１−2 回想・グリームの街（上）
緋翠たちの星の話。
彼らの住んでいた星は《グリーム》と言った。
鉄で出来た円球のこの星は、中が空洞になっていて、某ガン○ムでいうスペースコロニーのような感じ。
空洞の内側に人々が住む土地となっていて、そこには積み重なるように建物が入り組んだ街となっている。
街は昼間でも仄暗いが、唯一人工的な日の光が照らし、更にとても高い燈台が聳え建っていた。
燈台は、花のような形に造られていて、地上から天井の人為的な日の光に直結するようにこの世界を輝かせた。
‥‥世界観を説明すると、迷路の様に抜け出せないビル街が聳え、それより高い花の形をした塔台があり、その更に上に人口の太陽があると言った状況。
そんな彼らの住む街を、異郷の者が侵略しようとしていた。
数え切れない程の建物は破壊され、次々と瓦礫を作り出し、その迫りくる異郷のものを相手に「都市部隊」と呼ばれる者達が街を守る為に彼らと闘っていた。
そこに「彼」と緋翠たちが暮らしていた。
彼━━
日々街は荒んでいったが、葵竜は破壊を繰り返す部隊と違い、姉である恋人の彗祥と街の傷ついた人たちを救っていた。
二人は優しく誰からも好かれる人間だった。
そんな彼が何故、戦う事になったかというと‥‥
葵竜が都市部隊のアジトに行こうとした事に端を発する。
「俺は彼らに協力を頼むよ。説明すれば、解ってくれると思うから」
「‥一体何を考えているの？何で姉さんは止めないのよ‥‥」
そう言った緋翠はまだあどけなかったが、血の気が多い少女だった。
街を守る為とはいえ、都市部隊は殺戮を続ける連中だと解っていたからだ。
「いくら葵竜がいい人だからって、あんな奴らのところに行って眼をつけられたら騙されて殺されるわ！」
緋翠は彗祥に猛反対をした。だが葵竜は、日の光を受けた爽やかな表情を見せると、
「緋翠、大丈夫だ。俺はただ話をしに行くだけだから」
そう笑って彼は彗祥と共に出て行った。
葵竜が会ったのは、部隊のリーダーの
澄んだ緑色の眼をした曇りの無い心の葵竜と、見た目は美しいがおっとりとした印象の彗祥。荒くれ者の部隊の中にいる火是にとってこの二人がこの場所にやって来た事に、異質なものを感じた。
二人はまさに飛んで火にいる夏の虫の状態だったが、あえて火是は聞いた。
「で？お前たちは俺たちに何をして欲しいんだ」
「仲間になってほしい。一緒に街の者を救うのを手伝う、」
「あ？」
「やってんだろうが！俺たちは汗水たらして
火是の仲間がそう怒鳴りつけるも、葵竜は訴える。
「そのせいで戦火を受けた市民は犠牲になっている。だから、彼らの保護も頼みたいのだ」
犠牲を伴わなず勝つなど、そんな事が出来る訳が無い。そう思いつつ、火是は何故か葵竜を気に入った。
「解った。やれるものならやってみな」
火是は仲間のどよめきを無視し言い続ける。
「但し、武器は使えるようになってもらうぜ。いざという時に使えないんじゃ困るからな」
「解った。ありがとう」
それから、葵竜は都市部隊の力を借りて市民を守るようになった。
異凶徒が来るという情報を聞いた都市部隊達が市民を匿った。
彼らは女子供を見ながら楽しそうに笑った。
「へっへっへっ、この女子達を守ってやるんだ。報酬を貰うには選り取り見取りだぜ。特に葵竜の横に居る彗祥は‥‥」
バキッ！
火是に殴られたメンバーの一人は意外な顔で火是を見る。
「やめろ。手を出すな」
「そんな、じゃあ、その道の
「駄目だ。えっちなお姉さんに嵌められて部隊を壊されたく無いからな」
その時だった。突然辺りが騒がしくなる。
「来たぞ。異凶徒だ！」
「ちっ！」
「きゃああ！」
街は一気に戦場と化し、戦う部隊達。
「こっちよ！」
葵竜と彗祥は市民を安全な場所へと移動させながら守る。
戦いが終熄すると、安全な場所に匿われていた市民達が外に出る。
「葵竜、彗祥！」
街の者は自分たちを救った葵竜と彗祥に集まる。
「みんな無事だ。二人のおかげだよ」
いかつい風貌の都市部隊には近寄り難いが、それなりに感謝していた。
それまで腫れ物を触るような扱いだった都市部隊の者達は、細々と礼を言われる。
すると、その中に立っていた火是に一人の少女がとことこと近づいてくる。
「お兄ちゃん、ありがとう」
自分を見ながら微笑む少女。
慣れない出来事に一瞬動揺するも、火是は思った。
「‥‥悪く無いな」
そう言いながら葵竜と、彗祥を見る。
それから火是と葵竜は、共同して都市を守り、異郷者と戦おうと決意したのだ。
火是という男は、葵竜と歳は変わらなかったが、自ら部隊を作っただけでなく、特殊な武術を身に付けた猛者でもあった。
火是は何人もの部隊の者に武具の使い方、戦い方等を教えていた。
時が経ち、やがて緋翠も彼に武器を教えられると、いつしか彼らの仲間になっていた。
しなやかな鞭、竿のように真っ直ぐに伸び、
この三人は互いに訓練の相手となり、緋翠にとっては年上の葵竜達よりも行動を共にしていた。
━━緋翠は気が強い少女だったが、争いが嫌だったし、この都市部隊も嫌だった。
そんな彼女が何故、ここに来たかというと、葵竜と彗祥がいるからだった。
いきなり都市部隊と一緒になって戦うと言った無茶な姉と、その恋人を放っておけなかったから‥‥。
「姉さんも葵竜も優しすぎるのよ。ホント危なっかしくて見ていられない」
緋翠は涼しげな顔の葵竜と小春日のような表情の彗祥をおてんばな妹のように緋色の眼で見た。
「でも私がここに居れば大丈夫。二人を守ってあげるから」
そう言うと、笑い声が聞こえた。
「誰よ！」
緋翠がその先を見ると、低い笑い声の男が壁を背にしながら腕組みをして立っている。
「碧娥、何笑ってるの」
カチンときたのか、突っかかった緋翠にニヤニヤしながら言った。
「お前、そんな理由だけで此処にいるとか、見た目よりロマンチックで可愛いんだな」
「誰がロマンチックよ！それに何が悪いの？私が
毎度ムキになって喰いかかる緋翠に碧娥は平然と聞いた。
「じゃあ、そんなにここが嫌いか」
「‥‥違うけど」
確かにここが嫌いだけど‥‥
そう思いながら急に黙った緋翠に碧娥は、あ、と茶化すように、
「じゃあ、あいつの為か？」
と言ったと同時に緋翠は平手で顔を打った。
「何馬鹿なことを言ってんのよ！デリカシーも無い誰かには言われたく無いのよ！！」
「ムキになるなよ、冗談だろ！」
百倍返しに言い返して詰め寄ってくる緋翠に。怖気ながら逃げる碧娥。
その横を何事も無いように通り過ぎる男に、碧娥は助けを求めた。
「光紫！」
光紫は二人を一瞥すると、その場を離れようとした。
それがカンに触ったのは緋翠の方だった。
「光紫、あんたまで私を馬鹿にするの？」
彼は気にすることもなく、二人に言った。
「いつもの事だろ‥‥敵意を向ける相手は他に居るというのに」
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