第14話 命で戦う者

 ゴブリンとの修行を終え、一度ミレンのいる家に戻った。あの後、初めて修行というものを行った。一言で言えば、死にかけた。めちゃくちゃ疲れるし、あんなに辛いとは思わなかった。何度力尽きたか、覚えてすらいない。なので、実質今が休憩みたいな感じだった。

 

「お疲れ!カルマ。いやー、初日でよくあんなに動いたな。大したもんだよ!」

「ありがとう、イズ。そう言ってもらえると嬉しいよ」


 しばらくイズ達と話していると、奥の方から夕飯が出てきた。メニューとしては、何の肉かは分からないけど、丸焼きにした肉が出てきた。それもかなりデカい。それと、樽から溢れ出てきそうなくらいの酒が運ばれてきた。貴族の食事とはかなり異なっていた。

 

「さっ、どんどん食べていいよ」

ミレンが一声かけて、食事が始まろうとしていた。


「よーーし!今日は新入りの祝に、かんぱーーーい!!!」


 木のジョッキを片手に、かん!とジョッキ同士がぶつかり合い、食事が始まった。あの時は静かに淡々と食べていた。騒がしく、バカらしく、はっきり言ってこっちの方が楽しかった。

 くだらない行動で笑ったり、面白い話で盛り上がったり、何もかもが楽しい時間だった。


 時間はあっという間に過ぎていった。月の光がやや眩しい頃、外にある小さい池で疲れた体を洗った。ラス達はまだ飲んでいる。汚れた体を洗いたいという気持ちは、前世も今も変わっていない。

 水で体を洗っているけど、不思議と寒さは感じなかった。夏という季節ではないが、ほんのり暖かさを感じる。


 戻ると中の光が消えていた。辺りを見渡すと、外でラス達が寝ていた。中はそんなに広くないからだと思う。中に入ると、ミレンさんがいた。椅子に座っており、近くにカップがあった。


「部屋なら奥の部屋が空いているよ。そこを使うといいよ」

「あ、ありがとうございます」

「それじゃお休み、カルマ」


僕も「お休みなさい」と言い返して、奥の部屋で眠った。


 次の朝、朝食を済ませて少し休んだ頃、ミレンさんに呼び出された。一応、今日もラス達と修行の予定が入ってた。ラスに一声かけ、ミレンさんの方へ向かった。

 場所は昨夜行った池の所だった。こんなところで、一体何をするのだろうか。


「えっと、僕を呼び出した理由は………」

「ラス達から聞いたよ。強くなりたい意思があるとね。生命力を使う気にはなったのかな?」


 確かに、僕は強くなりたい。その意志は変わらない。昨日、修行をして尚更その意志は強くなった。だから、すぐに答えを出すことができた。


「はい。僕自身、強くなりたいんです。なので、生命力を使う覚悟はできています。お願いします。生命力について教えてください!」

「よし、分かったよ。それじゃ早速、始めよっか」


 僕の方に近づいて来て、ミレンさんが僕の胸に手を当てた。その瞬間、心臓辺りに物凄い力が加わり、激痛が走った。感覚で言うと、手で心臓を潰されているような感覚に近かった。死ぬような痛さだが、僕は死ぬことはない。

 ようやく力が弱まっていき、呼吸がしやすくなった。


「はぁ、はぁ。いっ、いきなり、何するんですか?!」

「いきなり痛い思いをさせてすまないね。でも、生命力を使うには必要な事だったんだよね」


 生命力は自分自身では使えないということなのか。そうなると、魔力を持っている人にはますます不便なものだと思った。


「今みたいに強引なやり方はしなくてもいいんだけど、何せが無いからね。強引な事をして、本当にすまない」


 何度もミレンさんは謝っているが、頼んだのは僕からなので、「気にしないで下さい」と一言言った。


 少し時間が経つと、自身に力がみなぎってくるのが伝わってきた。何でもできそうな感じだ。


「少し説明するね。今、私の生命力を送り込んだ状態になってる。これで感覚を掴んでもらう感じね。自分で使う時も心臓から出す感じね」

 

 言われてみれば、心臓辺りから全身にエネルギーが溢れている感じである。慣れない感覚だが、不思議と怖い思いはなかった。


「それじゃ、試しにそこの木に向かって攻撃してみて」


 指を指した方向を見ると、見るからに太い木があった。普通に殴ってもビクともしないような太い木である。

 右手に力を入れ、目の前の木に向かって思いっきり殴った。

『メキッ!!!!!!』とすごい音がして、後方に倒れた。途轍とてつも無い力に圧倒され、言葉が出ない。


「これが生命力の強さと言っても、まだまだこんなものじゃないよ。手の方に集中させて攻撃すると、さらに威力は上がるよ」


 試しに、手の方に集中させてみた。微かに生命力の量が増えたのを感じ、力がさらに漲ってきた。

 集中させる場所によって、自身の身体強化が変わるということだろう。


 ミレンさんが次々と生命力についての説明がされた。

 基本的に生命力は、攻撃力や速さ、感覚が研ぎ澄まされるなどの効果が得られる。魔法にも強化魔法はあるが、生命力の方が莫大なパワーを得ることができるとのこと。

 その代わり、生命力の使用には限界があり、大体10分で2年ほどの寿命が消えてしまう。なので、通常の人間には、最大で8時間ほどしか使えない。要するに、簡単に使える力ではない。

 僕は不死身なので寿命を気にせず戦う事ができる。デメリットとして、8時間以上の生命力を使い、不死身が解けた時どうなるか、誰にも分からないこと。

簡単に言うと、通常の場合『8時間以上使う』→『使い果たしそのまま死ぬ』。

僕の場合、『8時間以上使う』→『解けた時、すぐに死ぬのか』もしくは、『体の情報処理のため、時間差で死ぬ』のか。

 どちらにしろ、不死身の状態で生命力を使った前例が無いため、何が起こるかはその時になってみないと分からないとのこと。




 長い説明を受け、ある程度は理解した。しかし、生命力を使うと決めた事は、何を言われても止める気はなかった。

 ミレンさんの生命力がある内に、一回ミレンさんと実践することになった。内容は、攻撃を一度でも当てること。たったこれだけ。しかし、ミレンさんは歴史書にも出てくる魔女である。つまり、僕が攻撃を当てることは限りなく不可能に近いという事だった。

 そんなのは知ってる。最初から無理でも、やるだけやる。今は感覚や使い方を知ることのほうが優先である。


「さっ、私はいつでもいいよ。かかっておいで」 


 全身に一度、生命力を行き渡るようにした。背を低くし、攻撃する構えを取った。

 静かだった森が、まるで僕達を見てるかのように、騒ぎ出した。

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