多才な子供

ユキアネサ

多才な子供①

 ローレンシアは決してかわいくプリティはなかった。確かに顔のパーツは端正かもしれないが、全体を見ると普通だった。それでも生まれつき何一つ満足しないことはなく、自分がかわいくないことも気にしなかった。 


 彼女は曾孫である、かつてこの大陸を統一したロードゥインの。だから財産は、統治が分かれて王国が乱立しても、十分すぎるほど残っていた。


 彼女が満足できなくなったのは、ゴーディング燃尽王と結婚してからだ。絵に書いたような戦闘狂。今まで捉えた捕虜は数知れず。そのほとんどが彼の饗宴のために、燃やされ灰になった。


 その灰は森にまかれ、犠牲者を弔うように木々は枯れてしまった。


「なあ、頼むよ。女を養うは老人の仕事、女を喜ばせるのは若者の役目だってよく言うじゃないか。世界がそう言ってるんだ。それに俺も嫌じゃない。だから一つ契約したんだ。これほど上質な取り決めはないだろう。悪いのはそうあれと望んでいる世界だ。それに君も、俺らの夜に不満はないだろう? 」


 そういって彼は戦争のついでに各地の娼婦と何度も同衾した。


“どうして彼は自由に遊べて私はそうじゃないのかしら……”


 女は家にいて家事をして、子供の面倒を見るべきだ。戦地帰りの夫を慰める癒し手であるべきだ。そうした声なき声が、人々が息をするのと同じぐらい当たり前だという様子をして、彼女を追い詰めた。


 彼女が不満だった理由はもう一つ、子供だ。名前は夫が付けた。ゴードステイン。父親譲りの暗い黄金の髪と、赤い宝石のような目をしていた。 


“―――ああ! 嫌だわ”


 無理に押し付けられた気がして、愛情を抱けなかった。 


“―――私は無理をして産んでしまったのね”


子供が息をするのにも責任を感じてしまう。

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