第1話 蛙面

「やーい、蛙。蛙の子」

 子供達の容赦ない声が半兵衛の背中に突き刺さる。

「うるせえ! 蛙の子はお玉杓子だ。そんな事も知らねえのか、唐変木め!」

 半兵衛は気丈に言い返すが多勢に無勢。七つの半兵衛より二つ三つ年上の餓鬼もいる。

 最後は取っ組み合いになり、三人掛かりで押さえ付けられた半兵衛は良いように殴られる。

「やあい。蛙が泣いた、蛙が泣いた。」

 奥歯を噛み締めて嗚咽を堪えていた半兵衛だが、思わず悔し涙が頬を伝う。

「蛙が泣くから雨が降るぞ」

「蛙が泣くから帰ろ――」

 虐めに飽きた餓鬼共は三々五々散らばった。

 路地に倒れた半兵衛は、暫くそのまま涙が溢れるに任せていた。頬の涙が乾く頃、空からぽつりと雨粒が落ちて来た。

「雨が降ってりゃあいつらには負けない――」

 もそもそと立ち上がると着物の汚れを払った。雨は本降りになり、大人も子供も袖や荷物で頭を隠して駆けて行く。

 半兵衛一人、何事も無いように悠々と歩く。

 最前までの負け犬はどこにもいない。半兵衛は胸を張って我が道を行く――。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る