二章の現場から

1 二章の前に

 どうやら差し押さえは毎日ではないようです。あれから黒づくめな奴等は来ません。


 僕は2部の撮りがある前の、空いてしまった約1週間短期のバイトをするためバイト探しです。


 やはりコンビニは長期でないとだめでした。


 丁度お菓子を作る工場の短期バイトがあり、ひな祭りの季節が来たので、僕はそれに飛びつきました。5日ほどのバイトですが、一日中働けてすぐにお金も貰えるので家賃1万5千円のアパート代の足しになります。2部のお金がもらえたら、少し生活費を取っておこうと思います。それまでは田舎から送ってきたお米と梅干でムーンと僕の食費をまかないます。




 そう言えば僕は3月3日生まれです。子供の頃はとても嫌でした。だって男なのにひな祭りに生まれるなんて……。


当時は母親を恨んだものでした。けれど、中学生や高校生になってクラスの女性徒が面白がってなのでしょうけど、それがきっかけなのか僕の誕生日を覚えてくれていてプレゼントをくれたりして、結構他の男子に羨ましがられたものでした。




 あ~あ、みんな今頃どうしているのかなぁ。


 唯一付き合った当時のあの子は今ごろどうしているだろうか。


 


 なんて感傷にふけっていても仕方ないですよね。


 今はお金です! 命より重いお金です!


 僕は工場でのかっぽうぎを着てマスクをし直しました。


 一日中苺をショートケーキの上に乗せています。




 美味しそうだなぁ、苺。




 ああっ、しまった! 涎が出てしまいました。


 僕が狙った通りに、工場で作ったケーキなどのお菓子は少しお持ち帰りができました!


 バイトが始まり、3日ほど経つと、家の前に黒づくめの男達がいました。




 ああ、出た。はぁ、なんてことだ……。




 僕は覚悟を決めて、手にした苺のショートケーキを出しました。


「なんのマネだ? おい」


「お金は今ありません。だから、その。苺ケーキを食べてください……」


 僕は真面目に言ったのに、男達に殴られてしまいました。




 な、なんで?




 このショートケーキを手放すのにどれだけ勇気がいったことか!


 撮影があるから顔だけは許して欲しいと頼むと、散々お腹を蹴られてしまいました。




 ううっ、痛いよ~~~。どうしていつもこんな目に……。




 そして今日はコーヒーメーカーを持っていかれました。


 あううあ。


 アパートの入り口にケーキがぐちゃぐちゃになって落ちてしまいました。


 それをムーンが食べてしまいました。


 あうう、僕のケーキ……。




 こうして僕のバイト生活が終わりました。バイトが終わるとやっと撮影です。


 僕はバイトから帰ってもすることがなかったのでひたすら2部の台本を読んでいました。


 家に居る間は暇だったのでセリフはもうかなり覚えました。もともと少ないんですけどね。


 


 2部のシーンはスタジオが少し違う場所です。今までのところとは違う所にお屋敷内のセットが組まれているそうです。そういえば隆二さんが隣のスタジオのセットの事言ってたなぁ。


 いつものように僕はスタジオにムーンと向かうと、ムーンは久しぶりのスタジオの臭いに興奮したのか


また僕から離れてスタスタと歩いていってしまいました!


 


 ああ、ムーン! お前は~!




 僕がスタジオに入ろうとするとそこにいる警備員が血相を変えて走ってきます。


「君、君!!」


「……はい?」


「関係者以外入ってはいかん!!」


「え?! ぼ、僕は関係者ですよ?」


「嘘つけ!関係者と名乗って入るファンが多いんだ、だめだめ!!」




 はうう! なんてことでしょう!


 関係者なのに。


 しかもうっかり今朝は通行証明を忘れてしまいました。


 あうう。


 僕が入り口でオロオロしていると、ベンツらしき車が入ってきてその中から可愛らしい白鳥さんが出てきました。


「おはようございます」


 白鳥さんが柔かなその声で挨拶すると警備員の奴は「あ、ああ瑠璃さんっ、おはようございます」と何故か赤くなって、その場をどきました。




 この野朗~!


 お前絶対白鳥さんを女性だと思ってるなぁ!!


 よぉし!!




「おいっ、彼は男なんだぞ!」


 と僕は警備員に言ってやりました、ざまぁみろです!


 でもそんな僕の言葉などそれがどうしたという顔でその男は僕を睨みつけました。


「それがどうした、そんなの誰でも知っていることだろぅ。ははぁ、さてはお前は瑠璃さんの追っかけだな、だめだめストーカーは通行禁止」


 僕らが睨みあっていると白鳥さんは不思議そうな顔をして僕を見ます。


「春原さん、入らないの?」


「あ、ああ白鳥さ~ん今行きます~!」


 僕は白鳥さんに声を掛けられたのをいいことに、警備員を睨みながら甘えた声でそう言いました。




 ざまぁみろ~お前にはできないだろ~! ……ふふふ。




「え? 瑠璃さん、こ、こいつは新しいマネージャーか何かで?」




 ……がっくり。


 警備員の男は僕が白鳥さんと知り合いなのを知り驚いた顔をします。


「ええ? あはは、違うよ~彼は僕と同じ出演者、4月からの番組にレギュラーなんだよ?俺の相手の人!」


「こいつが?!」


 その素っ頓狂な声で僕は腹が立ちました。


 


 確かに僕の格好はみすぼらしいけどねっ……くそっ。




 僕はぼんやりと僕と白鳥さんを見ている警備員に心の中で舌を出しながらスタジオに入りました。


「全く酷いですよね~白鳥さん!」


 僕が少し拗ねていると、白鳥さんはくすりと笑いました。


「可愛いね……春原さん、あ、そうそう」


「はい?」


「俺の事白鳥さん、じゃなくて瑠璃って呼んでいいよ、みんなもそうしてる」


「え、あ、でも」


「いいからいいから、呼んでみて!」


「え、あ~瑠璃、さん……」


 僕が遠慮がちに言うと、瑠璃さんはにっこりと微笑みました。


「あ、それじゃ、僕も守でいいです!」


「うん、わかった!」




 スタジオに入ると既に滝川さんがいて、早速僕は神咲邸の室内のセットを見ました。


「す、凄い。これがお金持ちの家なんだなぁ」


 僕が素直に感動していると、瑠璃さんと滝川さんは顔を見合わせて笑いました。




 え? 僕変な事言ったかな?




 こうして邸内の撮りが始まりました!


 ミュートさんはアメリカ出身の外国人。けれど日本語が堪能で明るくて周りの人を楽しい気持ちにさせてくれます。僕らはすぐに打ち解けられました。


 久実塚役の塚本さんも穏やかな優しい人で、こういうドラマは初めてだと緊張していました。


 そして、ムーン!


 こいつのデブりをなんとかしてください。


 と思っていたらムーンはお屋敷に飼われている犬の役でした。


 むむっ、野良犬じゃないのか。生意気な!


 こうして本編の内容とは対照的に、穏やかにスタジオ内の撮影は進みました。


 あ~珍しく平和だぁ!


 明日は空港へGO!です。






NEXT りっ、隆二さん?




今日のご飯




ロケ弁。(お寿司おいなりさん)


緑茶。

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