第10話 疑い

 あの後、僕は姉さんの部屋にいた。外を見れば、日が沈んでいた。部屋に姉さんはいなく、イオもいなかった。今でも、あのクローゼットの中身をはっきりと覚えている。何なんだ、あれは。セルアの部屋に向かう前は、絶対に無かった。

 結局、男の言っていた『あいつ』の正体は分からないし、日本語が書いてある紙も分からなかった。そして、クローゼットからバラバラの死体、もう訳が分からない。

 異世界ってほのぼのした感じの生活と思ったが、全然ほのぼのとした感じじゃない。むしろ、過酷すぎる生活だった。日も経っていないのに、色々な出来事で心身とも疲れた。

 ため息をついた時、姉さんがドアを開けて、部屋に戻って来た。


「カルマ、大丈夫…?」

「大丈夫…、だよ。姉さん…、王宮内で何があったの?」

「私も詳しくは分からない、けど、これは大問題よ。王宮内はそう簡単に侵入できないし、そして雇っていた『メイド』が殺された。」

(メイドが、殺された?)

 僕は少し考えた。しかし、すぐに答えが出た。


「セルアの『メイド』か」

「何で分かったの?カルマとあんまり関わりが無くない?」

根拠は一つだけあった。昨日、今日でセルアとあった時、メイドを見なかったからであった。イオは言っていた。『僕とセルアはメイドがいる』と。しかし、部屋に行き、そこであった時はセルアのみ、メイドがいないのは、少し変だ。

 メイドと聞いて、セルアのメイドだけいなかったから、それで答えが出た。



 話を切り替えて、姉さんに今日やった事を、全て話した。と言っても、転生した事は話してない。

 処刑場に行った事。牢獄に行った事。なぜ、そんな事をしたのかを。それらを話した。姉さんは黙っていた。しばらく、静かな時間が続き、姉さんの方から話し出した。


「あそこって、基本的に立ち入り禁止なのよ。たとえ、貴族の私達でも。入れるのは、騎士の団長やお父様みたいな人達だけ。そこに入ったなんて。」

「ごめんなさい、姉さん。どうしても知りたいことがあって。」

「これに関しては、私も庇いきれないよ。それほど、問題になっているのよ。」

この後も、姉さんの話を聞いていた。その内容に、イオの事についても話していた。イオが戻って来ない理由は、立ち入り禁止の場所に僕を連れて行った事が原因らしい。その為、今は王様と話し合っているとの事だった。


 そして、僕もこの後、父と話をしなければならない事を姉さんから言われた。見当は大体ついている。僕も立ち入り禁止の場所に行った事だろうと思った。しかし、それだけでは終わらなかった。姉さんから衝撃の言葉が出た。『僕がメイドを殺した犯人の可能性が出た』と。一瞬、何を言っているのか理解できなかった。というか、僕は殺してなんかいない。殺す動機もない。なのに、なぜ疑われているのだろう。


 話によると、僕の部屋で死体が見つかった事。僕が気絶している間に、奥から血の付いた剣が見つかった事。これらが原因らしい。しかし、僕はやっていない。昨日は勉強と買い物をしていた。今日は、街を出てユウ君を助けたり、公開処刑を見なければならなかったし。

 そう考えると、僕が殺した事にしようとしてるのが、分かる。今すぐにでも、父に会わなければならなかった。姉さんの部屋を出ようとしたら、姉さんが僕の腕を掴んだ。


「何で腕を掴んでいるの?」

「ごめん、カルマ。さっきは行かないとだめって言ったけど、やっぱり行かないで。」

「何で止めるの?」

「私もお父様に言ったのよ。カルマはやってない昨日だって一緒に行動していたことも。けど、だめだった。あの状態じゃ、きっと酷い目に合う。そんなの見たくない。」

姉さんが、泣きそうな声で言った。権力が一番ある父に、僕が何をされるのかを恐れていた。しかし、このままでは話の流れは変わらない。変えるためには、正面から話し合う事しか、他に選択肢がなかった。僕は腕を振りほどいて、王がいる場所、玉座の間に向かった。


 玉座の間に着いた。そこには、王は勿論の事、母や他のメイド、この城の関係者と思われる人達が集まっていた。しかし、そこにはイオの姿は無かった。

 ゆっくりと進み、父の目の前まできた。大きな椅子に座る父。それに相応しい大きな体、雰囲気だけで伝わる父の威圧。今にでも逃げ出したいが、そんな事はできない。そして、父から言葉を発した。


「待っていたぞ、カルマ。話は言わなくても分かるな?」

「はい。勿論です。お父様。」

「早速質問する。カルマがメイドを殺したのか?」 

「いいえ、僕はそんな事をしていません。」

まずは、自分の意見をはっきりさせた。


「じゃあなぜ、お前の部屋から死体が見つかった?」

「…。分かりません。ですが、僕はイオと行動していました。昨日も今日もそうです。」

「そうか。なら、二人で殺したという可能性は?」

「そんな事、絶対にありません!!!」

すぐに返した。僕とイオは、共に行動し、昨日は姉さんとも行動していた。僕は父に、昨日の出来事、今日の出来事を話した。勉強や買い物、処刑。後は言えないが、少なくとも、これだけ言えば、殺すタイミングなんてないことがわかる。


「カルマ、何か言い忘れたことはないか?嘘はいらない。」

「ごめんなさい、お父様。今日、処刑場と牢獄に行きました。」

「あそこは立ち入り禁止のはずだ。それなのに、行ったという事は、メイドを殺す凶器を持っていくため、それで繋がると思うが、どうだ?」

「全然違います!!僕は処刑された男の言葉が気になって、それを調べるために…。」

「なぜ、お前がそんな事をする必要がある?それと、あんな男の言葉を信じるな!!!」

「確かに、僕がする必要はありません。それと、僕は死体を発見する前、セルアの部屋にいました。その後、その死体を見たのです。それは、どう説明するのですか?単純に考えて、やっていないことが分かると思います。」


「なるほど。確かに言う通りだ。じゃあ、なぜセルアの部屋に?」

「それは、男の言っていた『あいつ』がセルアだと思ったからで……。」

その瞬間、僕を目掛けて剣を投げつけられた。幸にも、スレスレで当たらなかったため、怪我はしていない。しかし、一ミリでも右にズレていたら、絶対に当たっていた。


「カルマ、信用のない奴の言葉を信じ、況してや弟のセルアを疑うなんて、見損なったぞ。」

「僕は、まだセルアが犯人とは言って……。」

「そもそも、セルアを疑う要素は何一つない。処刑場には行けない、魔法もまだ使えない、犯人の可能性としては、一番無いのではないか?」 

言われてみれば、その通りだった。セルアは処刑場には行けないことから、大体5才くらいだと予想がつく。イオの情報から魔力測定は来年辺り。魔法が使えないのも説明がついた。そういう結論になれば、犯人である可能性があるのは、必死に説明している僕が疑われる。


「弟を疑う、殺したことも認めない。これは、罰が必要だな。」

ここまで言っても話を聞いてくれなかった。『絶対殺した』父の中で、そう確信しているのが分かった。胸糞が悪い。流石に耐えれなくなり、強く反抗した。


「何で話を聞いてくれないのですか!!!僕は違うって言ってるのに!!しっかりと説明もしました!!それを踏まえてでもですか?考え直すとかないんですか!!実際にいなかったくせに、知ったような口を言ってんじゃねえよ!!!このクソ野郎!!!」

最後の方だけ、敬語で言っていなかった事にすぐに気づいた。しかし、気づいた時にはもう遅かった。周りは騒がしくなり、父の様子も一変した。


「口の聞き方がなってないな、カルマ。」

「あの、これは……、。ごめんなさ、」

「お仕置きだ!!!!!」

父の怒りを買い、二人の騎士に掴まれ、玉座から離された。

 

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