異星界の者

1 偶然

その翌日、ヒョウは学校でも終始事を引きずっていた。


昼下がりの校内では午後の授業も終わり、クラスの生徒たちの騒ぎ声で賑わっている。


「えー‥‥何それ?それありえないって」


信じてるのか信じてないのか、半信半疑でそう言ったのはヒョウの友達の大一だいいちだった。


「昨日の夜、道の真ん中を走っていたら宇宙人が現れて、目の前で急に消えたって?見てない見てない、それ絶対ユーレイだよ」


同じく友達の信二しんじが同じような調子で口を出すと、ヒョウは牛乳を飲みながら昨夜の出来事を思い出し呟いた。


「うん‥‥そう思ったんだけど、幽霊って感じじゃ無かったんだよなぁ、あれは‥‥」


まるで夢現ゆめうつつの状態だった。

それぞれアンパン、カレーパン、メロンパンを食べながら話す彼らは、いつもなら三人で冗談を言いふざけ合う仲だったが、今日は真顔でぼーっとし笑える状態では無かった彼に、二人は慰めにもならない言葉で心配した。


「なにしんみりしてんだよ。お前がそんな顔してるから、校内ではけっこう噂になってるんだぜ」


「そんなの勝手に広めるなよ」


その話の発端はヒョウが不思議な人間を見たという何気ない一言だったのだが、それが噂好きのクラスの女子の耳に入ると、いつの間にか学校中に広まったのだ。



「ヒョウスケ、ユーレイ見たって本当なの?」


ヒョウの本当の名は雹介ひょうすけで、その本名で呼んだ女子三人組が好奇心一杯の顔で彼らに近づいて来る。


「なんでも空からやって来たんでしょ?ねーヤバいってそれ!」


女子達は顔を見合わせ笑いながらヤバイを連発し、「面白そうじゃん!ね、皆んなで見に行かない?」「行こうよ!」と信二達にも自分たちに合わせようとする。


「俺はいいよ」


ヒョウが興味無さそうにしても女子達は必死に絡んで来る。


「なんで?連れてってば、私も見たい!」


「じゃ場所だけでも教えてよ、何処にいたの?」


いろいろ詮索してくる女共にヒョウは、内心これ以上話を突っ込まれても困ると思っていた。

‥‥後で嘘だったとかデマだったとか言われたくも無いし、自爆したく無いんだよ‥‥。

次第に彼は、心の中でだんだん自分が間違っていると思うようになってきた。


「いいよもう、気のせいだったんだよ。俺が悪かったって」


突き放すような口調でその場の女子達から離れようとしたその時、「何の話?」と後ろから声がした。


話しかけてきたのは同級生の沙夜さよと言う少女だった。


ヒョウはまた有りもしない風呂敷を広げてくる‥‥と思いながらも邪魔くさそうにこう言い捨てる。


「別に、‥‥昨日の夜、宇宙人を見たなんて信じるなよ」


すると、沙夜は意外な言葉を口にした。


「私も昨夜見たのよ」


「えっ?」


ヒョウは思わず振り返って沙夜を見た。


「まさか‥‥君も、その場所でを見たっていうの?」


半信半疑で食いついてくるヒョウの顔を、あどけなく見つめる沙夜はこう答える。


「見てないわ。けど‥‥金色の髪の人が空から降りて来たの。それで私、光る石を貰ったっていう‥夢‥‥だけど‥‥」


「‥‥‥」


金色の髪!確かに自分が見た男とは特徴は似ている気がする。

しかし沙夜が見たというそれは夢だ。夢とそれは別物だろう‥‥。


これ以上話を広げられてバカかと思われても困るので、ヒョウは何も言わず沙夜から離れるとすぐ教室を出た。


「待ってよヒョウ君!」


ヒョウは、何度も呼び止めようとする沙夜を無視して通路を歩いていく。


「待って!!  雹介ぇええーーー!」


通路を歩いていくヒョウの後ろ姿を追いながら、沙夜は周りの騒ぎ声に負けないくらいの大きな声で叫んだ。

色んな生徒達が振り返って僕たちの顔を見る中、その声に反応したヒョウは思わず立ち止まり、振り返る。


「何だよ、一緒に夢の中に現れたイケメン宇宙人を探そうって言うのかよ」


「そんなんじゃ無いって!でも、確かに‥‥夢だけどぉ!」


息を切らしながら追いついた沙夜の顔は、半分馬鹿にされたせいか赤くなっている。


「まだ否定しなくたっていいんじゃないの?私、確かめてみたいの!」


ヒョウの目の前まで来て黒い瞳でじっと見つめる沙夜。ストレートの長い黒髪を後ろにまとめ、すっきりとした首の上から清楚な表情を見せるその顔は、最近には珍しいほどに普通の女の子だ。


沙夜はただただ必死で自分を見ているだけだったが、ヒョウはその顔に一瞬目を逸らし上の空を見ると、ふと、言葉を漏らした。


「ひょっとして、勘違い入ってる?」


「えっ?」


‥‥どっちが!と自分で思ったが、沙夜は何の事か意味が解らず何よそれ、と言おうすると、彼は意を決するように言葉を出した。


「じゃあデートしてくれる?」


「な、何よ」


「それなら話は別だけど。君が天体観測に誘ってくれるって言うんなら、一緒にドライブに行こう。‥‥学校終わったら、またこの場所に来てよ」


「‥‥わ、解った。絶対来てよ!」


単純に彼女を連れて何処かに行きたいという、下心ありきで行動に移ったヒョウはニヤリとした。


二人はその夜、ヒョウが見たというあの場所に向かったのだった。


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