第3話 まごうこと無きクズとビッチよ





 わたしは目が覚めると見知らぬ場所にいた。


 確か自分の部屋のベッドで寝たはずだけど・・・


 意識はあるけど、体の感覚がない。


 首から上は動かせそうで、自分の体を見ると輪郭はあるものの、体は白く光っている。


 周りを見渡しても何もなく、ただ白い空間が広がっているだけだ。


「おい!沙羅!」


 わたしを呼ぶ声が聞こえたのでそちらに振り向くと今一番会いたくない人物がいた。


「・・・勝。なんであんたがいるのよ・・・」


「それはこっちのセリフだ。なんで沙羅がいるんだ?っていうかここはどこだ?」


 そうだ。勝がなんでいるのかも疑問だけど、ここがどこなのかが最大の疑問だ。


 しかし、体が動かない今の状況で出来る事なんて限られてる。


 勝に今日の事で少しでも文句でも言ってやろうと口を開きかけた時、わたしたちの目の前に大きな光が現れた。


『ようこそ、矢内勝と美城沙羅。ここはわたくし、愛の女神の亜空間よ』


 光の中から現れたのは目を見張る程の絶世の美女だった。


 古代ギリシャ神話の女神たちのような出で立ちの彼女は、自称愛の女神と名乗った。


 女神のような恰好をした絶世の美女が女神を名乗った。


 何も間違っていないと思うけど、納得なんて出来ない。だって、この状況が意味が分からなさすぎる。


「へぇ~、愛の女神様ねぇ・・・」


 横の勝を見ると明らかに鼻の下を伸ばしている。


 この男はほんとに呆れて物も言えない。


 今日あんな出来事があったのにもう他の女に目がくらんでいるの?


 風美の事が好きじゃなかったの?この男は・・・


「愛の女神様と言いましたけど、わたしたちはなんでこんな場所にいるのですか?家に帰してはもらえませんか?」


 とりあえず、目の前の超常の存在を理解する必要なんてない。わたしは家に帰れればいいだけなのだから。


『安心しなさい。家にはちゃんと帰してあげるから。アナタたちの肉体はそれぞれの家で寝ているわ。アナタたちの思念体だけをこの世界に持ってきたの。ちょっとお話がしたくてね』


「話だけとは言わず、色々体で語り合いましょうよ。お互いの体で」


 この男はほんとに何を言っているのだろうか。


 能天気にもほどがある。


 今のこのよく分からない状況で目の前のよく分からない存在を刺激しないに越した事はない。


 こんなヤツだから今日も散々な思いをした。


 あんな状況でも反省の色を見せて謝ればもしかしたら許してくれたかもしれないのに。


 優太はいつだってわたしに優しかった。


 わたしがどれだけ我儘を言っても、全て受け止めてくれた。


 今回だって何とかなったかもしれなかったのに・・・


『だまりなさいッ!このクズがッ!』


 わたしが思考の海に潜っていると、愛の女神様は先ほどの慈愛に満ちた笑顔から、目をクワっと見開き、修羅の如き表情に変わった。


『本当にやってくれたわね、アナタたち。わたしくはね、ずっと見ていたのよアナタたち四人を。親同士が親友で生まれた時から一緒の矢内勝と筧風美。小学校1年生の時に道山優太が美城沙羅の隣に引っ越して以来一緒の二人。それぞれ別々の地域で成長し、時期は違うけどそれぞれが中学生の頃には付き合いだし、四人共同じ高校に進学し、幼馴染カップルとして校内でも有名になり、四人共同じクラスになり、お互い意気投合して度々遊びに出掛ける仲になったアナタたち四人をずっと見ていたのよ』


 驚いた。わたしと優太の情報は正しい。


 勝と風美の関係も大体合っていると思う。


『それぞれのカップルが仲睦まじく、四人で楽しそうに過ごしている姿は見ていてとても微笑ましかったわ。なのに、なのに・・・オロロロロ~ン! 浮気するとはどういう了見じゃ! しかも知らない相手とならまだいざしらず、友達の相手同士で浮気するとかどういう事じゃあぁぁぁ! オロロロロ~ン、突然のNTRにわたくしの脳は破壊されたわぁ、純愛を愛する愛の女神よ。NTR耐性なんてないわよ。オロロロロ~ン、天界も略奪愛する頭のおかしい奴らばかりだから、地上を観測していたのに・・・こんなにえぐいNTRを見せられるとは思わなかったわ。あぁぁ、NTR滅すべしッ!』


 女神様は途中から口調が変わって、わたしたちを攻め立てた。


「勝手に見といて勝手に失望されても困るんですけど、ってか見てたら止めて下さいよ。女神様なら何とか出来たんじゃないですか?」


『はぁぁぁぁ?自分から浮気しといてわたくしを攻める訳?いい度胸してるじゃない、このビッチがッ!アナタたち二人には相応の罰を与えようと思っていたけど、その考えは間違いじゃなかったわね。実際話してみてもアナタたち二人はまごうこと無きクズとビッチよ』


 ビッチなんて心外。勝がクズである事は分かるけど。


「おい、罰ってなんだよ、女神様。確かに俺たちは悪い事をしたかもしれないけど、他人のあんたにとやかく言われる謂れはないぜ」


「そうよ、そうよ!」


『だまらっしゃいッ!愛の女神であるわたくしの脳を破壊した罪は重いわよ。アナタたちに拒否権はないわ。フフフ、せいぜい楽しみにしてなさい。地獄の苦しみを味合わせてあげるわ』


 女神様がそう言い終わると、わたしたちの体は輝きを増し、わたしの意識はそこで途切れた。



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