第8話 ドクズチンカスヤロー




 親父に連れられてリビングのテーブルに座らされた。


 台所にはカウンター越しに母親が見える。


 こっちを気にしている様子だが、特に会話に入ってくる気はなさそうだ。


 親父が俺の正面に座る。


「どうだ、最近は?学校は楽しいか?」


「あぁ、まぁ、ほどほどにな・・・」


 何となく気まずい雰囲気が流れている。


「そうか・・・」


 親父は一つ咳払いをして、話を続けた。


「昨日、隣の筧の、伸晃の家にお邪魔した・・・」


 今親父が言った筧伸晃かけいのぶてるは風美の父親で俺の親父とは幼なじみの間柄だ。


 その関係もあって、俺と風美は生まれた時から一緒だった。

 

 だから当然、俺と風美が付き合っている事も知っている。


 風美の家に行ったなら、話の内容は大体想像できるな。


「お前、風美ちゃんと別れたのか・・・」


 別れた、別れたか・・・


「・・・あぁ、そうだ」


「何で別れた?」


 ぐぅ・・・流石にこれは答えにくい・・・


「子供のする事、やった事に一々親が口出ししていたらキリがないとは思う。ましてや、お前達は高校生だ。ある程度の物事の判断が出来ると思っている。ただ、今回は別だ。別れた理由をお前の口から聞きたい」


 親父のこの口ぶりから既に伸晃さんから別れた理由を聞いているのかも・・・


 風美がチクる事はないとは思うけど、どうするか・・・


「性格の不一致や、相手に対して気持ちが冷める事もあるかもしれない。でも、そんな事は別に恥じる事ではない」


 そういう理由だったら俺もここまで沈黙してない。


 しゃーない、腹をくくるか・・・


「・・・俺が、」


「ん?」


「俺が浮気して、それがバレたから・・・」


「・・・・・・・・」


 親父は俺の言葉を噛み締めるかのように目を閉じた。


 そして、大きく深呼吸をする。


「そうか・・・」


 そう言うと、親父はテーブル越しに俺の胸倉を掴んだ。


「このッ、バカ息子がッ!!!!!」


 俺は親父に拳骨で頬を殴られ、椅子ごと後ろに倒れた。


「勝ッ!」


 母親が俺へと駆け寄る。


「あ、あなた・・・あまり、暴力は・・・」


「お前は黙っていろッ!」


「―――ッ!」


 親父に一喝された母親はそのまま黙り込んだ。


 俺はこの女に何も期待していない・・・


「今から伸晃のところに行って謝るぞ。来いッ!」


 俺はそのまま親父に引きずられながら、風美の家に行った。


 母親は付いてこない


 玄関先にはおじさんとおばさんだけが出てきて、風美は出てこなかった。


 親父はそのまま土下座し、俺も土下座させられた。


 おじさんとおばさんは何とも言えない表情をしていた。


 怒りや呆れが感じ取れたが、一応許してもらえた。


 多分、親父の体裁があるから形式上許したって感じだった。


 本心ではどうだか分からない。


 謝り終えて家に戻ってくると、親父が


「今月からお小遣いなしだ。俺がお前を甘やかし過ぎていたみたいだ。これからは厳しくいくからな・・・」


 そう告げた。


 痛い。毎月5万円貰ってた小遣いがなくなるとやれる事が限られる。


 一応、全部の小遣いを使い切ってはいないので、節約すれば何とかなるが、いきなり、俺にそんな事が出来るのか・・・?


 学校の行事等でお金がいると嘘を付く事も考えたが、その考えは親父に見透かされていた。


「どうしても学校などで金が必要になったら領収書を持ってこい。それがなければ一切金は出さん!」


 まぁ、そりゃそうだよな。


 はぁ~、物理的にも頬が痛いし、この状況は痛すぎる。


 しかも、また月曜日から女神が架した善行を行なわなければならない。


 やらなければまたあのような悪夢を見させられる。


 あんなものもう二度と見たく無い・・・


 当分の問題はそれだな。


 ほんと、善行って具体的に何すればいいんだ?


『忘れているか知らないけど、アナタの浮気相手の美城沙羅も同じ状況よ。お互い情報交換でもすれば少しはマシになるんじゃないかしら?』


「そう言うなら女神のアンタが教えてくれればいいんじゃないか?」


『最初にも言ったけど、そういった協力は一切しないわ。多少の補足はすれど、問題解決のヒントなんてしないわよ』


「・・・ケチ・・・」


『何とでも言いなさい、このドクズチンカスヤローがッ!』


 き、急に口悪いなぁ・・・


 休日の朝から色々あって、二度寝する為にベッドに転がりこんだ。


 金の制限が出来た事によって、出掛けられず、俺はそのまま土日をダラダラと家で過ごしながら、善行について考えた。


 そして、あっという間にまた憂鬱な月曜日を迎えた。

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