第15話 三人でお茶会

「スザンナ!今日くるなんて聞いてないぞ!」


 扉が開いて、額から汗を流したダニエル王が飛び込んできた。


「ダニエル様、ごきげんよう。今日は国会ではなかったのですか?兄は朝から準備をして出ていきましたが」

「ああ、今まで来週からのニングスキー攻略について会議をしていた。おまえが来ているとエミリヤから知らせが入り、エミリヤを抱いてくると言って休会して来たんだ」

「まぁ……。すぐにお戻りくださいませ」

「俺が早漏だと思われるだろ。朝から休みなく会議していたんだ。少しくらい休んだ方が、良い案も出るというものだ。あいつらも遅い昼食がとれて喜んでるだろうしな」


 スザンナは、戻れと言いつつも甲斐甲斐しくダニエル王の世話をやき、椅子に座らせて額の汗を拭き、目の前に軽食を並べていった。私もしょうがないからお茶をいれて、ダニエル王の目の前に置いてあげる。


「なんだ、おまえがいれたのか」

「アダムママリンじゃなくてすみませんね。毒見が必要ですか?なんなら私が一口飲んでさしあげましょうか?」

「ここにある茶葉を使ったのなら問題ない。スザンナの口に入るものは厳選してある筈だからな。エミリヤはヘマはしない」


 ダニエル王はガブガブと一息で紅茶を飲み干し、私の方へカップを寄越した。


「はいはい、おかわりですね」

「ところで、アダムママリンとはなんだ」

「アダム様のママリンですよ。そのままの意味です。ちゃんとアダムママリンの許可はもらってますからね。私達は仲良し嫁姑なんですから、ちゃちゃ入れないでくださいね」

「おまえ……」


 ダニエルは米神をグリグリと拳で押して呻く。


「頭痛ですか?よく効く丸薬ありますけどご用意します?しばらく口からウ○コ臭するようになりますけどいいですか?」

「いい訳あるか!というか、女の癖にウ○コとか言うな!」


 ダニエル王に睨まれるが、私は気にせずにおかわりの紅茶をいれ、ソーサーの上に常備していた頭痛薬をのせる。

 これはね、持ち歩いてる分には無臭なんだけど、溶け始めると凄い臭いを発するのだけが難点なんだ。でも本当に効果は抜群なのよ。


 ダニエル王は私のかわりにその丸薬をギリギリと睨むと、口の中に放り込んで水なしでゴクリと飲み込んでしまった。


「あ、本当に飲んだ」

「なんだ、やはり毒か?!」

「いや、ただの頭痛薬ですから。あー、私の方に向いて話さないでくださいね。アダムママリンも五メートルは離れた方がいいですよ」


 鼻をつまんで話したからへんてこな声になったが、目の前で吐き気をもよおしてオエオエするよりはマシだろう。

 スザンナも口元をハンカチで押さえているから、さっそく効果が表れてきたらしい。劇臭の方の。あと十分もすれば、頭痛も綺麗サッパリなくなる筈だ。


「ところでおまえ、アダムとは閨は共にできたのか」

「シャーロットですからね。一度は嫁になる筈だった女の名前を忘れないでくださいよ」

「女の名前など一々覚えていられるか!で、やったのか?!」

「ダニエル様、そんなあからさまに……」


 スザンナがダニエル王を咎めるように口を挟んでくれたが、私は逆に食い気味に答える。


「やってませんよ!私はヤる気満々なんですけどね、つい毎晩スコンと寝てしまって……。でも、同じベッドで寝てますから、いつだって機会はあります!でも、今は仲良くなる方が先でしょ。無理やり襲っても楽しくないですからね。仲良くなってから、じっくり二人で官能の世界を堪能する予定なんで、変な口出しはしないでくださいね!パパリンはママリンと楽しんでればいいんです。息子夫婦の閨事に口出しするなんて、欲求不満なんじゃないですか」


 私が鼻をつまんだまま力説(暴言を吐く?)すると、ダニエル王はポカンとして私を見ていたが、急に豪快に笑い出した。


 だから、臭いんだってば!ヒーヒー言いながら息を吐くな!


「だそうだ。スザンナ。おまえが後宮を去ってから、必要のない行為はしないことにしていた。王太子もいるし、子も十九人もいれば文句もないだろうからな。しかし、この娘の言うように欲求不満かもしれんな。おまえももう子はできないだろうし、そろそろ解禁しても良いかもしれんな」

「ダニエル様……」


 ダニエル王の獰猛な雄の目つきはメッチャ色気があるけれど、今聞き捨てならないことを言ってなかった?


「アダムママリン、まだ四十くらいだよね?」

「四十一だ。それがどうした」

「アダムパパリンは黙って。まだ閉経してないでしょ?なら、まだ子供は作ろうと思ったらできるよ。ちょっと高齢出産になっちゃうのは身体に負担かかると思うけど」

「そうなのか?!」

「常識でしょ」

「ゥ厶……、どれくらいしたら子供ができなくなる」

「人により閉経なんか個人差あるだろうし、いきなりなくなるもんでもないらしいよ。一年こなくなったら……って聞いたことあるけど、だいたい五十前後くらいじゃない?」

「あと十年近く……」


 絶倫王と名高いダニエル王だが、悲壮感漂うこの表情を見る限り、本当に禁欲生活を送っているのではないだろうか?そういえばさっき聞いたスザンナの話では、ダニエル王が夫人達との閨が耐えられなくて心と身体を壊してしまったと言っていた。それを知ったダニエル王は……。


 なんだ、ラブラブ夫婦じゃん。他の夫人達からしたらふざけんなよ!って話なんだろうけど、この二人とアダムだけを切り取って見てみれば、愛情ある家族で間違いなさそうだ。アダムには全然伝わってないようだけど。


「あー、この世界の避妊は外出しくらいだもんね」


 そりゃ避妊じゃないわな。堕胎薬はあるようだけど、ピルみたいな避妊薬はないようだった。コン○ームももちろんない。だって、馬車に乗って剣で戦っちゃうような世界だよ。避妊といったら、行為後の膣内洗浄くらいが関の山だろう。


 昔……前世の話だけど、日本最古のコ○ドームとかいうのをテレビで見た時、昔の避妊の方法を色々調べてみたんだよね。といってもスマホで検索しただけだけどさ。

 けっこう恐ろしいのから、それじゃ避妊できないでしょってやつまでいろいろあった。笑えたのは、蜂蜜を女性の中に塗る方法。笑ったのは方法じゃなくてコメントの方ね。その直前に書いてあったのが、鰐の糞を入れるって方法(そんなん絶対に無理!)で、その後に書いてあったからなんだろうけど、良い匂いだしなにより美味しそうだ……って、舐める気満々かい?!って、一人ツッコミして大笑いしたのを覚えている。


 まぁそれは置いといて、実際今使えそうなものって考えると、昔のおっそろしいペッ○リー(石や青銅をあそこに入れたらしいよ)なんか痛そうで使いたくないし、なによりも意味わかんないもの(鰐の糞は論外!)を身体の中に入れたくないじゃん。

 そうしたらさ、後は男性が使う方で考えると、コン○ームだよね。でもさ、ゴムなんてあったかな。ゴムの木なんか知らないしな。知っていたとしても、どうやってゴムをつくるのかなんかわからない上に、さらに薄いコ○ドームにする技術なんか持ち合わせていない。ゴムがない時代のコン○ーム……。


「避妊とは?」


 ダニエル王の口臭に、一気に思考が今世に戻ってきた。だから口を閉じて!さっきの薬のせいで劇臭が漂うんだよ!


「避妊を知らないの?!子供ができないようにすることだよ」


 ビックリだよ。王族には避妊って観点がないのかな?


「そんな方法があるのか?!」

「今、それを考えてたとこ!確かね……動物の腸だかを使うんだったかな。盲腸とか小腸とかかな。布を被せたってのもあったけど、あまり効果的とは思えないよね」

「なんだ、それは?!」

「山羊とか羊の内臓を被せるの」

「なにに?!」

「チン○ンだよ」


 私がダニエル王の股間を指差して言うと、スザンナは真っ赤になって顔を覆い、ダニエル王は無表情になって言葉をなくしていた。


「おま……おま……」

「詳しいやり方とかは知らないからね。どうやって作るとかは聞かないでよ。ただ、動物の腸を細工して筒状にして、それを男性のチ○チンにかぶせるんだって。それでも中出ししない方がいいだろうけど、生でヤるよりは危険はグッと下がる筈」


 これ以上は聞くなとばかりに、私は鼻をつまんで口を塞ぐ……って死ぬから。


「……そうか。そんな方法が」


 どうやらダニエル王は興味を持ったようだ。でも、来週から戦が始まるんじゃなかったっけ?さっきまでそのことで会議してたんだよね。

 嫁との避妊の仕方なんか考えている場合じゃないんじゃないかなぁって、私が心配することじゃないか。うん、違うよね。王太子の嫁だけどさ。


 ダニエル王は、この後すぐにスザンナを強く抱擁してから広間を出ていった。多分だけど、会議には戻らなかったんじゃないかな……。その後、飼育小屋に向かうダニエル王が見られたとか見られなかったとか。

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