まった。


「おーい、光紫こ〜し碧娥へっき〜


「何だお前、ちょっと仲間の気でいたら人を馴れ馴れしく呼びやがって。殺すぞ」


後ろから自分と光紫を呼んでいるヒョウの声に気づいた碧娥は振り向きざまに睨みつけると、彼はを指差しながらさっきまでとは大違いの軽い顔で笑った。


「いいもの見つけたんだ〜。、この世界にもあったんだね!」


それは放置されたままの「バイク」で「これこれ、これで行こーよー」と誘うヒョウに碧娥と光紫は顔を見合わせたのだった。



「ひっすいー!」


走る緋翠に追いついたバイクが横付けし、それに乗っているヒョウが意気揚々と声をかける。


「乗ってよ。こっちの方が早いだろ」


「どうしたの?それ」


「そこ等辺に落ちていたので動きそうなのを探したんだ。ガス欠になるまでこれで行こうぜェ!」


一瞬呆気にとられた顔をする緋翠の横を、もう一台バイクが音を立てて通り過ぎる。


「さすがヒョウね。それは思いつかなかった」


と微笑む緋翠は、ヒョウの後ろに跨がると、バイクは走り出した。


爆音をたてて街を疾走する二台のバイク。

道をはばかガイコツダークボーンをヒョウの後ろから緋翠が緋い鞭竿ウィップ・ロッドを振り回して薙ぎ払い、もう一台の碧娥の運転するバイクには後ろの光紫が機械の剣マシンソードで斬りさばいていくと、やがて彼らは目指す燈台を目前とする。


「行くわよ!」


かつて塔台に乗り込んだ時と同じ勢いで広い中を突っ切る緋翠達。当然中は破壊され荒れたままだった。

血の滲む壁や床には血の塊ブラッドコーストの遺骸から変形した骨があちこちに放置され、その惨状は窓や天井からの僅かな薄明かりに全て映し出されていた。


だが、ここでも仄暗い骨ダークボーンは緋翠達を見ると怒涛のように動き出し燈台の中は見るまも無く骨の群れに覆い尽くされるも、


「緋翠、上に向かえばいいんだよね!」


「そうよ!」


それを振り切るようにヒョウのバイクは螺旋階段を駆け上がる!


「いぇぇぇい!!!」


駆け上るバイクの後ろで鞭竿ウィップ・ロッドを旋回する緋翠。その前方から巨大化した仄暗い骨ダークボーン(幾つもの魂が集まって出来た仄暗い者グリームの骨バージョン)が現れる。

バイクは急ブレーキをかける暇も無く骨巨人に突進しようとした!


「うぁあぁあー!」


ヒョウはバイクごと衝突しながら捕まるか、もしくは避けて螺旋階段から落ちるかの選択を迫られた。

‥‥が、その横から碧娥のバイクが跳び上がったのだ。


ブォオォン!

紫の光が輝くと巨大化した仄暗い骨ダークボーンは階段ごと粉砕された。目の前を骨や破片が幾つか砕け散り、宙のまま進路を失っているヒョウのバイクに碧娥は叫んだ。


「跳べ!」


碧娥の放った爆風で飛ぶように空中を走るヒョウのバイク。

塔台端の通路が眼前に見えると放射線状に跳びながらも、ハンドル捌きを駆使してどうにか着地したのだった。


「はあ、はあ、はあ、マジで死ぬかと思った‥‥あっ」


ヒョウが落ち着く暇もなく狭い通路の前後から群がってくる仄暗い骨ダークボーンが接近する。彼らを取り囲み、緋翠達は死に物狂いで攻撃するも無限に現れる仄暗い骨ダークボーンはバイクが進むのを侵害ながら無数の骨の手を伸ばしてくる‥‥!



「‥‥ヒョウ!」


手足を押さえられ、近付く無数の頭蓋骨。‥‥まさに喰われる寸前だった。

緋翠は抵抗しながらも辺りを見渡す。気が付くと、さっきの骨巨人があちこち破損しながらも吹き抜けからよじ登ってくるのが見え、更にその奥からも仄暗い骨ダークボーンの群れが集まってくるではないか。


どこを見渡しても動く人骨という光景‥‥更にその奥にいる、一体の威厳のある仄暗い骨ダークボーンが不気味にこっちを見ているようだ。


「ヒ‥ヒェエ‥‥!」


さすがの彼らも戰慄を隠せず、ゲームオーバーを覚悟するヒョウ‥‥。

『ギィァーーーー!!」

だが、合図をするかのように奇声が木霊すると共に、奥に居た仄暗い骨ダークボーンの集団が骨巨人に襲い掛かったのだ。

そして何故か緋翠達をすり抜け、緋翠達を取り囲んでいた仄暗い骨ダークボーンの群れの方を一斉攻撃した!


ゴァアアーーー!!!

バキバキグォァッシャー!!


いきなり骨どうしの紛争が始まりだすと、その光景にヒョウも意外な顔で緋翠を見る。


「こ‥‥これはどう言う事なの?私たちに加勢しているようにしか見えないけど‥‥」


‥‥この状況に疑問符を打つ緋翠に対し、ヒョウは根拠も無いままに窮地を脱したような、変な笑みを浮かべる。


「何故か解らないけど、チャンス!チャンスだよ!これに便乗して逃げ切ろうぜ!」


何故か緋翠達は一方の骨の集団に加勢する羽目になった。骨と骨は砕け飛び散り、その残骸から魂が白い光となって舞い上がる。まるでの都市部隊と異凶都集団の再戦のようであった‥‥。


その垣間を潜り螺旋状の階段から更に上へと駆け抜ける緋翠達は途中バイクを乗り捨てるもその先へ、果てしなくその先へと突き進むと‥‥‥‥、


上り詰めた塔台のの頂上まで上り詰めた彼ら。

破られた花形の天井から真上に仰いだヒョウ。かつてそこはスタルオの陽が照らし、「星の中心」へ行くことが出来る唯一の場所であった。


下からは仄暗い骨ダークボーンの残党が上り詰めて来るが、「星の中心」へと行けるエレベーターなど見当たらない‥‥!


「‥‥ここから本当に行けるの?」


ヒョウがそう思ったその時、彼の持つスタルオの欠片が輝き、光を放ちながら体が浮いた。


「うぁ!」


星の中心へと一直線に届く光。それと共にヒョウが意味も解らず真上に引っ張られると、緋翠達も意を決するようにその中に入る。


「私たちも行くわ!」




◇◇◇◇◇◇



「ここが‥‥「星の中心」!?


初めて星の中心この場所に来た彼らは光景に吸い込まれ、まるで魅入られるように辺りを見渡した‥‥。


限られた足場はあったものの、それ以外は宙の世界。まるで空の上に居るような状態である。

星の中全てを照らす《スタルオ》は葵竜に破壊されて無かった。今では剥き出しにされた灰色の空の向こうには黒い世界と‥‥ヒョウの星が見える。


その向こうの‥‥星の中心と呼ばれる《スタルオ》のあった場所の真ん中に沙夜は眠るように浮いていた。


それを見つけたヒョウは大きな声で叫んだ。


「沙夜ちゃん!俺だ!助けにきたよ!!」


沙夜に届くよう必死の想いで声を上げるヒョウ。

だが彼の懇願も沙夜の耳には届かないのかそれとも何も聞こえないのか、何の反応も示さない。


「お願いだ、目を覚ましてくれ!!!」


それでもヒョウは張り叫ぶように絶叫する。すると、仮死状態と化していた沙夜が突然輝きだした。


「危ない!」


放射状に放たれた光の雨は侵入者目掛けて降り注いだ!

瞬発的にそれをかわした緋翠達は、沙夜はあの光に守られながらも部外者を攻撃するのだと察知した。


「おい、これじゃ小娘に誰も近づけないようだが、一体どうなってる」


「多分、葵竜の結界が貼られているのだろう」


スタルオのあった場所でスタルオ同然にそこに居る沙夜。

‥‥そんなに、彼らは手も足も出なかった。


「‥‥そんな、それじゃ沙夜はどうやって助けたらいいんだ?」


ヒョウがそう言ったその時‥‥‥目の前の三人に異変が起こった。



ドクン!



「‥‥‥‥」


「‥‥みんな、どうしたの?」


突然の目眩、吐き気、立ち眩み‥‥緋翠、光紫、碧娥は蹌踉よろめくと、彼女らの周囲が墨汁が広がるように漆黒の魂が溢れかえる。


「ァッ‥ァアアッ」

体内から黒い魂が放出され、見えもしないかに侵略されるような感覚に、反り返りながら苦しむ緋翠達。


これは‥‥まさか、彗祥姉さん仄暗い者グリームに喰われた事によって違う人格が現れる現象と‥‥同じ事なるの?


彼女達は密かに体内に潜んでいたグリームの魂が、その身を蝕もうとしていたのだ。


「‥‥じ、冗談じゃないぜ。だれが化け物なんかに‥‥」


三人は目の前の闇に悶えながら抵抗するも‥‥‥

‥‥だがしかし、自分の意思とは別に、突然三人の目の色が変わった。


「━━!?」


緋翠は自分の異様な感覚から分離するように、墨のような煙が吐きだされると、目の前でそれが形づけられた‥‥!




「え‥‥緋翠が二人?」


驚くヒョウの目前には緋翠、光紫、碧娥と同じ姿の者が立ち、彼らは互いを見比べている。

姿形も武器も鏡を写したように同じ。しかし肌の色以外は闇にのよう、言うなれば影そのものだった。

彼らの目つきは鋭く、過去を恨んでいた自分たち以上に悪意の風貌を醸し出している。

まるでドッペルゲンガーのように何方かしか生き残れないかのように‥‥その闇の者たちが一斉に躍りかかると、緋翠達は一斉に辺りに散った!


「ヒョウ、向こうへ行って!」


叫んだ緋翠が鞭竿ウィップ・ロッドで瞬時に造り上げた緋色の残影で彼らの視界を眩まして向こうへ跳ぶと、その隙に碧娥と光紫が闇の自分達に拳と剣を斬りつけた。だが、既に彼らも影が消えたように居なくなり、一瞬で行方を眩ましていた緋翠の行先にもう一人の碧娥‥‥「ダーク碧娥」が待ち構え、襲い来る牙のように蹴り上げてきた!


「!!!」


咄嗟に鞭竿ウィップ・ロッドを一閃した緋翠は灰煙とともに巻き上げるダーク碧娥の脚と同時に跳び上がると、弧を描くように反転し間合いを取った。


「まさか‥‥自分と戦う羽目になるとは思わなかったわ」


緋翠は自分と類似した者を睨み据えながら毒気ついた。


「おいおい、俺の影武者みたいのが現れたが‥あれはなのか?」


「いや、あれはさっき襲ってきた‥‥グリームの魂が俺たちを取り込み、擬似して実体となったダークの姿であろう」


「ちっ、今までヒョウの持つスタルオから逃れるように潜伏していたとはな」


「まったく‥‥誰よ、ラスボスも居ないとか言っていたの。無茶苦茶嫌な感じのが居るじゃない!」


「それ、俺の事か?傷付くなー」


薄笑いを浮かべ、緋翠に急接近するダーク碧娥は有無を言わさずに殴る蹴るの攻撃をしてくるも、緋翠は鞭竿ウィップ・ロッドで必死で弾き返していく。

遠くへ避難したヒョウは、少し離れた場所で繰り広げている必死の攻防に愕然とした。


「ああ‥皆んな、辞めて!」


「無駄だ」


必死で懇願するヒョウの横で、いつの間にか現れた光紫がその様子を眺めながら冷笑している。それは明らかに『ダーク』の方なのだが。


「人の裏側を悪とか言いやがるが、所詮は全ての己の心に潜んでいるものを具現化しただけだ。争う者たちを嫌う事から戦い、自分を廃した世界を呪い、望みを我が手に入れる為に、裏から人を蹴落とすってな!」


他人事のようにネガティブ思考な理屈を述べるダーク光紫。ヒョウはそんな彼らの争いをゲームを見るかのように楽しんでいる、光紫と見た目が同じ男の不快にさせる言葉に疑心暗鬼で混乱しそうだった。



「さて、と」


言いながら軽薄な表情で手にしていた剣を手前に差したダーク光紫はその剣先を戦い合う二人を標的に決めると、真上に構えた剣を稲妻と共に一気に振り上げた!

その直後、重金属音と別からくる紫の光が走り、手にしていた剣が弾かれたのだ。


「━━!?」


何事かと思い振り向いたダーク光紫の先には光紫が立っていた。


「お前、俺になりすまして汚い言葉を使うな」


「へっ、善人ぶりやがって」


鏡に写ったかのように対局して向き合う二人は双方剣を構え、間合いを取っている。

ダーク光紫は小馬鹿にしたような顔でニヤリと笑った。


「だってそうだろうん?世の中、綺麗事を言っても本性を知れば関係は壊れてしまうじゃあないか。だから俺たちはの争いで死んだんだじゃねえか‥‥それをがワンチャン与えてくれたのだぞ」


「‥‥お前の言っている話、よく解らないが‥‥」


彼の言葉を黙って聞いていた光紫は表情を変えず暫く考え込むと、ぽつりと言った。


「ひょっとして神とは葵竜のことか?」


「そうだ‥‥彼は死してしかばね、魂を拾う者也。只ひたすら絶望のみしか味えない俺たちの到底叶わぬ望みを叶えてくれたんだぜ。更にオレは喰うまでもなく、お前になり変われるのだ。

だから‥‥お前は、消・え・ろ‥‥!」


思いきり口角を上げ、卑屈な笑顔を見せつけての斬りかかる間も無く、澄ましたままの光紫の機械の剣マシンソードが紫の光が放つ。

目を見開きながら驚くダーク光紫は危機一髪で自分の剣で払い退けながら、静かに言った。


「悪いけど消えるのはお前だ」


「ちっ、けぇぇいっ!」


叫んだ光紫とダーク光紫と光紫との互角の剣でうち合うと、金属がぶつかるような擬音が鳴り響いた。

互いの剣を同じ動きで弾いていく二人だったが、次第に後退していくダーク光紫は汗を滲ませながらも撥ね返していく。


「言っておくが」


苦渋の表情の表情のダーク光紫に、切れ長の目で見据える光紫。


は神でも何でも無い。俺たちと同じ思いを持つ同士だ」


機械の剣マシンソードを紫の光に輝かせる同じ顔、同じ闇を持ちまるで対極でありながら涼しげな目つきで立ち振る舞う光紫に羨望の眼を向けつつも、優位に立つ筈の自分の言動を否定され、自尊心を傷つけられたという被害者意識に苛まれるダーク光紫は険しい顔で詰りなじりだした。


「黙れ!時散々を恨んで死んで壊れたくせによぉ!この負け犬が!」


確かにそうかもしれない。

塔で俺は仄暗い者グリームとの戦いで死んだ。

‥‥仄暗い者あれに殺られる寸前に仄暗い者グリームとなった彗祥に何があったのかを知り、仄暗い者あれを倒す為、この世を呪いながら果てた。

葵竜の力によって魂がヒョウの住む別世界に行ったとしても‥‥全てを抹殺する一念で蘇った‥‥‥‥


だが葵竜の事を考える緋翠の想いに心を動かされた。

それに今は彼女や碧娥、もう一人ヒョウも居る‥‥


「敗者は何度も、地獄の底に行くんだよ!!」


叫ぶダーク光紫は剣から光の尾を引きながら、相手の存在を消滅させるつもりで光紫の頭を狙った!


「俺は、もう‥‥」


静かな眼で見据える光紫は息を吐くようにそう呟いた後、祈るように手にした機械の剣マシンソードを正面に構えながら、こう言った。


「そんな程度で死ぬ事は、無い」


「━━はぁ!?」


機械の剣マシンソードから暴発する紫の稲妻!

迸る紫の光と歪むような音を炸裂させながら、光紫はそのの自分を真っ向からの一瞬の斬撃で、縦一直線に斬り裂いたのだった。



その一方、緋翠とダーク碧娥の戦いは続いていた。

ダーク碧娥の殴る蹴るに伴う猛風を飛び跳ねてかわしながら、狙うべき箇所を模索する緋翠。

二人の間には風が吹き荒れ、髪が揺れ靡く。

ダーク碧娥のその髪が立髪のように走るその先に、目を向けた緋翠は鞭竿ウィップ・ロッドを振り上げた!


「はっ!」


暴風に対抗するように風を起こした鞭竿ウィップ・ロッドは竜巻炎を起こしながらダーク碧娥に向けて放つ。

だが、それを目に風圧を放った黒碧娥に小さな竜巻炎はかき消され、緩んだ鞭竿ウィップ・ロッドを捕らえ絡められるとそれを手繰りながら一気に引き寄せた。


「あっ!」


猛獣のような目つきで目を合わせたダーク碧娥は緋翠に驚く隙も与えさせず、一撃ブラストファストを撃ちつけるや爆風と共に数メートル吹き飛んだ緋翠は地に叩きつけられてしまった。

撃たれた腹部と一瞬の衝撃に身を捩らせる緋翠の元にダーク碧娥が近づいてきた。


「イヤよ!碧娥じゃないくせに!」


緋翠はへらへらと笑いながら自分に覆い被さるように乗り出してくるダーク碧娥に身の危険を感じると、反抗するように取ろうとしたその手で強烈なビンタを叩きつけた。


「おのれ」


打たれた顔を手で押さえ、鋭く睨み付けるダーク碧娥。

怒りに任せて伸ばした両腕で押さえつけようとした次の瞬間、彼は真後ろにぶっ飛んだ。


「碧娥!」


「こいつは俺がやる。お前はの自分と戦え」


仰向けのままの緋翠の前に立つ碧娥は、影の自分を睨み据える。


「ありがとう、助かった」


礼を言いながら起き上がった緋翠は跳ぶようにその場から去っていき、それを確認した碧娥は吐き捨てるように叫んだ。


「お前、勝手に俺より先に手を出すな!」


「は?それはお前が悪いんだろうが。俺が先だ」


立ち上がり、さっきの事を根に持つように叩かれた頬を何度も撫でながら陰湿な表情に変化したダーク碧娥に碧娥はぞっとする。


「あの女には同じ‥‥いや、その何十倍もの屈辱を味わせてやらないと気が済まないんだよ」


「ふざけるな」


こいつは俺と同じ顔だが一ミリも同調できない。


都市部隊で光紫と三人で居た時からずっと一緒に行動を共にしていた緋翠。

気が強く、女らしくもないが緋色の瞳でを見つめている彼女はまるで一本花のようで、俺はそんな緋翠に惹かれていた。

からかえば散々デリカシーが無いなど言われたが、そんな彼女が自分に心を向け、真っ直ぐな眼差しで見つめながら、その温もりを感じる事を夢見ていた‥‥


だが目の前にいるこいつはそれを無造作な心で奪い、大事なものを壊そうとしている。



闘気を露わにした碧娥は流れる髪と共に大気が動くと、ダーク碧娥も同じ動き、躍動と共に大気が動いた。


「!?」


突風を吹かせながら碧娥を蹴り上げるダーク碧娥、それを蹴りで止めた碧娥にダーク碧娥は、更に一撃ブラストファストを顔面へ直撃した。


「ぐはぁ!」


自分と同じ攻撃をしてくる敵に碧娥は顔の痛みを感じながら、思った。

また自分の技をまともに喰らうのは流石に冗談じゃ無い。つくづく自分の強さを呪うぞ。

しかし、今俺が死ねば奴はに何をするか解らない‥そんな気がかりを残せば、それこそ死に切れずこの世に出てしまうじゃないか。


「出来るか」


それは同じ技を持つ相手を倒す事が、可能かとの呟きだった。


そんな彼に苛ついたのか、ダーク碧娥は叫びながら一撃ブラストファストを撃ち放った。


「ぶつぶつとうるせぇ、死ね!」


荒々しい馬が息を吐く如く、全身で大気を漲らせる碧娥は向かってくる風圧の拳を一撃ブラストファストで撃ち消し、互いの一撃ブラストファストで爆破が起きるや闇の碧娥は追い討ちをかけるように爆風の弾丸ブラストブレットを撃ちつけてきた!

爆風と爆風がぶつかり合った両者の技は大きな炎霧へと変化し、その中を爆風の弾丸ブラストブレットが貫き通ってその先の碧娥を狙う。

だが、彼は既にそこには居ない。真っ向から立ち向かう気は無く、真横からの一撃ブラストファストで全ての攻撃を風圧で飛ばした。


「ぶぐぉぅゎ!」


全ての攻撃を浴び怯んだダーク碧娥、瞬時に反転し背後に周る碧娥、ダーク碧娥を横から蹴り落とす!


「がはぁあ!!」


真上から踵を受けて地に落ちる瞬間の黒碧娥に咆哮を上げる碧娥から大気が畝ると、とどめの爆風の弾丸ブラストブレットを放った!



大きな爆破音と共に全身大気の連弾を受け、幾つもの風穴を作ったの碧娥の姿は、漆黒の煙となって消滅したのだった。





その頃、彼らの戦いを尻目に一目散に沙夜の元へ向かっているヒョウ。

彼は場所で眠ったように動かない沙夜の安否を確かめ、一刻も早く救出したかったのだ。


「あっ」


そんなヒョウの目の前に漆黒の長い髪と鞭を手にする女性‥‥ダーク緋翠がヒョウの行手を立ち塞いだ。

緋翠が強気だけど大人で明るい女子なのに対し、闇緋翠こっちは可愛い感じでもどこか意地悪な雰囲気を感じた。

彼は、緋翠と似て比なる姿の女性におずおずと声をかけた。


「君は緋翠の‥‥偽物なの?」


「私は本物よ。ヒョウ」


ダーク緋翠は驚きを隠せないヒョウに無邪気で邪悪な笑みを浮かべている。


「一方が消えればそっちが居なくなるだけ。だから私は本物」


「‥‥‥」


「‥なのに‥‥」


言いながら目を閉じるダーク緋翠は苛立つような表情で何かを考えると、突然眼を見開き声を荒げた。


「ほんっと何言ってるの!」


聞き分けの無い子を叱咤するように打たれた漆黒の鞭はピシィ!と音がし、ヒョウは思わず丸くなって身を守る。


「うぅっ」


「人の事偽者扱いするなんて、ほんっとウザいったらないわ!」


叩きつけられた痛みと彼女の緋翠に似ているという見た目とのギャップに混乱したヒョウ。そんなヒョウを足元から見下ろすダーク緋翠は表情のチャンネルが切り替わるように冷静さを取り戻すと、すました顔で手を伸ばす。


「まあいいわ。さあ、スタルオを頂戴」


「い‥嫌だよ。誰が君なんかに」


「そうよねー」


拒絶したヒョウに同調しつつも、眼前で鞭竿ウィップ・ロッドを張らせながら満面の笑顔に変わるダーク緋翠。


「さっさと貰っても、楽しめないもの!」


そう言いながらダーク緋翠は振り上げた鞭竿ウィップ・ロッドの雨をヒョウに連打する。


「うぁーっ!」


「うふっ、うふふっ!」


「ま‥待って!」


痛みで苦しむ姿を楽しみながら鞭を討ち続けるダーク緋翠。そんな彼女にヒョウはやっとの思いで声を出した。


「君は‥‥見た目は同じなのに大違いだ」


「は?」


「本当の緋翠は‥君たちを救う一心で葵竜に会おうとしてこの星に戻ったんだ。たとえ悪の心に染まろうとしても‥‥だから‥僕の好きな人の姿で‥そんな事をするのは辞めて‥‥」


「黙れ」


またもや冷たい表情に変わるダーク緋翠は鞭の動きをピタッと止めた。


「滅びた者となった今、例え異形となろうとも奪えるものは奪い尽くし、力を取り戻す。それがの輝ける術なのよ」


その一言でヒョウの言い分を抹消したダーク緋翠は、途端に小悪魔のような顔で悪戯っぽく笑う。


「心配しないで。スタルオを手に入れたら、こんな体も要らないからねっ」


「‥‥え?」


「私が欲しいのは。沙夜を貰えば、そしたら‥星を破壊する程の壮大な力となれる‥‥私の手に入るのよ」


「やめろ、沙夜を君なんかに奪わせない!」


「なにムキになってるの?」


怒りを露わにしたヒョウ。そんな彼の心を弄ぶようにダーク緋翠は戯け微笑む。


「安心してよ。今はまだ、あんたの仲間の緋翠なんだから‥‥私の味方でしょ?だから‥‥さっさと私に服従しなさいよぉお!!」


言い終わるや、ダーク緋翠はヒョウに目掛けて漆黒の鞭を振り下ろした!


「うふふふふっ!!」


「うぁあー!」


ヒョウが叫んだ時だった‥‥ヒョウの目の前で突然、緋い一閃が走り、笑いまくるダーク緋翠が弾かれた。


「これ以上、ヒョウを傷付けさせないわ!」


「‥‥何よ、人の楽しみを邪魔するなんて」


ダーク緋翠は現れた緋翠を見るや鋭く目つきが変わると、旋回しながら鞭竿ウィップ・ロッドを振り回した!


「ほらほら、さっさとやんなさいよ!」


飛び交う漆黒と緋色の鞭。緋翠は嬉々としながら襲いかかり、自分になり変わろうとする姿形が同じ女の動きをかわしながら、その動きを凝視する。


同じ武器同士、下手に攻撃に出ればまた絡まって向こうに取られる恐れがある‥‥彼女はさっきのダーク碧娥との戦いのように鞭竿ウィップ・ロッドが不利になるのを恐れていた。


『だけど‥‥彼女に碧娥ほどのパワーは無い筈よ』


「うふふ、ほらぁ!」


繰り出す漆黒の鞭先!

緋い鞭竿ウィップ・ロッドを手に後退りしていく緋翠の胸元が掠った。

その部分の衣類が裂け、顕になった傷口から血が流れてくるのを手で抑える緋翠にダーク緋翠は下げずむような上から目線で失笑する。


「ぁあーあ、互角なんて全然嘘じゃん。これじゃ私の方が強いわ」


「‥‥どうしてそう思うの?」


その物言いにきょとんとした顔で尋ねる緋翠にダーク緋翠はちょっと考えるそぶりを見せるも、すぐさまから小馬鹿にするような顔で答えた。


「んーとね、多分、あんたには殺意が足んないのよ。殺りたいっていう気持ちが無いから攻撃出来ない、チョロいのよ。

だ・か・ら・楽勝な・の」


「そう?初戦のとはこなした数が違うんだけどね」


「え?」


緋翠は緋色の眼でにいっと笑う。


「黙れ、私の方が強いって言ってるじゃん!」


ダーク緋翠の感情の起伏は最高潮の怒りに達し、緋翠目掛けて鞭竿ウィップ・ロッドを何度も叩きつける!


「いいわ、全身血塗れになるまで剥いて、死ぬまで楽しんであげるから!!!」


連続で放つ漆黒の鞭を次々にかわしていく緋翠はダーク緋翠の隙を狙うように鞭竿ウィップ・ロッド足元から一直線に振り上げる。鞭状から竿のようにしなやかに伸びた鞭竿ウィップ・ロッドは真下から薙ぎ上げると、縦下から衣類が裂けるダーク緋翠の体が弾け跳んだ。



「キャアアアァーーッ!」


竿ロッドはすぐさまウィップへと変化し緋色の斬月となって連続で倒れる寸前のダーク緋翠に薙ぎつけられ、全身に幾つもの赤い傷跡が刻まれる。

最後の足掻きにヒョウの方に向かって鞭を飛ばしヒョウを捕まえ人質にしようとするも、寸前で鞭を竿ロッドに変化した緋翠の武器に絡めとられたダーク緋翠は素手となり、そのまま縛られてしまった。


「手出しさせないと言った筈。これで終わりよ」


「イヤァ許して!悪気は無かったのよォ!私は只、光のある世界に行きたかっただけなのよぉ!」


全身身動きできないままダーク緋翠は泣き顔で弁明するも、緋翠の見据える真っ赤な瞳は怒りの表情に変わっていた。


「もう遅いわ、ヒョウを痛めつけた罰よ!!」


一瞬緩んだ鞭竿ウィップ・ロッドダーク緋翠の体から離れるも、すぐさま身を屈めて繰り出した緋蛇のように走った!


闇の緋翠は緋い一閃で射抜かれ、絶叫とともに滅んでいったのだった。



「緋翠、大丈夫?」


「ええ‥‥」


心配そうにやって来たヒョウに何とか眼を向けるも、緋翠はさっき襲ってきたグリームの魂はまだ自分の体内に残って居るのに気付いていた。


『自分の姿へと変わった闇の魂やつらは何とか倒す事が出来た。しかしもっと強い魂に取り込まれて‥‥闇の魂やつらに体内を奪われてしまったら‥‥ヒョウ達を殺してしまうかもしれない』


「緋翠」


何かを気にしているような面持ちの緋翠にヒョウが心配そうに声をかけると、緋翠は闇を帯びる目で微笑んだ。


「言ったでしょ。ヒョウが沙夜を救うかもしれないって。スタルオはスタルオじゃないと壊れない。‥‥それまでに早く沙夜のところに行って‥‥」


するとやって来た碧娥と光紫もヒョウに言った。


「心配するな、は俺たちが何とかする。お前は沙夜の事だけを考えろ」


「だからさっさと行け」


「解ったよ」


意を決したヒョウはその場から離れると、墨汁の墨のように広がる魂の中を走り出した。



「沙夜ちゃん‥緋翠‥光紫、碧娥‥‥」


ヒョウは守るべく沙夜はおろか、緋翠や光紫、碧娥を想って一心不乱に走った。


すると有無を言わさず沙夜から自分目掛けてビームが照射される。


「うわぁあ!」


結界の力で近づくものを狙い攻撃するスタルオの光。

ヒョウはその追ってくるビームを一心不乱に逃げ切りながら、徐々に近づく。


「沙夜!」


ついに目前までやって来たヒョウは渾身に力を込めて沙夜を呼ぶ。


すると‥‥その声がようやく耳に届いた沙夜は、意識を取り戻すようにゆっくりと瞼を開いた。


「ヒョウ君、ここは‥‥?」


自分に置かれている状況が解らず、すました顔でヒョウを見つめる沙夜は、視界に広がる不思議な景色と、何故か自分が浮いている状況に驚いている。


「えっ、どう言う事?説明して!」


「話は後だ、今すぐ行くから!」


ヒョウが沙夜の処に行こうとしたその時、辺りを覆っていた幾万の黒い魂が一斉にその方に流れ込んでいく。


「あぁっ」


視界が漆黒の煙となって覆われるも、叫ぶ沙夜が輝くとヒョウは反射的に離れた。


ビュイーン!


結界が放つ放射線状の光に触れた黒い魂は沙夜の目の前で消滅していき、ヒョウは命辛々に避けるも近けない。


「ヒョウ!」


緋翠は光の攻撃をすり抜けながらヒョウの元へと行こうとする。

しかし目前に飛び交う魂‥‥仄暗い者グリームが緋翠を襲い、彼女の姿は闇に包まれる。


「う‥‥うぅっ」


次々と自分の中に入ってくるのは怒りや悲しみ、狂喜‥‥。だ幾万の悲痛叫びだ。その感情を受ける緋翠は‥‥余りの苦しさに思わず五感を閉じ、拒絶するも、どこか同調する部分もあった。


‥‥‥私は彼らと同じ。星を滅ぼされた者として痛いほど彼らの気持ちが解る‥‥‥


‥‥闇の魂が何かを言っているのを感じる。

‥‥緋翠は必死で眼を開いて、恐る恐るその闇の魂を見つめた。



‥‥何をしている‥‥我々は元に戻り‥‥新しい星を‥‥手に入れる事が出来るのだぞ‥‥早く‥‥早く《スタルオ》を奪え‥‥!!


どこかで聞いたような声の響きを発するどす黒い魂も、葵竜の意思通り、新しい世界に侵略する事を望んでいたのだ。


「解ってる‥‥。だけど、私はあなたを腐ったまま存在させるつもりは無いのよ」


そう言った緋翠に忌々しい感情を浴びせ続ける仄暗い魂。


‥‥気に喰わん‥‥この星に戻って来た以上、貴様も仄暗い者となり、我らと同じ道へ進むのだ!!!


その声が耳に入ったと同時に、徐々に元の魂へと化していく緋翠は‥‥苦しみながら元はこの星の中心だった世界を見上げ、思った。


既に滅びた世界は何も無かった‥‥。

だが、彼らは‥‥黒い魂になっても、生きていた頃と同じことをしようと‥‥ヒョウの星を修羅の世界にしようとしている。


これが私たちの呪い?自虐を繰り返し、その全てが腐敗したまま生きる事に執着した魂‥‥。

星が滅び‥‥肉体が死んでも、何らかの力で仄暗い者化け物となり、ヒョウの星にきたグリームの魂。

その中で緋翠は甦ったが‥‥それも終わろうとしているのか?


『その前に‥‥何としても‥‥ヒョウと沙夜は元の星に戻さないと‥‥』


そう思いながら、緋翠は失いつつある意識を必死で取り戻そうとする。

すると、別の方向から呻き声が聞こえるのに気付いた。


「ぐっ‥ぐぁああ‥‥」


「光紫‥‥碧娥」


見ると、二人も黒い魂に耐えながら苦しんでいる。

彼らは自分と同じように、ヒョウの星で化け物と共に生きる為に蘇った。

それに抵抗し、自分がヒョウの為にこの星に戻ったせいで、彼らが巻き添えを受けてしまった。

‥‥それを眼にした緋翠は、再び彼らが元の魂に戻るかもしれない事に気づき、心の底から後悔した。


「二人とも、本当にごめんね‥‥。私のわがままのせいで、こうなってしまった‥‥」


「ふざけるな」


泣きそうな顔の緋翠に碧娥と光紫は声をかける。


「勝手に死ぬと決めつけるな。俺はそんなつもりは無いぞ」


碧娥は、歯を食いしばりながらぶっきらぼうに緋翠に顔を向け、光紫は苦しみながらも優しい眼を向ける。


「緋翠‥‥お前は、との約束を守り、ヒョウをあの星へ返すのだろう?俺たちも連れて‥‥」



それを聞いて緋翠は思い出すように呟いた。



「‥‥そうよ」


━━私は‥‥葵竜との約束を果たすんだった。


葵竜のやった事は悪い事だが、葵竜は苦しみの中にいた彗祥や化け物となった者達の魂をを救う為の行為だった。


葵竜は‥‥彼だけは、異星界の中で体は滅んでいたが、スタルオの力により限られた時間だけ、生きることが出来ていた。


私は哀しみを棄て、魂へと戻った彼に約束をした。彼らの魂を救うと‥‥。


争いを好まなかった二人は争いの世界で悲劇を産み、結果的にこうなってしまった。そう思うと彼らの為に涙を流す緋翠は立ち上がると‥‥葵竜や彗祥の想いを胸に感じ、走り出した。


襲い来る仄暗い魂グリーム。その中を突き抜けながら、ヒョウの元に来た緋翠。




「ヒョウ!!」


降り頻る放射線状の光をかわしながら緋翠が叫ぶと鞭竿ウィップ・ロッドが沙夜の上下の物体を狙い撃った。


緋い一閃で音をたてて破壊された結界はそれでもスタルオの力が残っている。落下しつつスタルオの光は辺りを乱れ打ちする。


━━ははは、でかしたぞ!


聞こえる闇の魂の声、緋翠を追ってきた黒い魂は一気に沙夜目掛けて広がり進むと、ヒョウはそれを追い払い、交錯する乱反射を飛び跳ねながら突っ走る。


「沙夜!」


そして沙夜のところに来たヒョウは、顔を近づけながら沙夜とスタルオの欠片を握った。


━━ギャァオォー!!


さっきまで乱反射していた結界は打ち消され、襲おうとする仄暗い魂もその光を浴び絶叫する。


彗祥の魂が入っていた欠片を手にした沙夜に彗祥の心が入っていく。


「あぁっ!」


沙夜の中に女性の幻影が現れる。

それは深い悲しみを負った彗祥だった。

闇を帯びたような彗祥の心は、沙夜の持ったスタルオの力でやがて美しい光へと変化すると、恐ろしいくらいの光が発光した。

そこにいる黒い魂達は全て白い魂へ変わっていく‥‥。



「ヒョウ、帰るわよ」


幾万の仄暗い魂から解放された緋翠は空を見上げ、その方向に渾身の力を込めて鞭竿ウィップ・ロッドを振った。

繰り出した緋い輪が空間を突き破ると、彼らは再び異次元の世界へと吸い込まれていく。


「私たちの行くところは‥‥あっちよ」


全てのものが宙に浮き、緋翠はヒョウと沙夜を連れて鞭竿ウィップ・ロッドを弾いた。

そして遥か向こうから‥‥光紫がヒョウの星に機械の剣マシンソードを放つと、一条の紫の光がその遥か先へと向かい、碧娥が撃った爆風の弾丸ブラストブレットがその道標へと向かう、流れる大気を造り出した。


‥‥二つの星の魂は一つの星の魂となり、彼らはここから始まろうとしている。

‥‥幾万の魂は、ヒョウと沙夜と共に道標のままに向かって行き‥‥そして次々と光の中へ消えていく。

緋翠はそれを見ながら呟いた。


「‥‥姉さんもいつかは、あの星で甦る。きっと‥‥」


‥‥そう言ったと同時に緋翠は崩れ落ちた。


「緋翠‥‥?」


ヒョウは、うつむいたままの緋翠の体が消えていくように見えた。


驚いた彼が更に振り返ると‥‥碧娥と光紫も、その光へと漂うように向かおうとしている。


「緋翠、そんな‥‥一緒に戻るんでしょ!」


その声に無意識に顔を上げる緋翠は‥‥心配しているヒョウを見ながらふと思った。

ずっと戦い続けてきた私は‥‥よわさを見せない為に仲間にも対抗するように生きてきた。

そんな中、心から信頼出来たのは‥‥あの星で出会った、弟に近いだけだったかもしれない。


「ヒョウ‥‥大丈夫よ」


緋翠は根拠の無い言葉でヒョウを見ながらながら寂しそうに微笑む。

そして、全てが光に包まれると‥‥緋翠はその世界に溶け込んだ。














緋翠が見たその先には━━、誰かが居る。









「‥‥葵竜‥‥」




現れた青年、

星幻の葵竜の表情は笑っている。


そしてその光が消えた時‥‥‥青空が広がっていた。

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