第52話 病院と、イメージ操作と、キャウリ、ナスの浅漬け

 マイサポ会が出張の話をもってきた。

 俺は話を聞いて、出張へ行く事にした。


 バンタイプの車が家の前に停まったので乗り込む。

 甲斐蘇かいそさんが後部座席にいた。

 俺は隣に腰かけた。


「○○病院までお願い」


 マスコミは追いかけて来たが、高速道路で振り切られた。

 そして車は県外の病院に到着。

 マスコミが待ち構えていたが、これは甲斐蘇かいそさんが用意したマスコミだ。

 俺は今日この病院で慈善活動する事になっている。

 もちろん病院側の許可も得ている。


 俺は甲斐蘇かいそさんの案内で病室に入った。

 毛糸の帽子を被った6歳ぐらいの女の子がベッドに寝ている。

 甲斐蘇かいそさんは花瓶に挿した観葉植物を病室に置いた。


「マイナスイオンを浴びる会の会長の畑山はたけやま氏が病室に訪れました」


 アナウンサーがそう喋った。


「観葉植物と飴を持ってきた。舐めるかい?」


 俺は女の子に聞いた。


「うん」


 大きく開いた口にエリクサーをまぶした飴を放り込む。

 女の子が口をもごもごして、帽子が落ちる。

 髪の毛がふわりと広がった。

 女の子は髪の毛に手をやると泣き出した。


「奇跡の飴でまた一人患者が救われました。感想をどうぞ」


 そうアナウンサーが言う。


 もらい泣きしそうだ。

 俺には医者は務まらないな。


「一人でも多くの患者さんにマイナスイオンを届けたいです。飴の力ではなく全てはマイナスイオンの力です」


 医者が入って来て診察を始めた。

 俺は病室をそっと出た。


 アナウンサーが何やら喋っている。

 ほとんどやらせの番組だな。


 イメージ操作の為らしい。

 裁判員に良い印象を持ってもらう為だとか。

 それに安くない取材費を貰っている。

 病室全てに一つ1万円の飴を配っても、その代金ぐらいは出ている。


 次の病室は、両足にギブスをした12歳ぐらいの男の子だ。

 頭にも包帯を巻いている。

 そこら中が傷だらけだ。


「観葉植物と飴を持ってきた。舐めるかい?」

「もらいます」


 男の口に飴を放り込む。

 男の子は手を握ったり開いたりしてから、体を起こした。


「動く。動くよ。ありがとう」

「マイナスイオンはいいぞ。爽やかな気持ちになれる。元気になったら滝とか森に行くと良い」

「うん」


 男の子はギブスの足でよろよろと立ち上がって歩いた。


「この患者は歩けなかったのですが。ご覧の通りです」


 男の子のお母さんと思われる人が泣いている。

 やばい俺の涙腺も崩壊しそうだ。


 こういうのは苦手だ。

 でも辞めるという選択肢はない。


 俺は病院のほとんどの病室を回った。


「医者が良く許可したね」


 俺は甲斐蘇かいそさんに話し掛けた。


「医者は病人に治ってほしいのですよ。儲けばかり考えているわけじゃないんです。立派な人もいます」

「そうなんだ」


「ここには定期的に通ってもらいます」

「それは別に良いけど。売名行為に加担しているみたいだ」

「その側面は否定できません。でも患者の為にプライドを捨てて、訳の分からない物に頼れるのは立派じゃないですか」


 未承認の薬を外国から輸入して処方している医師を、テレビで見た事があるけど、似たような物か。

 その医師の思惑も様々だろう。

 俺としては病人が治るなら嬉しい。


 今日は忙しかったのでキュウリとナスしか収穫してない。

 出かける前に浅漬け用の液に野菜を漬け込んできた。

 良い感じに仕上がっているはずだ。


 メインはコロッケにしよう。

 帰りに肉屋に寄ってジャンボコロッケを買った。


 家に帰って、キャベツを刻みコロッケを載せる。

 浅漬けを出して切って皿に盛った。

 昼飯はこれで良いな。


 浅漬けのキュウリをポリポリと食べる。

 出汁も利いていて、少し辛くて美味い。


 浅漬けのナスを摘まむ。

 ミョウバンが入った液だったので、ナスの紫が鮮やかだ。

 歯ごたえと程よい塩加減が心地いい。


 メインのジャンボコロッケを食う。

 とんかつソースとコロッケがぴったりマッチしてこれだよこれと言いたくなる。

 そして、ご飯をかきこむ。


 そして口直しに浅漬けを食う。

 エンドレスだ。


 結局、ご飯を2杯も食べてしまった。

 今日は活躍したから、このくらい食べても大丈夫。

 余分なカロリーは畑仕事で消えていくさ。

 畑をやり出してから太った事はない。

 よし、午後も畑仕事、頑張るぞ。

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