終末世界の戦闘狂死曲〜失われた聲を探して~

ふぃるめる

第1話 灰色の都市

 の侵入により世界が崩壊しだしたその日、玻璃がらすひび割れるような甲高い耳障りな異音が世界中で響き渡った。

 そして罅割れた空から世界に灰の雨が降り注ぎ一夜にして地上から色が消えた。

 それももうずっと前のこと―――――

 

 「何してるの?そろそろ出発するみたいよ」


 人々から忌み嫌われる灰青アッシュブルー色の髪を揺らした少女は、抑揚のない声で物憂げな表情をした少年に呼びかけると自らの戦術装騎兵タクティカルアーマキャヴァリィに乗り込んだ。


 「もんそんな時間か……」


 崩壊した高層ビルの狭間の一角に降下した彼らはつい先日、この廃都市『東京』に現れた衝突面エントランスの調査に来ていた。


 『各機、今一度通信状況を確認する』


 ヘッドセットに響く声は、この独立502戦隊の戦隊長を務めるステアー大尉の声だ。

 

 『私が名前を呼んだら返事をしろ。グリズリー、ウェルロッド』


 ステアーが順に名前を呼んでいく。

 グリズリーは、対物ライフルを装備した機体に乗り込む歴戦のパイロットでステアーを除けばこの戦隊唯一の古参だった。

 次に呼ばれたウェルロッドは、地対空誘導弾を装備する対空機体を操る戦闘団では最大火力の女性パイロット。


『それからシプカ、レン』


 ステアーは二人の名前をまとめて呼んだ。

 シプカは灰青色の髪の少女でレンは戦隊の中で最年少の16歳だ。

 戦隊内では共にタッグを組み近接戦闘を行う軽量で高機動な機体を操っている。

 ちなみに二人は同じ孤児院の出身でステアーに命を拾われた身だった。


 『問題ありません!』


 レンが最後に幼い声で復唱するとステアーは、『そうか』と満足そうに言った。

 僅かに五人、戦隊としては少ないのでは?と思うかもしれないが他にもメンバーいる。

 定員十五人程の小規模の独立戦隊で、このところの異空間虚構体フォーリナーとの連戦で定員を大きく割り込んでいた。

 生き残ったのはここにいる五人と、作戦後に緊急搬送された二人だけ。

 戦隊は半壊状態だった。

 

 『これより、鉄道沿いにタチカワエリアへ向かう。昨日偵察に行った部隊が壊滅した地域だ。くれぐれも油断するなよ?』


 ステアー機から各機へと航空写真や衝突面エントランスの画像が送られる。


 『偵察部隊の最後の通信によれば確認された異空間虚構体フォーリナーは、カテゴリーⅠの飛翔タイプとカテゴリーⅢの鬼人オーガタイプが数体らしい』

 『やはり断層帯なのかしら?』


 ウェルロッドは、機体内に表示されたタチカワエリアの地図を見ながら言った。


 『そうだとしたら断層帯全域が衝突面エントランスという恐ろしい話になるな』


 タチカワエリアの断層は長さ33キロ、そんな衝突面エントランスがあるのだとしたらこれまでに前例のない規模となると、グリズリーは肩を竦めた。

 

 『悪い冗談だわ』


 ウェルロッドは、コックピット内に表示させた過去の衝突面エントランスの大きさと異空間虚構体フォーリナーのカテゴリーに目を通しながら言った。

 これまでの例では、衝突面エントランスが大きければ大きいほどカテゴリーの高い異空間虚構体フォーリナーが出現することが多かった。

例えば二年前のヴェスヴィオス火山火口に出現した衝突面エントランスにおいてはカテゴリーⅣが、さらにその前にパールハーバーの衝突面エントランスにおいてもカテゴリーⅣが出現していた。


 『対処不可能であれば、帰還用の機体で離脱出来るよう手筈は整えてあるから安心しろ』


 そんなやり取りをするうちに彼らは、タチカワエリアへと到着した。


 『壊滅した部隊の残骸を発見』


 傾いたモノレール駅の上にひしゃげた機体があった。

 感情を消し去ったようなシプカの声がヘッドセットに響く。


 『回収要請は必要無さそうだな』


 ステアーは冷静に傍に降り立ち機体の損傷具合を確認した。

 機体は脚部が激しく損傷しておりコックピットも揉み潰されたように形状が酷く変わっていた。


 『記録映像の確保も無理そうね』


 ウェルロッドは、コックピットから出て損傷機のコックピットを開けて記録装置を弄るがすぐに諦めた。

 ただ彼らは共通の疑問を抱いていた。

 この全高5メートルはある戦術装騎兵タクティカルアーマキャヴァリィを握り潰せる異空間虚構体フォーリナーの存在など知らないと――――。

 しかし彼らはこのすぐ後、その疑問の答えを知ることになるのだった。


――――――――――――――――――――

†キャラ紹介†


この作品の主人公レンを除く戦隊のメンバーの名前は実は全員銃の名前からつけています。


・独立502戦隊(通称『黒鴻鳥ブラックストークス』)戦隊長 ステアー・シグリッド大尉 年齢26 容姿は炎髪灼眼。


・グリズリー 元レンジャー部隊出身だがその出自は不明。シルバーアッシュの短髪で年齢は38。


・ウェルロッド 垂涎ボディーの持ち主。本人以外誰も年齢を知らない。レンにとってはお姉さん的な存在。


・シプカ ロングの灰青アッシュブルー色の髪が特徴的。口数が少なく心を閉じてしまった少女。時折、レンに対して心を開く。

年齢は17。


・レン 黒髪の少年。一人称は僕(変更するかも)。あどけなさを残す容姿だが戦闘狂な一面を持つ。身長がそれほど高くないのが悩み。16歳。高等教育を受ける年頃だが本人の希望でシプカとともに戦術装騎兵になることを希望した。

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