8-2 あの日の誓い

火是が葵竜の言動に言葉を失うのも束の間、ふと自分の視界のに気づいた彼は辺りを見渡すと、いつの間にか二人の周りには、数えきれない程の小さな光が‥‥星のように漂っていた。

それはグリームでこの星一番に強い光を放つ《スタルオ》の前にし、蛍火のように儚く光っている。


‥‥それが星のざわめきとなり、魂の滅びる叫びのように聞こえ‥‥ぞっとした。そんな火是に葵竜は悲しげに言葉を放つ。


星の中心スタルオが壊れる前に、この星は壊れる。この魂を救う為に、俺はスタルオを撃つ」


‥‥この星が終わる‥‥?

‥‥此処から遥か下、地上では異凶徒の攻撃で亡くなった数えきれない魂が、仄暗い光となって浮遊しているのだ。

その為に葵竜は《スタルオ》を‥‥スタルオの銃で撃つのだと言っている‥‥。

確かに、スタルオはスタルオでないと壊れない。しかし‥‥愕然としながらも火是は疑問を感じた。

‥‥一発しか無かった弾は、この場所を開ける為に使った。

だからもう無い筈だ‥‥。


そう思っていた矢先、足元から何かが聞こえてくるのに気づくと、火是は星の中心から遥か下の地上を見下ろした。


「━━何だ!?」

ギュウィッッィイイインと、金切るように響く機械音。巨大な鉄で出来た爪状の重機が自分たちの居る場所に向かい、せり揚がって来る。

それは異凶徒軍がスタルオを捕らえる為に以前から燈台に仕込んでいたものだ。

螺旋階段を軸にして四方に取り付けられた巨大なアームは、既に破られていたスタルオの装飾を突き抜けてこの場所へと突進して来た。



「どうだ!これで《スタルオ》は我が物だぁ!」

自分の居る場所を高速の速さで通過していく重機に高らかに声を上げるルーダー。

緋翠は固唾を吞んで、ただ見守るだけしか出来なかった━━。



「ヤバイ、このままではに《スタルオ》を奪われる!」


そう叫びながら腕を掲げた火是は、底から猛突進してくる一つに狙いをつけると榴弾砲ハウザーを撃ち放った!


ドグァォオオーン!!

命中した鉄のアームは撃破され、ひしゃげる音と共に一つ歪んだ。


砲弾と破壊される鉄の音が響き、それと同時に違う場所から満面の笑みで眺めていたルーダーの表情も崩れる。


だがアームは残り三つある。火是は高速で近づいてくるを場所をずらしながらもう一つ撃ち、更に移動してもう一つ、轟音と共に撃ちつけていくが‥‥最後のアームだけは間に合わず、火是は焦った。


グゥォォーーーンという音と共に、巨大な爪状の重機が眼前に現れる。


「━━━━!!」

その時━━背後から音がした。


一条の流れる光と一瞬で焼失した物体。その後ろを振り向くと、そこには銃を向ける葵竜の姿。

4つ目ののアームは彼がスタルオの銃で破壊したのだった。

‥‥何と言う威力だ。それを唖然としたように火是は目を見開く。


「まさか‥‥嘘だ」


火是は思っていた疑問を否定するように投げかける。


「弾は一つしか無かった‥‥もう無い筈だ」


「弾はある」


そういうと葵竜は《スタルオ》の銃から銃弾を取り出し、掌に乗せて見せる。


「弾は、ルーダーが持っていたのを彗祥が斬ったのだ」


それは、ルーダーの鎧の手についていたスタルオの爪。鎧の切れ端から斬り取られたものを、彼はそれを銃弾に使っていたのだった。


その証拠を見せつけられ、奴は本気で《スタルオ》を撃つつもりだ、と確信すると‥‥火是の心の中が、一気に爆発した!


「お前、ここがどうなってもいいのか!俺たちはこの星を守る為にずっと戦ってきただろう!!」


「それなら何時いつ終わるんだ?彗祥の夢が教えてくれた現実がこれだ!」


火是の燃えるように訴えに己の感情をぶつけてくる葵竜。

その顔は、彼が今まで見た事もない表情だ。

‥‥葵竜は火是から視線を外すと、忽然とスタルオを仰ぎながら言う。


「‥‥精神を破壊されようとされなくても、どのみち此処は変わらない。この幾多の魂は蘇っても戦い続けるのなら、化け物と成りしも好きなだけ戦うがいいだろう」


‥‥スタルオを手に入れる為にグリームを破滅に追いやったルーダーと、精神を奪われ破滅の道に進んでしまった彗祥。

葵竜はそれをきっかけにこの世界に絶望を感じ、スタルオを奪おうとする。


その彗祥によって殺された仲間の仇を討ちに来た火是だったが‥‥撃つものが彗祥から葵竜へと変わった事に気づいた━━。


「‥‥お前にそんな事が出来るのなら、その死骸と共に何処にでも行くがいい」


葵竜を撃つ、と覚悟した火是。

━━《スタルオ》の弾を手にする彼は銃弾が入っていない。

その前に、葵竜を止める!

榴弾砲ハウザーの銃口を葵竜に向け、狙いをつけると叫ぶように声を上げる。


「だが、その前に死んでもらうぜ!!」





空気中に乾いた音が短く響き渡る。



「‥勝手に‥‥しやがれ」



火是はそう言いながら呻いた。榴弾砲ハウザーを持った方の腕が真っ赤に染まっている。

そこには、光の小銃ライトハンドガンを構える葵竜の姿。

瞬時に撃たれたのは火是の方だった。

火是は、違うものを向けるような眼で自分を見据える葵竜が全てを棄て、孤独の世界へと入る道を決意したのだと気づいたのだ。


「だが俺は‥‥此処から逃げるつもりはないぜ、葵竜」


葵竜にそう告げる火是は食いしばるように力を込めるも、榴弾砲ハウザーと共に座り込むようにそのまま崩れ落ちる。


「これじゃもう戦えないが‥‥‥」


息を切らしながら‥‥火是は葵竜にと思った。

頭上の《スタルオ》を遠い目で眺めながら‥‥いつも通りの表情で笑みを浮かべると、最後にこう独り言を呟く。


「俺は死ぬまで、この星と一緒だ」


この星を守る為に戦い続けた火是の命の炎は消えた。

葵竜は動かなくなった火是を見下ろすと、


「だが、もう必要無い」


と全ての想いを閉じ込める。

そして、《スタルオ》の銃を撃った━━。




天井から物凄い音と光が炸裂し、《スタルオ》とグリームが壊れ始める。その光景に緋翠とルーダーは驚いた。


「ど‥‥どういうことだ、私が手に入れる前に《スタルオ》が壊れるではないか!!」


自前の重機を壊され、更に意図せずに自分の欲しがっていた物が失なう光景を目にして狼狽るルーダーに緋翠は鞭竿ウィップ・ロッドを構えながら一言言った。


「あんたは自分で壊そうとしたこの星で死ぬのよ」


間髪入れず放った鞭竿ウィップ・ロッドは真っ直ぐにルーダーの体へ向かうと、射抜かれた彼はそのまま絶命する。



その後、緋翠は全てが崩れゆくこの世界を見渡した。逃げる道は無い。螺旋階段から移動し燈台から出ようとした緋翠は、突如瓦礫の下になり真っ赤な血を咲かせると、煙と炎の中に包まれた。


姉さん‥、葵竜、火是‥光紫、皆んな‥‥

もう誰も居ない。許さない、許さない、許さない‥‥‥

身動きが出来ないまま身悶える緋翠は‥‥熱さと苦しさの中、この世の全てが憎いという感情に燃え盛ると、仄暗い魂となろうとしていた。


その烈火の中、息絶える寸前の緋翠の意識に‥‥‥彗祥と、スタルオの欠片が飛び散った姿が浮かぶと━━。


緋翠の全てが消えゆく時‥‥一瞬の光が弾けた。






彼らは鉄に覆われた星に住むようになった。

自分の手で力として創り上げた世界、

偽物の自然とはいえ、いずれ黒炎の太陽に水と光、晴天の雲と風に紅い花が咲くのを夢見ただろう。




ここは  どこへ行くの ?


緋翠は、眼を開けているのかすらも解らない。


  私は 死んだ  ?


だが、奇妙な感覚が意識の中にあった。

自分は生きているのか死んでいるのか解らなかったが、不思議な、光の空間の中を流れている。

その幾つもの光の中に、光紫と碧娥も魂と化したように同じ世界を漂っていた。


私は  どこへ    。


そうすると、彼女は朦朧とした世界で「彼」を見た。



     葵竜   。



彼は眠る彗祥を抱いていた。

緋翠はそんな彼の顔を見ると‥‥。


彼は、スタルオの欠片を手に彗祥の顔を見つめ、一筋の涙を流している。


  何を思っているの?




違う、と確信した緋翠はそれまでの感情が変わると、私は 死んではいない  と想いながら‥‥一つの渦の中に入っていく‥‥。


そう‥私は‥‥あの日、誓ったの。


いつか‥‥私が葵竜の‥魂を‥救う‥‥‥‥‥‥と。






「緋翠!!」


眼が覚めた緋翠の前に、ヒョウが思わず叫んだ。



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