第32話 クズの命令

 目の前に奇跡が広がった。


 性欲値の色が黒だと通常の異性好き、赤は同性好きだ。


 では目の前の王女の数字の色は一体何なのか。


 赤でも黒でもない、ピンク色だ。


 一見赤色にも言えるが、赤は真っ赤な色に対して、今の王女は白に近いピンク色だ。


 というか、黒からピンク色に変化したのだ。


 このようなケースは初めてというか、そもそも異性好きに同性をぶつけたのが初めてなのだが、もしかして同性同士で目覚めさせる事が出来るのか?


 検証は出来てないが、感覚的には、今の王女は両方にいける感じがする。ピンク色はそういう意味なのだと感覚的に確信した。




「スタン」


「は、はい! 兄貴!」


「お前達はクレイよりも早く、王女の絶頂を見てしまったな?」


「で、ですね…………」


「もしそれをクレイが知ったら?」


「こ、殺されちゃいます!」


「そうだな? これで我々は共犯だな」


 5人が俺の笑みの意味を汲み取って震え始めた。


「今日の夜。店に来る事」


「で、でも!」


「ほぉ……拒否するのか?」


「ゆ、許してくれるんじゃ……」


「少し許してやったんだよ。だから、あまり俺を怒らせない事だな。王女と同じく、俺の怒りが静まった暁には、お前達も正常・・に戻してやるからよ」


「わ、分かった…………」


 5人は肩を下ろして、うちを後にした。




「ハンナ。お客様2人が眠っているから部屋の掃除を頼む」


「かしこまりました」


「他の子は入れないように」


「はい。存じております」


 ハンナは気が利くメイドなので、あの惨事・・をまだ幼いメイド達には見せないようにしてくれる。


 洗濯自体はさせるけど、まだ見せるのは早いと判断したからだ。


 ステラは元々詳しいというか、ああいう感じだったので、ハンナと一緒に手伝いをする。


「あ、服は着せておいて」


「かしこまりました」


 起きてすぐにまたやったんでは一生続くからな…………。


 ん~、3時間を12時間に変更しておこう。


 実はレベル6で手に入った『性欲値条件指定』は、対象と離れていてもいつでも変更可能だ。


 さらにこのスキルの素晴らしいのは、施した人間がどこにいるのか、いつでも知る事が出来るのだ。


 感覚的に頭の中に地図に近い模型が広がっていて、そこで指定者がどこにいるのか確認出来、指定者の性欲値を常に確認する事も出来るし、ここから条件指定の内容もいつでも変えられる。


 条件を『今すぐ性欲値○○%に変更する』を使えば、遠くから性欲値を強制的に変える事も出来るのだ。




 朝日がお昼に差し掛かった時間にクルナさんが帰ってきた。


「クルナさん。大部屋には入らないようにね」


「あら? お客様来ているの?」


「うん」


「分かった~あ、ベリアルくん!」


「ん?」


「私もいつでもいいからね?」


「あ、あはは……ありがとう」


「うふふ。じゃあ、私は寝て来るね~」


「おやすみ~」


 すっかり仲良くなったクルナさんとは、フレンドリーに話すようになっているし、ときおり交わったりしたりしなかったり。




 それはそうと、性欲値0%の凄まじさを体験出来た。


 実は俺自身が0%を目の前で体験したのは初めての事なのだが、効果の高さに驚いた。


 知ってはいたのだが、0%にするだけで、目の前にあれが繰り広げられても全く反応しない。まさに無反応。心の中すら何とも思わないのだ。


 あんな美女2人の共同作業をあんな冷静に眺められるなんて、俺が思っていた以上に0%の効果は抜群かも知れないな。


 スタン達や王女が必死になるのも頷ける。クズ大家だってあれのためだけに土地を差し出したしな。納得だ。




 ◇




 お昼過ぎ、恥ずかしそうに2人が降りてきた。


 片方にはピンク色の0%、片方には赤色の0%だ。


 2人に向かいのソファーに座るように伝え、紅茶を出してあげる。


「王女様よ。言っておきたい事と、これからの事を伝える」


 王女が息をのむ。


「まず一つ目は、王城に戻ったら『ゲラルド』という衛兵長に俺の名前の名前を伝えて、出来る限り離れずに生活しろ」


「っ!?」


「ミーナとのお楽しみの時もだ」


「な、何故そんな事を!?」


「それを話すつもりはない。ゲラルドには全て伝えてある。彼の事は気にしなくていい」


「…………」


「それとお前さん達に一つ呪い・・を掛けておいた」


「「呪い!?」」


「12時間毎に先程の呪いが発動する。条件は同性の裸を見た時だ」


「くっ……」


「ちなみに。同性なら誰でもだ。この意味が分かるな?」


「…………私はともかく、ミーナもなの?」


「ああ。彼女には褒美・・だ」


「あれが褒美なモノか!」


「ふ~ん。あんなに楽しそうにやってたじゃないか」


「そ、それは…………」


「あれをやることで、12時間は興奮しなくさせてやった。これならお前さんも仕事がやりやすくなるだろう?」


「…………」


 今まで200%でずっと我慢して仕事をしてきた身だろうからな。


「定期的に彼女の相手をしてあげないと大変な目に遭うぞ? 王女様」


「…………分かった。ミーナのためなら私も頑張れる」


「姫様…………」


「でも一つだけ約束して!」


「なんだ?」


「貴方の怒りが静まったら、その時はちゃんと勇者様のやる気を戻して!」


「あ~その事か。もちろんだとも。また同じ事になるが、俺は絶対約束は守る。心配するな」


「っ…………そ、それと…………」


「あ~それも心配するな。スタン達にも言っておいたが、今日のは決して口外しないと誓おう」


「…………ありがとぉ」


 王女が帰り、ようやく始まった復讐に自然と大きな笑い声が込みあがってきて、家中に俺の笑い声が鳴り響いた。



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