拾ったスマホが擬人化してわたしを誘惑する件

霜花 桔梗

第1話 ゴミ捨て場で擬人化するスマホを拾った。

 クラスに黒髪が似合う女子が転校してきた。わたしは変わる事のない現実に飽きていた。そんなわたしの生活に彼女の存在は、ダイナマイトでもぶち込まれた気分になる。


 そして、彼女は『闇間しおり』と紹介された。当然の様に隣に座りわたしに対して笑みを浮かべる。


「こ、こんにちは、闇間さん」

「闇間なんて堅苦しいわ、しおりと呼んで」


 綺麗だ……。わたしの心が加速する。きっとこれが恋なのであろう。硬直する体は、汗、汗、であった。そうだ、自己紹介をせねば……。


「は、はい、わたしは『星野一茶』です。『一茶』と書いて『いっさ』と読みます。


 よ、よろしくお願いします。不意にしおりは悲しそうな表情になる。


 「あなたは捨てたりしない?」


 意味深な言葉だ。小声の独り言なのではっきりと聞き取れた訳ではないが悲しそうだ。


 偶然かもしれないが昨日の夜にゴミ捨て場でスマホを拾った。型が古くジャンクとしての価値しかないが確かに拾った。


 そんな事をぼんやりと考えていると。


「一茶さん、勉強は好きですか?」

「えぇまあ……」


 わたしは嫌な汗が出てくる。これは難題である証拠だ。そう、しおりの問いに困り果てるのであった。確かに好きかと聞かれたら嫌いと答えるべきであろう。しかし、劣っている部分を積極的言う勇気など持ち合わせていない。


「任せて下さい、わたしが面倒みてあげます」


 なんとも頼りになる言葉だ。しかし、嫌な時代だ。友達作りに親の年収や容姿、成績が大きく関係する。無論、恋人になる条件も同じである。


 そこで問題なのがしおりである。何故、劣等生のわたしに手を貸す。新手の宗教かと疑うほどであった。


 しかし、しおりの純粋な瞳はそれを打ち消す。


 そして、数学の一限の授業が終わると。早速、復習が始まる。しおりの髪の香りがわたしの心をつかみ、近づく顔の距離は胸をキュンとさせる。


「好きですか?」


 不意にしおりが問うてくる。混乱する頭は冷静さを失わせる。


「わたしは好きです。この数学の問題は答えが綺麗な形になります」


 なんだ、勉強の話か……。


 その日の放課後、わたしはぼんやりと空を眺めていた。絶対的な事実として、わたしには双子の兄がいる。彼は天才であり、ハーバード大学に留学している。しかも、両親もついていく始末だ。家に帰れば一人暮らしの毎日だ。これは憶測だが、両親との遺伝的な繋がりがあるか疑問である。作られた天才のはずが、わたしは凡人である。

この気持ちは喉の奥に魚の骨が刺さった気分だ。


「一茶、キスしよ」


 しおりが近づいてくる。と、突然のキス発言である。わたしは血流が逆流した気分だ、ただの女子のからかいではない。想い人の言葉に聞こえたからだ。


「か、からかうなよ……」

「エヘ、少し早かったかな」


 しおりはわたしの腕を掴み、幸せそうに笑うのであった。そんなわたし達を見ていたのか担任がそろそろ帰る様に言う。大人にとってみれば、微笑ましい光景なのかもしれない。わたしは苦笑いをして担任にしたがう。


「わたし、一茶の家で暮らしていい?」


 わたしの時間一瞬時が止まったのである。


「わたしはあなたに拾われたスマホなの」


 聞いた事がある。女子に変身できる。


 『ββ』とのダブルベータシリーズなるスマホがあると……。


 都市伝説だと思っていたが実在するとは。


 そして、黄昏が辺りを支配する時間、バス停から自宅に戻る途中の事である。しおりが隣を歩いている。


 わたしは手をつなぐか迷いに迷っていた。ノーガードのしおりは少し子供じみていた。そんな事を考えながら歩いていると自宅に近づく。


「あ!一茶ちゃんだ!」


 この声は幼馴染の由実である。家族の中で浮いていた日常に、わたしは幼馴染の彼女を頼っていた。そう、彼女はわたしの孤独な日々にひとさじの幸福であった。


 由実も高校生になり付き合いが薄れるかと思えばそうではない。女性らしさが目立つ年頃になっても由実は変わらなかった。


 しかし、今はしおりを連れている。これは修羅場かもしれない。


『一茶ちゃん、退いて、そいつ殺せない!!!』


 ハッ、一瞬の妄想である。流石にそんな事はないか。


「一茶ちゃん、その娘はスマホだよね?」


 何故分かるかと不思議に思えるが確かにスマホである。良かった、本当に修羅場にならなくて。


「はい、『ββ』シリーズのしおりです」

「はー、本物だ、すごい、お友達になりましょう」


 こうして3人で自宅に帰るのであった。

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