2-2 仄暗い光(化け者)

ヒョウが沙夜を先に帰らせたのは、これ以上彼女が危険な目にあうのを恐れたからだった。

金髪の変な男から光る石を貰った沙夜。その後に雪のようなものが降り‥‥これは沙夜にとってときめくようなシュチュエーションだったのだろうか?俺はそう思わない。むしろ、何か不気味なものを感じる‥‥。

でも、それだけだろう。あの雪みたいな光は季節違いに降った雪か、何処かのパチンコ店から夜通し放つライトなんだろう。それ以外は何も無いと信じたい。

そしてこのまま自分も家に帰り何事もなく明日になれば、学校でさっきの出来事をそのまま報告するんだ。沙夜はクラスの皆んなに「やっぱり宇宙人居たの。イケメンだった」とか笑って‥‥。

‥なのに‥‥


『‥‥あいつは一体何なんだ?』


そう思うと同時に、あの男の言った意味や真相も知りたい自分がいるのだった。


━━そう思いながらバイクを走らせるヒョウが、これからとある異星界の戦いに巻き込まれ、青年と関わりを持つ羽目になるとは、この時は知る由も無かった。



暗がりの道、一直線に突っ切りながら鳴り響く排気音。

ヒョウはさっきから、何か異様な雰囲気を感じた。

‥‥誰もいない、だが何かいる。

ヒョウはライトの灯りだけが照らされる僅かな視界の中や闇の方に必死で気配を探る。

走るバイクを掠めていく雪のような光は今もなお降り続き、まるで自分が違う星に居るような錯覚に陥っていた‥‥。

すると、地上に落ちてくる白い光が吹雪のように一気に視界を遮った。


その先に、はっきりと見えなかったが‥‥闇の向こうに人を見つける。彼は思わず声をかけて助けを求めようとする。‥‥だが、その人は道路の真ん中で白い光に囲まれているのを目にすると、直前で急ブレーキをかけた。


「━━?」


その人は仄暗い光に覆われながらもがいている。

ヒョウは、無意識にバイクを移動させながら道路脇に落ちていた鉄の棒を手にした。


アクセルをふかし、方向転換しながら━━大丈夫、気をしっかり持て!と内心恐れを感じる自分に言い聞かせると、意を決しバイクを発進した。


「がぁぁああー!!」


叫びながら突っ走るバイクは光に襲われた人の横を一直線に掠め、ヒョウは鉄の棒をその人には当てないように思いっきり振り回す。


その光は、一瞬だけその人から離れると宙を舞う。漂う白い光が自分の手の甲に触れ、ヒョウの体はゾクっとした。全身に言いようのない戰慄が走るが、ヒョウのバイクは孤を描きながらきびすを返すと、再び駆け抜け、その人を助けようと鉄の棒を振り回し、何度も全力疾走する。


だが、次第にその人は急に力を失ったように崩れ落ち‥‥ヒョウは以上な光景を目にした。


‥‥分散する光は、その倒れた人物に集結していき、全身を食い尽くすように、白く大きな塊となりながら何かの形に変化していく‥‥。

━━そして、次第に動き始めた。


「な、何だ‥‥あれは」


仄暗い光に覆われた、喰われた人物から作られし人格は理性を失った《仄暗い光グリーム》として生まれ変わり━━地上に現れた。


暗黒と蒼白の世界から現れた《仄暗い光グリーム》は、体内の血肉を循環させると次々と人から増えようとしていく━━。


さっきからその光景を目の当たりにし、ヘルメットの下で冷や汗をかいていたヒョウは再度鉄の棒を降りながらそいつ目掛けて一気に駆け抜けた。


案の定、ギィイン、という変な鉄の音が響き、バイクは軌道を逸れて跳ね飛ばされてしまう。横滑りしながら数メートルも離れた場所で地面に転げ落ちると《仄暗い光グリーム》は遠くからヒョウの方を見た。


ヒョウは遠くに投げ出されたバイクに近付く事も出来ない。


「く‥‥来るなぁ!」


体を引きずりながら手にした鉄の棒を必死で振り回し威嚇するも、異常な躍動感をもって一瞬でヒョウの目の前に立った仄暗い光グリームは、その震える体を掴んだ。

ヘルメットごしのヒョウをニヤリと笑うように見、剥き出した牙を濁音が混じる不快な音を立てて動かす。


「ギ、ギャアアアァーー‼︎」


化け物グリームとヒョウの叫び声が同時に響いた。


‥‥に‥逃げられない。助けて、助けて、誰か助けて‥‥


ネバネバが引いた異臭漂う口が大きく開く。

仄暗い光グリームに、今、まさに喰われる瞬間だった。

殺される‥‥そう思ったのと同時に彼は‥‥自分もさっさと帰れば良かったと、後悔した。

だが、もう遅い‥‥‥。


その時だった。足元の土の中から『手』が生えてきたのは。


「━━━!?」


ヒョウはまた驚いてその方を見た。

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