Chapter10 ~tactics meeting~

 一応エアコンが効いていると言える室内、この棟は全館空調の為、吹き出す風の温度には波がある。

 もちろん外よりはマシなので今更誰も文句は言わないが、誰が持ち込んだのか扇風機が抗議のように同時で稼働していた。

 「さて、それでは作戦手順の確認と調整なわけですが、なんで皆さんそんなにしっとりしてらっしゃるんです?」

 学科棟の最上階一番奥の一室、普段は長机が置かれ、名ばかり自習室となっている部屋だが、イチャついていた男女グループを追い出し机を繋げて簡易の会議室と化した室内。

 ディスプレイ替わりの大きなタブレットを中央に平置きし、数枚のプリントを並べながら柴田以外の5人が妙に疲れた顔で乾ききらない髪の毛をタオルで巻いている。

 「「「「「詮索無用」」」」」

 「そうですか、それじゃ始めます」

 気になっただけで興味はほんとに無いようで、柴田は話を始める。

 「今回の目標を確実にしておきますね、最優先は畑の確保です、可能な限り無傷で抑えてください」

 「抵抗は断固排除していいんだな」

 バンが頭をガシガシ拭きながら柴田に問う、抵抗の排除、つまり射撃の許可だ。

 「話し合いで解決していただけるならそれでもいいですよ、そもそも保証金の提案も退去命令も蹴られていますので。」

 「今更無茶言うなって」

 「ええ、無茶ですので基本的には実力で排除してOKです」

 「おーけい、そこだけずっと気になってたからな」

 きるぜむおーるだ、とタオルを鞄に押し込み、柴田が机に広げた書類やら写真に取り掛かる。

 「ただし3号島学校生徒に関しては極力危害を抑えてください」

現在判明しているだけで7人です、そう良い柴田は紙の資料を提示する、顔写真と簡単な履歴、学年が記載されていた。

 「女子生徒4人、男子生徒3人が本土で確認されていません」

 「なんでー?自分らの意思で残ってるんじゃないの?」

 「人質に取られてる風には見えなかったですけど……」

 カヤとメイが資料をのぞき込みながら問う、柴田はさらにもう一枚の紙を取り出し答えた。

 「港湾局が噛むことになりました、地域世論的にもちょっと許容できないですね」

 「親類縁者でも港湾局に居たの?」

 「そうではなく、単純に醜聞的なアレですね」

 先日港湾局長に話を通したら妙に協力的で、と示した資料には港湾局が共同作戦に出せる戦力が記載されていた。

 「巡視船に揚陸艇、ついでにアムトラック1両? えらい盛り込んだな」

 「そんな余裕ないはずですけどね、私がお手伝いしてた外交部もとんかつチキンカツでしたよ?あとぎゅーカツと……」

 「カツカツってことな」

 資料を読んだバンが上げた声にギンが不思議そうにつぶやいた謎ワードにバンが補足を加える。

 「政府の支援と再生機構が今後入ることをお話した直後だったので、俗にいう点数稼ぎの可能性もありますが、吉と出るかどうか……」

 「その点数稼ぎで戦力に変更は?」

 アムトラックが火力支援してくれるならありがたいですけど、と髪を丁寧に拭きながらダイナが先ほどの書類を眺め武装を確認する、12.7mm重機関銃と40mmグレネード発射機、軽装甲相手なら十分以上の火力支援となる。

 「アムトラックの支援は期待できません、うちの非武装職員と商工会の人間、あとは護衛しか乗ってませんので前線にはちょっと」

 柴田は非戦闘要員の上陸用ですねと付け加える、代わりにヘリに非武装人員を載せないので、ヘリからの簡易な航空支援は可能になりましたとまた別の資料を提示する。

 「ドアガン無しのブラックホーク⁉ なめてんのかよ……」

 「そもそも本来は民間型のS-70です、こちらの整備部が好意で廃棄される統合軍のUH-60からドアガンシステムを移植していただけましたので、最低限以上の支援は可能です」

 きちんと対人戦の経験もある6名分隊プラス私ですと胸を張る柴田、タブレットに表示された人事ファイルにはいかにも特殊部隊といった面持ちの面々が人事ファイルとして表示されていた。

 「んじゃハナっから地面耕して終わりじゃん」

 「いえ、状況は変わりません、そもそもヘリが下りられるのが3号島学校の屋上しかありません、校庭は整備されていませんので万が一以外はリスキーですし、旧村落方面は全く不可能です」

 あとは大麻畑と防風林の裏にスペースがありますが初手にはつかえませんねと付け足す。

 「あとこちらが最新の衛星写真です、対空砲は以前と同じく校舎の屋上に2機、さらに1機が校舎の端、非常階段下に確認されました」

 「なんでそんな場所に?」

 「わかりません、拡大すると構成員が数人居て工具箱が傍にありますから故障か整備か、ともかくまた移動される前に作戦実行したほうが良さそうですね。

 「それじゃ当初のプラン通り夜中に上陸、校舎を制圧、確保して対空砲を排除、そっちと合流して共同で残りの敵性勢力の排除」

 一つ一つ指折り数えて手順を確認するダイナ、バンは対空砲の資料に目を通している。

 「対空砲は破壊しないとダメ? こっそり行くなら一時的な使用不能にするだけでいいだろ?」

 「はい、適当な細工でもいいですし、もちろん破壊してもいいんですが、再利用が可能な状態にできるならそれで、あとできるだけ静かに処置したほうがいいので爆破とかは緊急時以外やめたほうがよさそうですね。」

 「りょーかい」

 その後も無線の周波数やらタイムスケジュールの確認、コールサインやら符丁のすり合わせを行っていく。

「そういえば」

あらかた決め終わり、日も暮れそろそろ解散という雰囲気の中柴田が突然声を上げ、タブレットをタップし何かのPDFを表示させる。

「急じゃん」

「小型のLAW(徘徊型自律兵器)がありますが持っていきますか?」

おー、と全員から声が上がる、偵察ができるだけのUAV(無人航空機)ではなくLAWとなれば緊急時にはピンポイントでの空爆が望めるからだ。

「スイッチブレード340、バッテリーの持ちは偵察だけなら40分滞空させられます、一応自己判断AIは搭載されてます、弾頭は通常榴弾なので頑丈なモノへの攻撃は避けてください」

明日の昼にはボートと合わせて届きますので、と柴田はメイへ話しかける。

「なんで私が使うこと決定なの」

「あなた以外に教育を受けている方が居るとお思いで?」

メイは逃げるように皆を見回すが、全員示し合わせたように無理無理と顔の前で手を振った。

「んじゃしょうがないけどさぁ……得意分野じゃないからあんまり精密な目標は無理だよ」

「最悪上空からの視界が得られて最後は山にでも落とせばいいからさ」

あると無いとじゃだいぶ違うからなとバンは腕を組み衛星写真を改めて眺める、そりゃそうだけどねーとメイは柴田から起動コードを受け取った。

「それでは皆さん、明日の夜には出発になりますので各自準備万端にお願いしますね、何か質問は?」

「「おやつは経費に含まれますか!」」

「解散!」

バンとギンが元気よく声を上げるのを完全に無視し、柴田はタブレットをパタンと閉じるのだった。

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