多才な子供③

そんなわけで、やがて城内は声にはならない、名声が欲しい! もっと私を認めてほしい! という囁きでいっぱいになった。


 心の声だ。子供にだけ聞こえた。


 太陽が沈み、昇るのを繰り返すうちに、いつしかその声なき声が城を満たした。


 城壁の苔むしたレンガの間から、跳ね橋を引っ張りあげる太い鎖から、離れの八角形の塔オクタゴンにある厠の穴から、中庭の壁際にある武器庫から聞こえた。


 あるいは夕日を受けて郷愁を漂わせる聖堂のステンドグラスから、そして城主の部屋に飾ってある立派な雄鹿の剝製から、しまいには稽古の剣戟のガチャガチャという音から。



 ある日、ゴーディが中庭へ行くため、部屋から出て、螺旋状の吹き抜け階段を下りて、回廊へ出て城主夫人の部屋の前を通った時のこと。部屋の中でローラが叫んでいた。


「……られないわ。私は運を使い果たしてしまったのね! こんなことなら子供の時、将来のためにとっておけばよかったわ。このまま城の中で朽ちていくのは……」


 そこでゴーディは彼自身の赤い宝石のような目にかけて誓った。僕が頑張ってお母さんに幸運を呼んでみせると。



 泣き疲れたローラは、以前、城下街で売っていた宝石のことを考えていた。


“あの燃えるように赤い宝石がここにあれば! 手の平に包んでぎゅってできるのに”


 でもローラは部屋から出たくなかった。そして、自分がルベライトの宝石を持っている姿を想像して満足した。 


“こんど買いにいきましょう。それも一つじゃないわ。沢山箱詰めで買って、この部屋に飾り尽くすのよ。ああ、きっと幸せになれるわ”

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