第17話 ユーリ

 日がすっかり落ちて、夜になった。


 ベッドの上にはぐったりと力尽きて眠っている裸のユーリが見える。


「ん…………ん? …………あれ? ここ……どこ?」


「起きたか」


「はへ? ………………!?!?」


 起きたユーリが布団を引き寄せて自分の身体を隠す。


「あ、あの…………!」


「うん?」


「そ、そ、その……!」


「可愛かったぞ」


「あ、あぅ…………」


 顔が真っ赤に染まるユーリが声にならない声で何かを話そうとするが、全く聞こえない。


「心配するな。今回の事は全て無かった事にしよう。君の初めてを貰ってしまったからな」


 ますます顔が真っ赤になって俯く。


「まあ、食事でもしていくといい」


 彼女の服を着る時間を与えるために、先に2階からリビングに降りて、簡単な料理を作って待つ。


 恐る恐る降りて来た彼女は、ちょこんと椅子に座り込む。


 その仕草が可愛らしいというか、どこかミーシャさんを思い出すような可愛さだ。


「あまり料理は得意じゃなくてな。簡単なモノですまない」


「い、いえ! 私もあまり得意じゃないので、こういうのとても好きです!」


 簡単な食パンにジャムなどを並ばせ、切った野菜を並ばせる。


 パンの上に好きな野菜を載せてパクっと食べて行く。


 昼から続けていたプレイから、彼女がそれなりのお金持ちの家――――というより、貴族である事を知った。


 こんな質素な食事に怒る事なく、むしろ興味ありげに真似てパクパク食べ始める。


「ん! 意外と美味しいです! 素朴な味わいかと思ったら、野菜も美味しいし、ジャムもとても合います!」


「それはよかった。簡潔にだが、俺はこの食べ方が一番好きだな」


 ふふっと笑みを浮かべるユーリが可愛らしくて、一瞬ドキっとしてしまう。


 最初は敵意むき出しだったが、今では穏やかな表情に戻ると、道を歩いていても振り向くほどの美人だと思う。


 食事を食べ終えると、皿を運んで洗い始める。


 こういう所も貴族子女とは思えないくらいだ。


 不思議そうに眺めていると、俺の視線に気付いたように彼女は答える。


「私のお母さんは庶民なんです。時折こういうのは教わっています。ですので皿洗いとかも好きです」


 母上の方針だったか。


 これでますます正義・・とやらに納得がいく。


「今日はもう遅くなったから、送っていこう」


「へ?」


「外」


「…………えええ!? もう夜になったんですか!?」


 全く気付かなかったらしい。


 すぐに顔が真っ赤に染まるのは、初めてなのに長時間楽しんだ事を思い出しているのだろう。


「もし困った事があるなら、俺を頼るといい」


「困った……事…………ですか?」


「ああ。例えば、今日の無断欠勤とかな」


「あ…………そうでした…………」


「多分だが、魔法ギルドの上司にもうちの店を愛用しているやつは絶対にいるはずだ。俺なら話を付けられる」


「…………」


「正義もなにも、利用出来るモノなら利用する。でもこれだけは言っておく」


「……なんですか?」


「俺は確かにクズで正義なんてクソ喰らえくらいしか思ってないが、だからと言って誰も彼も食い物にするつもりはない。ちゃんと受けた分は返してやるさ」


「…………裁判官のようにですか?」


「そうだ。うちの店のセリスさんと言えば、ナンバーワン嬢だから、そう簡単に会える訳じゃない。だが俺の一言があれば、絶対に会える。それはお互いに良い事になるという事だろう?」


「そうですけど…………力の濫用なんじゃ……」


「ふん。それがどうした。力の正しい使い方なんて、人それぞれだ。それに俺にはこの力で得た大きな事がある」


「大きな事ですか?」


「ああ。君の悩みを解決出来るという点だ」


「っ!」


 悔しいのか、それとも恥ずかしいのか、真っ赤に頬を染めて俯く。


「一回やったくらいで君を手に入れたと自惚れるつもりはない。だがこれから良い関係を続けたいのは本心だ。いつでも俺を頼っていいぞ」


「…………はぃ」


 そのあと、彼女を家まで送る。


 向かう間、一言も話さなかったが、それでもお互いの距離が近づいた気がする。


 念の為、彼女の性欲値を40%くらいに上げておく。


 それにしてもまさか普通の人の中に性欲値5%が存在しているなんて、想像だにしなかった。




 彼女を交わって、彼女の事は沢山聞かされた。


 婚約者と初めての夜。


 全く濡れない彼女に最初は頑張っていた婚約者も段々怒り始め、最終的に侮辱していると彼女に激怒。


 婚約もなくなり、家の関係も修復不可能な状態に陥ったそうだ。


 その事から、父親からも見放され、家の政略結婚にも行けず、あの時の噂が広まり、男も女も近づいてこない生活を送るようになったそうだ。


 それでも懸命に生きて来たのは、自分が信じた正義を貫きながら、母親の支えがあったからそうだ。



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