第1章  その男、再び

 魔法の国——


 私達の国がそう呼ばれたのは遥か昔——


 この国は、戦争に敗れ、人種以外にも様々な種族が行き交う国となった。


 セイブン国。そう、この国こそが、魔法の国と呼ばれていた国だ。




「はぁっ、はぁっ、はぁっ」


 一人の少女が、街の中を走っていた。


「オラァ! 待てっ! クソガキ!」


 と、男達が逃げていく少女たちを追いかけていく。


 建物を使って、少女は逃げ回る。


 だが、次の曲がったところで、少女は急に足を止めた。


 行き止まりだった。せっかくここまで逃げてきたのに少女は、後ろを振り返った。


 男達は、ようやく少女に追いついて、刃物を持ったまま少女にゆっくりと近づく。


「よう、嬢ちゃん。やっと、追いついたぜ。大人しく、俺達と来てもらおうか?」


「………」


 少女は返事をしない。


「嫌と言っても一緒に来てもらうぜ。なぁーに、簡単には殺さねぇ。ただ、死にたいと思うほどに生かしてやる」


「くっ……」


 少女は後退りをする。男達は、少女との距離を詰める。


 壁に当たり、これ以上、後退できない。


 殺される。少女は、そう思った。


「お前ら! 一斉に飛びかかれ!」


 男達は、少女に襲い掛かった。


 だが、その時、少女の視界に何かが入った。


 真っ黒な服を着て、少女と男達の間に入る。一体それが何者なのか、誰も知る由もなかった。


「昼間からピー、ピー。うるさいんだよ。何かのお祭り騒ぎですかぁ? この野郎。せっかく、昼寝していたのに起きてしまったじゃねーか」


 男の声だった。背中には、真っ黒な剣を背負っている。


「なんだぁ⁉ お前、じゃまだ、どけ!」


「ああ? 聞いていなかったのか? 俺の睡眠を邪魔した野郎は、どいつだって聞いているんだよ!」


 男は、目の前にいた屈強な男に一発殴り掛かった。


「ぐはっ!」


 男はうずくまって倒れる。


 それを見た仲間の男達は、男。いや、若い少年を睨みつけた。


「なめやがって! 全員で一斉にやっちまうぞ!」


「おうよっ!」


「ああっ!」


 男達は、合図とともに少年に飛びかかった。


「ダメっ! 危ない!」


 少女は叫び、少年に呼び掛ける。


 少年は、襲い掛かってくる男達に対して、構え、素手で次々と倒していった。


 戦闘不能になった男達の前に立つ少年は、一体何者だろうか。


 少年は、手についたほこりを払い落し、そして、少女の方を向いた。


「おい、大丈夫だったか?」


「は、はい……」


 何事もなかったように微笑む少年に、少女は唖然とする。


「そうか、それならよかった」


 少年は、倒れた男達を触り、何かを探し始める。


「おー、あった、あった」


 少年が手にしていたのは、男達の財布だ。中身を確認し、金だけを奪い取ると、何も言わずにそのままこの場を去って行った。


 少女は、去って行った少年の後を追いかけた。


「ちょっと、待ってください!」


 少女は、前を歩く少年にようやく追いつく。そして、服の裾を握り、捕まえる。


「ん? どうかしたか? お礼ならいいぞ。一応、お金はたんまり入ったし」


 少年は、少女の事など興味なさそうにしていた。


 先程助けたのも、自分の睡眠を邪魔されて、腹が立っていたからの行動だ。


「いえ、そうではなく。でも、一応、お礼だけは言いたくて……」


「そうか。それじゃあな」


 少年はお構いなしに歩き始めた。


「だから待ってくださいって!」


 少女は、少年の襟を掴むと、自分の方に引っ張る。


「うえっ!」

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