「デカいから邪魔」「もーいらない」ってなんですか……? 理不尽に元カノにフラれた俺だが、幼馴染の頼みで女子部活のコーチを始めたら皮肉にも高身長が故にモテまくりになっていた。今更復縁だなんてもう遅い!

瓜嶋 海

第1章

第1話 デカいから邪魔

「デカいから邪魔」

「……はぁ?」

「目障りなの! どこでも勝手に視界に入ってきてウザい! 話すとき首疲れるし!」


 理不尽とはこういう事を指すのだと、俺は悟った。

 いつも通りヘアピンで前髪を留め、綺麗なおでこを見せる彼女だが、その目つきは好きな男を見るものではなかった。

 不快感を隠そうともしない表情にて、二つ目の悟り。

 こいつにとって、俺はもう目障りな邪魔者でしかないのだ。


「背高すぎるのキモい!」

「お前、身長高いのが好きって言ってたじゃないか」

「こんなに不便だと思わなかったもん」


 思ったのと違う。

 だからいらない。


 俺はネットで買った半端な商品か何かだろうか。

 まさかその論法を人間関係に当てはめ、あまつさえ隠しもせずにぶつけてくる輩が高校生にもなって存在するとは思わなかった。


「あぁ、そうか」




 ◇




 八月某日。

 夏休み中だが、話があるとの事で彼女――未来みらいに呼び出された。

 特に部活にも所属していない暇な俺は二つ返事でオーケー。

 久々に彼女に会えると思って少し上機嫌で家を出た。


 未来は可愛い。

 絶世の美女、というレベルではないが、愛嬌があってクラスでは人気な女子だ。

 いわゆる一軍女子って奴で、友達も多くて眩い存在。

 俺とは対極に位置する人間だった。


 付き合い始めたきっかけは彼女の方から。

 入学後三日という異常なスピードでアプローチを受け、当時(今も)非モテの名をほしいままにしていた俺はハイテンションで承諾。

 スピードカップルとしてクラスに爆誕した。


 しかし、彼女の反応は段々怪しくなってくる。


 初めのうちは『身長高くてカッコいい!』と事あるごとに褒めてきた彼女だったが。

 次第に『部活入らないの?』とか『意外と身長差って大変だね』とネガティブな言葉を言うようになった。

 ヤバいと思って必死に尽くしてみた。

 夕飯を奢った回数は数えられないし、デートで好きな服を買ってあげたりもした。

 おかげでうちの懐は寒くなったが、彼女の笑顔が見れるなら……と戻ってくるはずのない彼女の関心を求めて貢ぎまくった。


 今思えば典型的なダメ行動だ。

 しかし、初彼女への緊張で俺はどんどん落ちて。

 そして今に至る。



「別れよ」

「……え?」


 待ち合わせ場所だった教室に着くと、彼女は開口一番そう言った。


「え?ってなに。そんなに意外?」

「……いや」


 薄々気づいていた。

 関係性が壊れかけていることにも、未来の関心が俺から逸れていることにも――。


「あぁ、そうか」


 だから俺は、彼女から発せられた『デカいから邪魔』という理不尽を受け入れることにした。


「陰キャなお前とは釣り合わないの」

「お、お前……?」

「お前で十分だっての。それとも何? しゅー君って呼んで欲しいの?」

「……」


 俺、千沙山柊喜ちさやましゅうきのことを未来はいつもしゅー君と呼んでいた。

 今までは嬉しかったが、もう違う。


「じゃーね」

「お、おい。それで終わりかよ」

「はぁ? ……あぁ、なんでフラれたか聞きたいの? ドМでウケるんだけど」


 彼女はふふふと不敵に笑いながら、真っ黒な目で俺を見つめた。


「ウザいし、なんか思ったのと違うからもーいらない」

「……」

「ってか、実は先月くらいから彼氏いるんだよね」


 一気に色んな情報が公開され過ぎて、俺のミジンコ脳では処理しきれない。

 な、なんだって?


 一つ、別れたい

 二つ、デカいから邪魔

 三つ、唐突なお前呼び

 四つ、新しい彼氏が先月からいた(New!)


 今一度頭の中で整理してみて、納得した。

 目の前のこの女は非道だ。


「何その顔。逆ギレ?」

「逆じゃないだろ。普通に怒ってるんだよ」

「えーこわ。ってか、結婚してるわけでもないのによりいい人探すのは普通じゃない?」

「じゃあその前のくだりいらないだろ。どれだけ傷ついたと……」


 言っていて、何でこんな奴にお気持ち表明をしているのかわからなくなった。

 どうせ伝わらない。

 神経逆撫でされる言葉を返されてさらに腹が立つだけだ。

 俺はもう、こいつが嫌いなんだ。


「行けよ」

「何命令しちゃってんの? 独活の大木のくせに」


 夕暮れの中、未来は教室を出ようとして。

 去り際、俺に笑いかけると言った。


「楽しかったよしゅー君。ご飯いっぱい奢ってくれてありがとね」


 最悪の捨て台詞だ。

 完全に無人になった教室、外から聞こえる運動部の声が虚しく響く。


 立ち尽くしていると背後に人の気配を感じた。


「……伏山ふしやまさんか」

「千沙山クンだっけ?」


 それは同じクラスの女子だった。

 ワンサイドアップにした髪を撫でながら、彼女は気まずそうに苦笑する。

 そして。


「フラれたの? かわいそーに」

「絶対思ってないだろお前」

「なんのことだか。ってか、意味わかんない痴話喧嘩を聞かされたあたしの身にもなって欲しんだけど?」

「痴話……喧嘩?」

「いや、いじめかしら」


 そうだよな。

 安心したぜ。

 だって俺、一方的に嬲られただけなんだもの。


 彼女は忘れ物らしきノートを一冊手に取ると、俺を横目で見る。


「んじゃね」

「……あぁ」

「心配しなくても誰にも言わないわよ。まぁあたしが言わなくてもすぐにバレるとは思うけど。……気は強く持ちなさい」

「……」


 未来は口が軽い。

 今までもデートの内容だとか、そういうのをクラス中に拡散されていた。

 今思うとなんであんなのと付き合ってたんだろうな。



 なんて思っているとスマホが鳴る。

 通知が鳴ったスマホを取り出すと、未来にもらったスマホカバーに気付く。

 もらったもなにも、買ったのは俺だが。

 ペアでお揃いにしたいというから、俺が二人分購入したのだが。


「さよなら」


 俺はスマホカバーを教室端のゴミ箱に投げ捨て、その場を後にした。

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