桜の下で君は眠る

桔梗 浬

第1話 「鬼が来る」

鬼が来る…。


血の臭いがする。生ぬるい鉄のような‥。どろっとした血の臭い。

流れるように、蛇行しながらゆっくりと血の臭いが迫ってくる。

狭い押し入れの中で、子どもが二人はいれる隙間にあかりと二人膝を抱え、じっと息をひそめる。


神様‥お願い‥いい子にするから‥。

どうか鬼に見つかりませんように‥。お願い‥。お願いっ。。


何度も何度も呪文のように祈り続ける。


血の臭いがさっきより濃くなった気がした。

今にもむせそうで気分が悪い。


物音を立ててはいけない。

隣にいるあかりの手は、ぐっしょりと濡れていた。その手を、ぎゅっと握りしめる。決して離れないようにしっかりと。

お互いに存在を確かめるように‥。


見つかったら殺される。


逃げるところはもうない。

ただ…見つからないことを祈るだけだ。


ドクドクドクドク‥。心臓が口から飛び出すんじゃないかと思うくらい大きな音をたてている。

血が急速に流れる音で、目眩さえ感じる。

外の様子を知りたいのに、耳を澄ましたいのに心臓の音が邪魔をする。


微かに入り込む部屋の灯り。

心臓の音と生ぬるい血の臭い。あかりの息づかい。

吐きそうだ。


逃げ出したくなったその瞬間、部屋の灯りが微かに揺れた。


誰かが部屋に入ってきた‥。


私はあかりの手を強く握りしめた。

血の臭いが、濃くなる。


押し入れの扉に手が! 鬼の手。


神様!助けて‥。



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