3−1 現れた女
「いい天気ねー」
その声で振り返った目線の先には、冷たい空気と闇の中、一人の若い女が立っていた。
十七歳位だろうか、太腿を隠す程長い黒革のブーツに黒革の
どこか戦闘服を身に纏うかのような殺気が感じられるその姿は肌の露出した部分を際立たせ、流れる赤い髪に
同い年の沙夜はまだあどけなくて可愛いといった感じだが、この女は綺麗と可愛いの両方を併せ持っている。
‥‥ヒョウは一風変わっているが、自分より少し年上に見えるその女を見て、安心した。
が、女はヒョウの方を見て、
「お前はまだ餌になっていないのか?」
と聞いた。
「餌‥‥あれの?」
ヒョウはその言葉に思わずドン引きするも、この人だってこんな暗がりに化け物がいる状況で、いい天気とか言えるんだ。
それなら‥とヒョウは冗談混じりで聞いてみる。
「‥いつからここは野良猫じゃなくて、野良化け物が出るようになったんだろう?‥‥それとも、これって夢じゃないよね?」
「それなら夢と思えばいい」
女はそう冷淡に微笑しながら腰に巻きつけてあった赤い
「このまま夢の中で生きていると思って死ぬのがいいわ」
一振りすると、赤い紐は竿のように真っ直ぐに伸び、その先端を一瞬でヒョウの目の前で制止させた。
女の眼は、凶器を突きつけられて唖然とするヒョウを睨んでいる。
‥‥普通じゃない‥ヒョウはさっきの凶暴な男の事を思い出した。
‥‥まさか、この人も土の中から出てきたとか‥‥‥?
‥‥しかしヒョウは、何故かこの女が自分を殺すとは思えなかった。
「何なんだよ冷たい‥まさか俺、今死んだりするの?」
「だったら優しくしてほしい?」
やたら馴れ馴れしく話しかけるヘルメットを被った男に女は冷たく微笑むと、赤い紐を腰に戻しながら歩いて来る。
近寄ると全身から漂う異形の雰囲気と、若い女性ならではの
「私があれを倒してあげるわ」
「ど、どうやって?」
すっとんきょうな表情のヒョウに、女はさらに理解不能な言葉で淡々と答える。
「あれを連れてきたのは私の姉さんだから」
「姉さんって‥‥どこから?」
女はヒョウから離れると、空を見上げながら呟いた。
「ここから遠い星よ‥‥彼らは復讐の為にこの星で蘇り、私は彼らを倒す為に蘇った」
━━その時、ヒョウは空から光が落ちて来た日の、あの青年と一緒にいた女性の事を思い出した。
ヒョウはおどおどしながらも話を探るように聞いてみた。
「じ、じゃあ、あいつも‥‥?」
「蘇った。問題は、この星であいつの創ろうとする世界を奪われるか、守れるかよ」
‥‥女は暗い空を見つめながら何かを思っている。
どこか遠い場所に向けている赤い眼は、強気に見えると同時に哀しげだ。
そんな二人の間には深い距離があり、ヒョウは内心、何を言っているんだ!?と思ったが、なぜか彼女が言った「姉さん」とは誰のことか解ったし、「あいつ」が「あの男」だということも解り、昨日からの出会いが只の偶然とは思えなかった。
さっきから降っていた白い光はいつの間にか消えていたが‥‥ふと、女は急に顔色を変えた。
木の陰、崖岩の段の上、建物の奥‥‥鋭い視線を周囲に向け、暗闇に仄暗く光る数を確認するように眼で数を数える。
「‥あ、あれは‥‥」
「あれは
ギャーァアオ!!
絶叫すると同時に
「あぁっ!」
ヒョウが恐怖の顔で叫んだその瞬間、女は再び腰の革紐を引き抜くと、
一瞬の一撃で
女は進行方向に現れる
緋い
更に闇から光のように現れ、女に狙いをつけた
「はぁっ!!」
叫びながら気合を込めた女は、空中から竿のようにしなやかに伸びた
「‥‥!」
辺りは
一瞬の間に目の当たりにしたその光景に恐ろしくなったヒョウは、隙をついて駆け出すと見つけたバイクに乗り込んで一目散に逃走した。
「!!!」
それを見た女は空高く跳んだ。
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